ピカピカ!!魔法の変身ステッキ!!
「何なのだこいつは……」
海老が呟く。
確かに、あれ何?
悪鬼羅刹は腰を深く落とし拳を構えた。
え、素手で戦うつもりピコ!?
ビル壊すような奴相手にそれは無茶ピコ!!
どうしよう……あ、そうだ、変身ステッキピコ!!
これで魔法少女に変身すればきっと戦えるピコ!!
魔力感じるしアレは適正者に違いない、うん。
「これを受け取るピコー!!」
ボクは魔法の変身ステッキを投げ渡す。
クルクル縦回転しながら飛んでいき、悪鬼が掴み取った。
「さあ、それで魔法少女に変身するピ……」
「ぬぅん!!」
悪鬼は変身ステッキを膝で真っ二つにへし折り、足元にポイッと投げ捨てた。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」
折ったあぁぁぁ!!?ボクの給料一年分んんん!!!
見事に折れた変身ステッキが風で転がっていく。
「不要」
そう言い捨てると悪鬼は海老に向かって突進した。
刹那、右拳が海老の腹部を捕らえ、重い爆音が響くと海老を後方へと吹き飛ばす。
かなり距離があったにも関わらず、2Mを越えているあろうあの巨体が一瞬で間合いを詰めて攻撃を放ったのである。
「ぐはぁ!!」
何とか着地するも片膝をつく海老、腹の甲殻がひび割れているのが見える。
「貴様……やるではないか……名を聞こう」
「……愛」
名を告げると再度突進していく悪鬼、いやもとい愛。
両腕のラッシュから膝蹴りに肘撃ち、掌底を目にも止まらぬ速度で繰り出していく。
海老も何とか避けるも数打食らい防戦一方だ。
「っく、何たる攻めよ、この27号がこうも押されるとは……!!」
海老の甲殻はあちこちひび割れていき、破片が飛び散っていく。
その光景をボクは呆然と見ているしかなかったピコ。
……あれ本当に人間ピコ……?
「だが、こちらとてやられてばかりではない!!」
海老が後方へと飛びずさると……何と、甲殻を取り外し始めた。
「ふはははは、俺様に甲殻を外させたのはお前が初めてだぞ!!」
首(?)をゴキゴキ言わせると構えを取る。
「さあ、俺様の速さについて来られるかな!?」
海老が愛の周囲を走り始める。するとどんどん海老が増えていき、愛を取り囲む。
これは……!!
「怪人殺法超速分身!!受けて見よ!!」
四方八方から拳や蹴りが乱れ飛ぶ、あまりの速さに残像が見える程ピコ!!
怒濤の攻撃に愛は……動かない!!?
あ、諦めたピコ!?
「笑止」
愛がゆらり、と動いた様に見えた。
そして次の瞬間、全ての海老が吹き飛ばされた!!
「何ぃぃぃ!!?」
増えていた海老が一体に戻る。
かなりダメージを受けたのか肩で息をしてるピコ。
「何という奴め……ここまで追い詰められようとは……こうなれば致し方あるまい!!!」
海老は右手のハサミを天高く突き上げる。
「貴様は我々悪の秘密結社の障害となりうる!!よって、俺様の命に代えてもここで打ち倒す!!」
「全ては、我等が主、スカルディア様の為に!!!」
海老のハサミに膨大なエネルギーが赤く収束していく、こ、これは!?
「ふはははは、俺様の全エネルギーを一点に圧縮して放つ一撃必殺!!その威力たるや、富士山ですら一瞬で蒸発する!!この街共々消えされぇぇぇぇ!!!」
い、いけないピコ、これじゃあ辺り一面吹き飛ぶピコ!!
そ、そうだ、こんなこともあろうとスペアが……!!!ボクは変身ステッキの予備(給料一年分)を愛に投げた。
「それを使うピコー!!」
「不要」(ボキィ!)
あー!!またしてもステッキ(給料一年分)をへし折ったピコー!!!
そんな事をしてる間に、海老のハサミが真っ赤に灼熱し、そしてそれは愛に向けて放たれた。
ああ……ボクの生涯短かったピコ……最後にドすけべDVD見たかったピ……
愛の周囲が閃光に包まれる、街ごと消し飛び全てが無に帰す……はずだった。
「…………ば、馬鹿な…………」
怪人27号は戦慄した、確かに直撃したのだ、だが被害が小さすぎる。
本来なら彼も巻き添えにして粉々に吹き飛んでいなくてはいけないのだ。
「何だというのだ……」
激しく大地が揺れ爆風が吹き荒れる。
巨大なクレーターと化したそこに、それは確かに存在していた。
「……な、何なのだ……この化け物は……」
「……クハアァァァァァ……」
人間がしてはいけないような邪悪な鬼の表情を浮かべ、地獄の底から漏れて来るような吐息を上げる愛。
最早どちらが悪か分からなくなっている。
灼熱した瓦礫の上をゆっくりと歩き怪人27号に迫る。
そして。
「滅殺」
一瞬で駆けると怪人27号の心臓を愛の豪腕が貫いた。
…
……
豪華な大理石の長机に金のシャンデリア、会議室の様な場所にて。
巨大なモニターの表示が消え、室内が明るくなる。
「以上が、先程某所にて行われた怪人27号の戦闘記録の全てとなります」
金色の美しくも長い髪、褐色の肌をした美女が、手にした報告書を読み上げた。
「あの百戦錬磨の27号がこうもあっさりと……」
「何かの間違いでは……」
「体調不良だったのではないだろうか?」
「アイツに1000円貸してたのに……」
各席から声が次々と上がる。
「……静粛に、閣下の御前ですよ、慎みなさい」
報告書を読み上げていた美女が場を嗜めると、騒がしくなった室内が静まりかえった。
「よい、構わぬ」
「はっ」
閣下と呼ばれた者は席から立ち上がり、鮮血を思わせる深紅のマントを翻す。
「して、この者の名は?」
「魔法少女マジカルアイ、と申すそうです」
名前を聞いた閣下は嬉しげに高笑いを上げた。
「そうか、魔法少女マジカルアイか……いいだろう!!これより、我が悪の秘密結社『ローゼンシュワルツ』はマジカルアイの打倒を最優先事項とする!!」
「はっ!!」
「全ては黒き浄化の為に!!」
「黒き薔薇を世界に!!」
「スカルディア閣下に栄光を!!」
沸き上がる会議室を後にするスカルディア。
「ふふふ……相手のつまらなさに退屈していたところだ、楽しませてくれよ?マジカルアイ。
はっはっはっはっは!!」