表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒と白の異世界物語  作者: 如月
第一章 異世界生活の始まり
13/28

第13話 法王の講義

「魔法やスキルには、生まれ持った資質がある。まずはそこから話そうか。」

ザードは椅子に腰掛け、指先で空中に円を描く。

淡い光が軌跡をなぞり、浮かぶ文字が部屋の薄暗さを柔らかく照らす。

 

「この世界で魔法やスキルを使うには、“資質”が深く関わる。努力で補える部分もあるが、超えられない壁もある。」

資質――その言葉に、胸の奥が突かれた。

転生した俺には、何か力が与えられているのか。

 

「資質の一つが“適正”だ。剣や魔法への才能を示す。稀に、私のようにスキルで縛られた者もいるが。」

ザードは円に二本の線を描く。

一本は剣、もう一本は杖のシルエット。

「剣の適正が高い者は、体の動きが戦闘に向く。筋肉のつき方、反応速度、バランス感覚……無意識に鍛えられる。」

それは、父さんとの稽古で感じた感覚だ。

努力した覚えもないのに、技が体に馴染む。

それが適正か。

 

「魔法の適正が高い者は、魔力の流れを感じ、制御に優れる。精神力や集中力も、魔法の下地として整っている。」

俺には両方ある気がする。

人攫いとの戦いで放った黒い雷――あれは魔法だったはずだ。

「剣と魔法、どちらか一方の適正が強い者がほとんど。両方を極めるのは、ほんの一握りだ。」

ザードの視線が一瞬、俺を捉え、思わず目をそらした。


 

「次は“属性”について。」

ザードは円に七つの光点を描く。

炎、水流、風の渦、岩、雷光、緑の癒し、澄んだ泡に変わる。

「魔法の基本属性は、火、水、風、土、雷。加えて、属性とは異なる“回復”と“状態異常回復”の七つ。理屈では、全属性を学べる。」

だが――ザードは炎の光を指で弾く。

 

「適性がなければ、どれだけ学んでも形にならない。適性がある属性なら、短期間で驚くほどの成長を見せる。」

「極めて稀な資質として、“光”と“闇”がある。」

新たな光球が現れる。

一つは純白に輝き、もう一つは吸い込まれるような濃い闇を湛える。

 

「これを扱うには、“因子”という素質が必要だ。“天の因子”で光を、“魔の因子”で闇を操る。完全な先天性で、後から得ることはできない。」

横でマユがうつむく。

その表情の奥に、過去の傷が潜む。


 

「属性の話はここまで。次は“スキル”だ。」

ザードは立ち上がり、光の文字を散らし、人型の図に小さな円を並べる。

「スキルは、生まれつきの特性、あるいは才能だ。努力や訓練で強化できるが、新たに得ることは基本的にない。」

持って生まれたものがすべてか……

 

「通常、一人に最大二つのスキル。両親からの遺伝や、稀に自分だけの“固有スキル”を持つ者もいる。」

ザードの目が鋭さを帯びる。

「特別な血筋――王族、聖職者、古代種の末裔――は、三つを持つことがある。彼らは世界に深く根差した“意味”を持つ存在だ。」

「スキルには攻撃系、防御系、補助系があるが、重要なのは“発動条件”と“制御の難易度”だ。複雑なスキルほど条件や難易度が高くなる傾向にある。」

ザードは円を指し、“刃の舞”と浮かぶ文字をなぞる。

「〈刃の舞〉は、回転を利用した連続斬撃技。反射神経と柔軟性が必要で、“回避行動の直後に一定速度で動く”という条件がある。」

発動条件は、動きや状況に縛られるのか。

 

「勝手に発動するものもあるが、複雑な条件のスキルは、使いこなすには経験が必要だ。“怒り”や“恐怖”に反応するスキルは制御が難しく、暴走することもある。」

胸がちくりと痛む。

人攫いとの戦い、父さんとの稽古――あの黒い力が、俺のスキルなら……。

 

「未覚醒のスキルもある。極限状態や命の危機、“意識で抑えきれない衝動”で引き出される。」

マユがぴくりと反応する。

「スキル発現は心身に大きな負荷をかける。成功すればいいが、失敗すれば代償は大きい。だからこそ、見極める目を持たねばならない。」

その言葉は、誰かに向けられているようで、胸にずしりと響いた。

 

