第1話 黒いコートと最後の夜
俺の名前は揚斗、高校3年生。
今日は昔からの友達と外で遊ぶ予定だ。
お互い受験で忙しいはずだけど、息抜きに久しぶりに遊ぼうって誘ってくれた。
あいつと遊ぶのも久しぶりだから、結構楽しみだな。
待ち合わせ場所の駅に着いた。休日だからか人が多い。
改札から人が溢れ出てきて、電車がガタンガタンとうるさい。
ちょっと落ち着かない気分だ。
さて、本来の待ち合わせ時間は12時だったけど、今はまだ11時。
楽しみすぎてつい早く着いてしまった。
俺って遠足前の小学生かよ?
暇だし、ちょっとその辺をうろついてみるか。
うろついてたら、ふとある張り紙が目に入った。
「殺人事件多発中……? パトロール強化中……」
どうやらこの街で最近、殺人事件が増えてるらしい。
多分、ニュースでよく耳にするやつと同じだろう。
確か犯人は黒いコートを着てるって情報くらいしかなくて、詳しいことは分かってないとか。
怖い話ではあるけど、俺が被害に遭うなんてことはない……はずだ。多分。
「よーっす、揚斗! ずいぶん早いな!」
緊張感のないことを考えてたら、声をかけられた。聞き覚えのある声だ。
「おっす、蓮。お前も結構早い到着じゃん。」
「楽しみすぎて早く来ちまった!」
こいつは蓮。俺が幼稚園の頃からの友達で、幼馴染であり親友だ。
どうやらこいつも俺と同じで、楽しみすぎて予定より早く来ちゃったらしい。
体は成長しても頭の中は昔のままなんだな、お互い。
「何これ、殺人事件多発中? ほえー、物騒になったなー。」
「お前さぁ……もっと緊張感持てよ……。」
俺も人のことは言えないけど、こいつほんと緊張感なさすぎだろ。
「お前にだけは言われたくないね。どうせこの張り紙見て、『自分は被害に遭わない』とか考えてたんだろ?」
「げ、バレた。」
昔からそうなんだよ。こいつ、俺の考えを当ててきやがる。エスパーか何かか?
「気をつけろよ? お前ひょろいんだから、刺されたらすぐ死んじまうぞ?」
「全く……余計なお世話だよ。昔から俺のこと煽るの好きだよな。」
「煽ってるつもりはないんだけどなー。」
中学の頃もこんなノリだったな、と懐かしくなる。
「昼前だし腹減ったし、飯行かね? そこでいろいろ話そうぜ。」
こいつ、人煽ったり腹減ったり、いろいろ忙しい奴だな。
でも俺も腹減ってるし、この意見には賛成だ。
「確かに腹減ったな。行くか。店はお前に任せる。」
「分かった、任せろ。」
そんなやり取りをしながら、俺たちは駅の中にある飲食店に入った。
蓮が選んだのはファストフード店。
油の匂いが漂ってて、席はガヤガヤと埋まってる。
カウンターではバイトの兄ちゃんが忙しそうに動いてて、子供が騒ぐ声も聞こえてくる。ちょっとうるさいけど、まあ我慢だ。
「ハンバーガー食う!!!」
隣にいる蓮のテンションがやけに高い。
こいつ、そんなにハンバーガー好きだったっけ?
