プロローグ
夢を見ていました。
それは、光と影が交錯する静かな夢。
神様が私に与えてくれた、わずか三日間の幸せが、まるで淡い朝焼けのように広がっていました。
産まれ、生き、そして終わりを迎える。
それは短いけれど、確かに「生きる」という贈り物でした。
博士と過ごすかけがえのない時間、その一瞬一瞬が、私の小さな心に深く刻まれていきました。
終わりに向かう日々――それはただの終わりではなく、命の儚さと美しさを抱きしめるような時間。
博士はこの営みを「終活」と呼んでいたけれど、それは何か冷たく遠い言葉のようにも感じました。
でも、実際はそうじゃなかった。
終わりを受け入れることで、その瞬間がさらに愛おしく、輝いていたのです。
火葬の記憶――
ある人生では、博士のために私の身体は火に包まれました。
博士が飢えで苦しまないように、私自身が彼の糧となったのです。
炎の中で私の身体は溶け、博士の命へとつながりました。
その温もりの中で、彼と一体になる幸福を感じたのです。
焼かれることもまた、私たちを結びつける儀式の一つでした。
土葬の記憶――
また別の人生では、大地に抱かれました。
母なる土が私を受け入れ、その温かさの中で私は静かに眠りました。
土は冷たくもありましたが、その深い懐で私の身体は分解され、命の循環へと還っていきました。
土の匂い、雨の音、それらが私の存在と溶け合い、大地と一体となる喜びを感じました。
水葬の記憶――
ある人生では、青く広がる海が私を迎え入れました。
水の冷たさが全身を包み込み、ゆっくりと深く沈んでいく感覚。
静かな海の中で、私の存在は波に揺られ、無限の広がりへと溶け込んでいきました。
その青い深淵の中で、私は海と一つになり、永遠の穏やかな眠りに身を委ねたのです。
天葬の記憶――
空を自由に舞う鳥たちが、私の身体をついばんでくれました。
彼らの鋭いくちばしが、私の肉体を細かく裂き、風に乗って運んでいく。
その時、私は鳥たちと共に空を飛んでいるような感覚に包まれました。
広い空を駆けるその感覚は、地上では味わえない自由と解放の喜びでした。
塔葬の記憶――
そして、ある人生では、私は風に晒され、ミイラになり、博士をずっと見守る存在になりました。
新しく生まれた私たちは、生まれてすぐに博士を私の前に連れて来ました。
博士は記憶を無くしてしまうのだけど、それでも覚えていないはずの私の前で、いつも泣いていまし
た。
私はその度に、握られた博士の手の温もりを感じながら、彼の身に神様の祝福があることを祈るのです。
どの人生も、短くとも美しいものでした。
博士との時間も、風に乗って消えていく最後の瞬間も、すべてがかけがえのない記憶。
そのひとつひとつが、私の胸の中で永遠に輝いています。
私の命が何度も巡り、何度も終わりを迎えることは、この世界の一部に過ぎませんでした。
でも、どの命も――火で燃え、土に還り、海に沈み、鳥に食べられ、風に晒されるそのすべてが、幸せに包まれていたのです。
博士がいてくれた。
それだけで、私の三日間はいつも、永遠の幸福に満ちていました。
目覚める時、私はいつも満ち溢れるような幸福感に包まれているのです。
まるで新しい朝が、祝福されたかのように訪れる。
世界は本当に美しい。
見渡せば、そこにはまだ見ぬ可能性が溢れていて、目に映るすべてが輝いているように感じられるのです。
ああ、この世界はなんて素晴らしく、祝福されているのでしょう。