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子供のままでいたいよ

作者: 星海 緑

「お金持ちになりたい。億万長者になりたい。」

小学生の頃から将来どうなりたいか訊かれたらこう答えていた気がする。なんならつい最近、大学生になった今ですら本気でそんなことを言ったりしている。大きな声では言えないが自分は特別な存在だと思っている。何かを本気で成し遂げようとすれば成功すると。小さい頃は多くの人が夢を持って何者かになれると信じていただろう。例に漏れず、この年になった今でもそんなことを心の片隅では思っていた。だからこそ未だに金持ちとか本気で思っているのかもしれない。

周りからは先が見えていないとか思われていたりするのだろうか。実際のところ、具体的になりたい職業なんてなくて、友達からは「竜ちゃんは将来何になっているか想像つかないねー」なんて笑いながら言われることも多々あった。そんな時僕は「youtuberになってる予定。もしくはバンドマンかな?」とふざけて答えたりしている。ふざけてはいるが1%くらい本気だったりする。いや5%くらいかな。いや10%。丸が多いな。まあ一応言っておくが、動画を撮ったり編集などをしたことはないし、視聴率がとれる知名度があるわけでもない。楽器はギターが少し弾ける程度で音楽の知識があるわけでもなければ作曲ができるわけでもない。「なんだよそれー」と友達が笑って軽く突っ込んでくれるラインを言っているだけだ。

最近では就活が始まる時期だが、やはりやりたいことなど特になくて、子供が考えそうな「綺麗なオフィスでバリバリ働いて社会貢献をする、激動な人生を送る。」そんな社会人になりたいと思っていた。ちゃんとお金持ちにもなれる職業で、なんなら可愛い子にもモテそうな職業になりたいね。

こんな子供っぽいことを未だに考えられる自分には誇りを持っていたのかもしれない。勝手なイメージだが、大人の無気力でなんでもルーティーンとしてやっていそうなところが好きでなかったから。そんなの楽しくないしカッコよくもない。大人にならず子供のままでこの先も生きていたい。それが出来そうな自分に誇りを持っていた。

その一方で麦本三歩のように好きなモノに囲まれて平穏な日々を精一杯生き抜いていくことに憧れを持つことも増えた。成瀬あかりみたいに好きなことをして滋賀県に貢献していく人生もいいなと思い始めている。僕は東京に住んでいるが成瀬さんが住む滋賀に貢献したい。

この前、高校が一緒だった毅とご飯に行った。毅とは高校三年生で同じクラスになり、何がきっかけだったかは思い出せないが高校卒業してからも会うくらいには仲良くなった。さわやかな顔をしているがなかなかの腹黒さも持っていてそこが好きで一緒に話すのが心地よかったりする。久しぶりに会っての第一声が「今日合コンあったのにドタキャンされたわ。暇になったから暇そうな竜ちゃんのこと誘った。」さわやかな顔でそんなことを言われた。

「どうせ合コンも乗り気じゃなかったんでしょ?」

「あんまりタイプじゃなかったからセーフかな。可愛くないって言ってるんじゃないよ」

と必要かもわからない弁解をしていたが「可愛くなかったんだね」とテキトーに流しておいた。

そんなこんなで最近の近況やハマっていること、高校生の話をしていたが時期的にも就活の話にも触れることになった。

「竜ちゃんは就職どうするの?どの業界目指してるとか決まってるの?」

「全然考えてないんだよねー、お金持ちになれれば正直なんでもいいかも。毅は決まってるの?」

「竜ちゃんっぽいな。俺は大学職員とか興味あるな。めっちゃホワイトって聞くし!」

「大学職員いいな。僕も大学の図書館でゆっくりしながら働きたいかも」

「安定しそうだけど金持ちにはなれなそうだな」

そう言われて確かにと思ったと同時にゆっくりしながら働きたいと思っている自分に驚いた。実際に図書館職員の方々がどれくらいの収入を貰っているのか分からないのでたくさん稼げるかもしれないが、イメージしていた自分とは違う。

こんなことを思うのは全く変なことでもないし、この安定した生活を夢見ている大人はたくさんいると思う。

僕は大人になってしまったのだと思った。

ご飯を食べた後、近くにいるという高校の時に3人で仲が良かった寛と合流した。寛と書いて”かん”と読む。寛はパチンコでいくら負けただとか金がねえとか話していたが公務員を目指しているらしい。こんなこと話している此奴が公務員になっていいものか疑問に思ったが「サッカー選手にはならないの?」となんとなく訊いてみた。寛とは小学校の頃からの付き合いで、小さい時からサッカーをやっていてプロサッカー選手に成りたいと言っていたのも知っている。体育大学まで入っているのだから目指しているのかと思っていた。

「もうきついかなー、実力的に。安定した生活したいから公務員、大人だし。」

笑いながら答えていたがバカなんだから倒置法使うなと思ったし安定したいならパチンコをやめろよと思った。それでも大人として安定を目指しているんだなと少し残念な気持ちになった。僕と一緒で。

歳を重ねれば重ねるほど、安定した生活を送るのが大変と知りその安定した生活を夢とする人はよくいるらしい。子供の頃はプロ野球選手やモデルになりたいと言っていた子供たちがいつの間にかそんなことは言わなくなる。大人の階段を上ると分かる事なのかもしれない。知らず知らずのうちに上りたくもない階段をエスカレーターのように上らされていたのかと受け入れ難い気持ちになった。

子供のままでありたいと新しいゲーム機を買ってめちゃくちゃやりまくろうと思ったり、将来から一旦目を逸らそうと就活を絶ってギターを弾きまくって本気でバンドマンを目指そうかと思った。小説を読んで僕もこんな特別な世界を生きたいと思った。けどそんなことをしても子供には戻れないことを知っている。ゲームをやったって大人のまま。今からバンドマンを目指そうが大成しないだろうというのは大人なら分かっている。小説を読んで何者かになれるわけでもなく、世界が変わることもない。大人になったから分かってしまった。

こんなこと考えているのは僕以外にもこの世界には何万人、それ以上いるはず。結局のところただの平凡な人間の一人だったのか。安定を目指して就活でもするか。


「特別な人間だと思い込んでいたい」

そんな一心でこの文章を書いてみたけどやはり凡人の書く文章かもしれない。


成松 竜介

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