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黒と白の異世界物語  作者: 如月
第二章 ノルディア剣魔大会
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第17話 力の意味、技の形

朝日が昇りきるより早く、俺たちは庭に立っていた。

 

 魔法の練習をしてから二ヶ月。

毎日の訓練が、当たり前になっていた。

 今日は父さんと剣の稽古だ。

 

 父さんは木剣を片手に持ち、黙ったまま俺を見ている。

 その目はいつもみたいな優しさを一切含んでいなかった。


「今日からは、本気でやるぞ」


 低い声が、空気を震わせた。


 横ではマユが母さんと魔法の練習をしていた。

 以前と違い、母さんの指導は一切容赦がない。

 失敗すれば即座に指摘され、魔力操作の癖すら細かく矯正される。


「もう一度! もっと意識を細く絞って!」


「は、はいっ!」


 必死に応えるマユを見て、俺も気を引き締めた。


 ――もう、手加減なんてない。


「行くぞ」


 その言葉とともに、父さんが踏み込んできた。

 木剣を正面から叩き込む。


「くっ!」


 防御は間に合った。けど、腕にズシリと重みが残る。

 一撃一撃が、前とは違う。

 本当に“折りに来てる”みたいな、そんな圧だ。


 何度も何度も打ち込まれ、俺は地面に膝をついた。


「立て、リオ」


 短く、静かな声。


 俺は歯を食いしばり、立ち上がった。


 

 数時間後。もう夕方になっていたが訓練はさらに苛烈さを増していた。


 父さんがふと、空中に手をかざす。

 すると、何もない空間から裂け目が生まれその中から剣が飛び出した。


「な……!?」


 俺は思わず声をあげる。


「これは『スフィア』の応用だ。スフィアはただの便利スキルじゃない。」


 

 飛び出した剣は、俺の顔面目がけて一直線に迫ってきた。


 ――避けられない。


 身体が本能的に悟った。


 考えるよりも早く、俺は手を突き出していた。


 瞬間、空間が震えた。


 裂け目が生まれ、飛び出してきた剣ごと、その中に呑み込んだ。


 ピシャリ、と音を立てて空間が閉じる。


「……っ、はぁ、はぁ……!」


 俺のスキル『コピア』

 見たものを模倣するスキル。

 戦闘で使うのは初めてだったけど上手くいった……


 父さんは数秒の沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。


「……リオ、お前、俺のスフィアを真似したのか?」


 俺は小さく頷く。

 