「スキルは、持っていても使わない者もいれば、幼少期に発現する者もいる。大事なのは、“どう使いこなすか”だ。」

ザードの指が円に触れ、淡く光る。

「スキルの性質を知ること。それが戦いでの最大の武器だ。」


 

「最後に、“体質”だ。」

ザードは図形を消し、新たな円に脈のような光の線を描く。

「体質は、魔力や生命力の巡り方、肉体の構造に根差した性質だ。魔法やスキルの発現に深く関わる。」

俺は胸に手を当てる。

体の奥から湧く力の感覚――それも体質か。

 

「例えば“高密度魔力体質”は、魔力の濃度が常人の数倍。魔法の威力や効果時間が増すが、制御が難しく、暴走しやすい。」

マユが肩をすくめる。

彼女にも、思い当たる何かがあるのか。

 

「“魔力循環型体質”は、魔力が自然に巡り、回復が早い。長期戦向きだが、瞬間的な出力は劣る。」

二つの魔法陣が並ぶ。

一方は強く輝き、もう一方は穏やかに波打つ。

 

「他にも、“筋肉強化特化”、“神経伝達高速化”、“五感鋭敏化”など、身体能力に関わる体質がある。剣の適正と組み合わさると、驚異的な戦闘力を生む。」

剣の稽古で反応できた理由――“神経伝達”や“反応系”の体質なら、納得がいく。

「体質は変えられない。だが、理解し、扱い方を学べば、“力”にも“呪い”にもなる。」


 

「今出た呪いについても話そう。」

ザードの声が低くなる。

光が一瞬、黒と白に染まり、ぶつかり合うように揺れる。

「体質の中には、“呪い”と呼ばれる性質がある。本人の意思とは無関係に、肉体や魂に刻まれた異常な現象だ。代償と引き換えに莫大な力を発揮するものや、生きるだけで他者に影響を与える危険なものもある。」

マユが息をのむ。

俺の背筋に冷たいものが走る。

呪い――黒い雷の記憶がよぎった。

 

「さらに重要なのが、さっき話した“因子”だ。」

ザードは白と黒の魔法陣を重ねて描く。

「“天の因子”と“魔の因子”。極めて稀で、体質を超える資質だ。持つ者は、“光”または“闇”と結びついている。」

「……体質の一種ですか?」

ザードが頷く。

 

「厳密には異なるが、肉体や魂に刻まれている点では近い。覚醒の引き金は、強い感情、瀕死の状態、あるいは――他者との共鳴と様々だ。」

ごくりと唾を飲む。

 

「“因子持ち”は忌避される。特に“魔の因子”は、かつての魔神と同じ力を持つと恐れられる。“天の因子”も異質すぎて疎まれる。」

光と闇が、なぜ嫌われるのか。

「魔天大戦」の傷が関係しているんだろうな。

「体質は才能であり、業だ。扱いきれなければ、自身を滅ぼす。」

ザードの言葉が、深く心に染み込む。

 

「以上が、資質の基本だ。君たちがこれから向き合うものだ。」

ザードの声は穏やかだが、試すような響きがあった。

「質問はあるか?」

俺は迷い、口を開く。

 

「“資質”は、すべてを決めるんですか? 適正や因子がなければ、努力しても届かないんですか?」

ザードは目を細め、微笑む。

「いい質問だ。だが、答えは――“否”だ。」

マユも顔を上げる。

 

「資質は限界を示す枠かもしれない。だが、人はときにその枠を壊す。“才能を越える執念”が、歴史に幾度も刻まれている。」

その力強い声に、胸が熱くなる。

 

「君たちは若い。資質に縛られるには早すぎる。自分を知り、諦めず、進み続けること。それができれば、資質はただの“目安”だ。」

ザードが立ち上がる。

「さて、準備もできた。適正検査を受けに行こうか。」

俺は立ち上がる。

自分の中に眠る“何か”を知るために。

その手がかりが、“適正検査”だ。

 

「マユはどうする? 受ける?」

マユは目を伏せるが、すぐに顔を上げる。

「……うん。私も、自分のことをちゃんと知りたい。」

揺れる声に、確かな意志が宿る。

逃げるためでも、恐れるためでもない。

自分が何者かを知り、世界と向き合うために。

「じゃあ、行こうか。」

俺たちは肩を並べ、歩き出す。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