俺達は早速席について、手早く注文を済ませた。
注文したものが届くまで、俺たちは適当に雑談することにした。
勉強の話や恋バナ、最近流行りのゲームの話。
いかにも男子高校生らしい話題だ。
蓮が「お前、数学のテストやばかっただろ」って笑ってきたから、「お前だって赤点ギリギリだったじゃん」って言い返した。
そしたら「でも俺、ゲームのスコアはお前より上だぜ」って自慢してきたから、「それ関係ねぇだろ」って突っ込んでやった。
20分くらい経ったけど、休日のお昼時で人が多いからか、注文したものはまだ届かない。
そんな中、蓮が懐かしそうに、でも少し寂しげに呟いた。
「ここに真由香姉がいたら完璧だったのになぁ……。」
真由香姉。近所に住んでた、俺たちより3つくらい年上のお姉さん。
公園でサッカー教えてくれたり、駄菓子奢ってくれたり、優しい人だった。
小学生の頃、よく遊んでもらってたな。
「もう6年か? 真由香姉が死んじまってから。」
そう、真由香姉はもういない。
俺が小学生の頃、トラックに轢かれそうになった俺を庇って死んだんだ。
「そうだな、6年だ……。」
6年前、俺のせいで。
俺がトラックに轢かれそうになったせいで、真由香姉は死んだ。
「ごめん、無神経だった。あれはお前のせいじゃない。不慮の事故だったろ?」
俺の曇った表情を見て、何か察したんだろう。
謝ってきたけど、謝る必要なんてないのに。
俺と蓮の間に沈黙が流れた。
ファストフード店のガヤガヤした喧騒が、急に遠くに感じた。
悪い空気を断ち切るように、ブザーが鳴った。
「俺が取ってくるから、揚斗はそこで座ってろ。」
そう言って、蓮は席を立った。
蓮が持ってきた俺の紙袋の中には、注文した覚えのないナゲットが入ってた。
「それはお詫びだ。悪かったな。今度、真由香姉の墓参り行こうな。」
ああ、そういうことかと納得した。
謝らなくていいと言おうと思ったけど、蓮の気持ちを無駄にしたくないな、やめておこう。
「あぁ、近いうちにな。こいつはありがたく貰っとく。」
「おう!」
そこからはまたいつも通りの空気感で、楽しい時間を過ごした。ナゲットは美味かった。
「はー、食った食った!!」
「お前、食いすぎだろ……。」
こいつ、ハンバーガーを5つも食いやがった。マジで食いすぎだろ……。
「さてと、こっからどうするよ?」
「適当にうろうろしようぜ。」
そう言って、俺たちは駅周辺をぶらぶら見て回った。
ゲーセンに行ったり、本屋に寄ったり。楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
ゲーセンで蓮が「お前、負けすぎだろ!」って煽ってきたから、「次はお前をボコる」って言い返して、結局笑い合ってた。
そういえば、ゲーセンや本屋にもさっきの張り紙が貼ってあったな。殺人事件多発中か……。
まあ、こんな楽しい日に何も起きねぇよな。
「うっわ、もう21時じゃん。早く帰ろうぜ。」
「おっけー。帰る前にコンビニ寄っていい? 夜食とプリカ買いてぇ。」
夜食はまだ分かるけど、プリカって……こいつ、またソシャゲに課金する気だな。
「分かった。ただ、課金はほどほどにな。」
「はいはい、天井分で我慢してやるよ。」
そんなくだらない話をしながら、コンビニに着いた。
結構近かったな。
店の明かりがチカチカしてて、駐車場には車が1台も止まってない。
この時間に車がないのは珍しい気がする。
そんなことを考えてる俺をよそに、蓮はコンビニに着くなり猛ダッシュで店内に駆け込んでいった。
「夜食! 夜食!」って叫びながら奥に突っ込んでいく。
夜なんだから、周りへの迷惑とか考えてほしいよ。
俺はゆっくり後ろをついていくしかなかった。
コンビニの入り口にも例の張り紙が貼ってあった。警察も本気なんだな。
ふと、店の外に黒い影が動いた気がしたけど、蓮が「アイスどこだー!」って騒いでるから、見間違いだろって流した。
店内は、レジの店員がボーッとしてるだけだった店員に文句を言われる前にこのうるさい馬鹿を軽く注意したほうがいいだろう。
「お前、騒ぎすぎだって。周りへの迷惑、ちょっとは考えろよ。」
「俺たちしか客いないんだし、別に大丈夫じゃね?」
別に大丈夫、なわけねぇだろ。
「とりあえず静かにしろ。学校に電話されても面倒なだけなんだから。」
「はいはい。とりあえずレジ終わらせたら呼ぶな。そんな時間はかからないと思うけど。」
蓮の会計が終わるまで、俺は雑誌コーナーに移動した。
店内は基本静かだ。
レジの電子音と蓮の足音、たまに蓮の騒ぎ声が聞こえるくらい。
そういえば、途中誰かが店に入ってきたけど、普通のことだろうと気にも止めなかった。
漫画がちょうどいいところに入ったとき、蓮の話し声が聞こえてきた。
さっきうるさくしすぎて店員に怒られてるのか?
気になって、俺は様子を見に行くことにした。
様子を見に行くと、蓮は店員じゃなくて客と話していた。
「うるさかったですよね、すみません」と謝ってる。
黒いコートを着たその客は一切返事をしない。
そりゃそうだよな。
急にこんなのに絡まれたら、どうすればいいか分かんねぇよな……。
反応の無い客を見て蓮が「おい、揚斗、この人なんかヤバくね?」って小声で俺に言ってきた瞬間、そいつの手がポケットから何かを取り出した気がした。
銀色に光る何か。
黒いコート……? 待て、これってもしかして……。
ここまで読んでくれてありがとうございます。初めまして、如月です。
小説執筆初心者で至らない点が多々あるとは思いますが、頑張りたいと思っていますので、どうか応援よろしくお願いします。
4月16日までには第2話を投稿できれば良いなと考えています。