 父さんは俺をじっと見つめた後、ふっと息を吐いた。


「……すごいな、お前」


 呟くような声だった。


 嬉しさと、驚きと、ほんの少しの悔しさが混ざったような、不思議な表情をしている。


「俺がスフィアを使いこなせるようになるには何年もかかった。それを、スキルありきとは言え一瞬で……」


父さんは、わずかに首を振ると、ゆっくりと俺に歩み寄った。


「リオ、お前の『コピア』は、ただの模倣じゃない。使い方次第で、本物を超える力になる」


 その声は、静かだったけれど、重みがあった。


「……だけどな」


 父さんは俺の肩に手を置いた。


「模倣は所詮、模倣だ。本物を超えるためには、お前自身の“型”を作らなきゃならない」


「型……?」


「そうだ。コピアに頼るだけじゃなく、自分の力で技を練り、磨き、そして――創るんだ」


 父さんの目が、真っ直ぐに俺を射抜く。


「創ったとき、それで初めてお前の力となると、俺はそう思う」


 俺は、父さんの言葉を胸に刻み込んだ。


 コピアは確かに強い。けど、それに甘えているだけじゃ駄目だ。  ――俺自身の技。俺だけの戦い方。


 胸の奥で、何かが静かに燃え上がるのを感じた。


「わかった……。俺、自分の“型”を作るよ」


 言葉に出した瞬間、心が決まった気がした。  父さんは微かに笑って、ポンと俺の肩を叩いた。


「よし。それじゃあ、今日からはそれも意識して稽古をつけるぞ」


 その時、ふいにマユの声が聞こえた。


「お、終わりました……!」


 ゼエゼエと息を切らしながら、両手を膝についているマユ。  母さんは厳しい表情を崩さないまま、そっと彼女の肩に手を置いた。


「よく頑張ったわ、マユ。今日はここまで」


「は、はいっ!」


 マユの顔に、安堵と達成感が入り混じった笑顔が広がった。


 父さんもそれを見て、俺に向き直る。


「リオ、お前も休め。今日の最後にひとつだけ、覚えておけ」


「え?」


 父さんは木剣を軽く肩に担ぎ、夕陽に染まる空を見上げた。


「力を磨くのは大事だ。だが――力を“振るう理由”を、絶対に見失うな」


 その横顔は、どこか遠いものを見ているようだった。


 ――力を“振るう理由”を、絶対に見失うな。


 それは、ザードに言われたあの言葉と重なる。


「力をどう使うか、誰のために使うか――それは君の選択だ」


 あの日、ザードは言った。


 力を持つということ、それは時に、重くのしかかるものになる。

 だからこそ、自分で選ばなきゃならない。


 何のために、誰のために、力を振るうのかを。


(俺は――)


 胸の奥が、静かに熱くなる。


 剣を握る手に、少しだけ力が入った。


 まだ答えは見えない。

 でも、確かに、心の中で何かが芽生えている。



 訓練を終え、汗で湿った髪をかき上げながら、俺はマユのもとへ歩み寄った。


「マユ、お疲れ」


 声をかけると、マユは顔を上げ、少し照れたように笑った。


「リオも……お疲れさま」


 そう言って、マユは目を輝かせる。

 その目に、自分の頑張りを認めてもらえたことへの喜びと、少しの憧れが混ざっているのがわかった。



「マユもな。母さんにあんなに絞られて、よく頑張った」

 


 俺がそう言うと、マユは嬉しそうに顔を赤くして、ふるふると首を振った。


「まだまだ、全然……。でも……私、もっと頑張る」


 ぎゅっと拳を握りしめるマユ。

 その小さな決意に、俺も自然と笑みがこぼれた。


「……俺もだ。お互い、負けないように頑張ろうな」


「うん!」


 元気よく頷いたマユと一緒に、俺は庭をあとにした。


 

 家に戻ると、ちょうど母さんが晩ご飯の準備を終えたところだった。

 テーブルに並ぶ料理の匂いに、思わず腹の虫が鳴る。


「さあ、食べましょう」


 母さんの言葉に促されて、俺たちは席に着いた。


 みんなで手を合わせて、「いただきます」と声を揃える。


 温かいスープに、香ばしい焼き魚、それに山盛りの野菜。

 毎日見慣れた光景なのに、今日だけは、少し特別なものに感じた。


 夜。夕食の席。

 湯気の立つシチューを口に運んでいると、父さんがふと口を開いた。


「そうだ、リオ、マユ」


 二人して顔を上げる。


「ある程度動けるようになったし、近いうちにオムイスとカロイとの模擬戦をやるぞ」


「えっ……!」


 マユが目を丸くする。


「本番は2対2だからな。リオ、お前とマユで組んで戦うことになる」


「二対二で、オムイスたちと……」


 俺も思わず背筋が伸びた。


(本番に向けた実戦訓練か……!)


 胸の奥が、静かに熱く高鳴る。


「マユ」


 隣のマユに声をかける。


「一緒に、頑張ろうな」


「う、うん!」


 マユは、少し顔を赤くしながらも力強く頷いた。

 

「近いうちに日程を決める。準備だけは、しておけ」


「……うん、わかった」


 力強く頷くと、父さんは満足そうに小さく笑った。

 


その夜、布団に入ったあとも、俺の胸は妙な高鳴りを続けていた。

 目を閉じれば、剣を交える自分たちの姿が浮かぶ。オムイスとカロイ──法王と剣王の息子。その二人を相手に、マユと俺の力でどこまで戦えるか不安だけど


(負けたくない……!)


 自然と拳を握りしめていた。

 すぐ隣では、マユが静かな寝息を立てている。昼間はあんなに不安そうだったけど、ちゃんと覚悟を決めていた。だから俺も、弱音なんか吐けない。


(絶対に……勝つ)


 覚悟を胸に、俺はゆっくりと目を閉じた。


 

 ──そして翌朝。

 目覚めると、窓の外には澄みきった青空が広がっていた。

 まるで、新しい始まりを祝福するかのように。


 俺達は馬車に乗り、ザードの屋敷へ向かう 

 

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