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恋を奏でて  作者: 心愛
3/3

再会

「探したよ、四葉」

 押し倒された僕の上に、いつか聞いた声の主がいる。なぜ、彼がここにいるのか。僕は声を聞いただけで誰かわかった。別に特別特徴のある声ではない。でも、僕には分かる。

「志音…。なんでここにいるの」

「それはこっちのセリフ。まさか1番前にいるとは思わなかった」

 ここが人気のない場所で良かった。僕はまだ、抱きしめられたままだ。志音の体温が体を温めてくれているようだが少し暑い。

「同僚の先生が、たまたまチケットが当たったって。それでせっかくだから来てみたんだ」

「先生?今四葉先生してるの?」

「うん。小学校で音楽の先生」

「え、すごい!今度ピアノ教えてよ」

『ピアノ教えてよ』

 懐かしい。昔はそうやってずっと教えてたっけ。

 志音はようやく僕を離し、僕はようやく志音の顔を間近で見れた。肌が白くて、華奢で、美しい顔。

「いや、今は志音のほうが圧倒的に上手いでしょ!」

「じゃあ、今度は教えてあげれるね」

 同じ音楽関係の仕事をしている者同士でも、次元が違う。

「ねえ、四葉の家遊びに行ってもいい?」

「うん。もちろんだよ」

「やったー!」

 バンザイをして喜ぶほどなんだ。久しぶりに会えて僕も嬉しいけれど、もう大人なのでここまで感情を表に出すことはもうなくなっていた。だから少し羨ましく思えた。

「今日でもいい?」

「いきなりだな。流石に日を改めてよ。部屋の掃除とかもあるし」

 志音はあからさまに拗ねて、頬を膨らませた。

「いつならいいの。明日?」

「そんな急な。連絡するから、レイン交換しよ?」

 レインとは、誰もが知るメールアプリ。僕はスマホを取り出して、緑色の傘のアイコンをタップする。

「これ。志音のは?」

「スマホ…」

 志音はポケットの中を探したが、スマホは見つからなかった。

「舞台から走ってきたから多分控室にある!」

 は?このまま走ってきた?舞台が終わってから?無茶苦茶だ。僕は立ち上がった。志音はまだ座ったまま僕を見上げる。

「どこ行くの?」

 トイレに行くと言ってから5分くらいか。まぁ、もう少し粘るか。

「んん。大丈夫。どこも行かないから」

 そもそも、どこかに行ったのは君じゃないか。お別れも何も言わないで勝手に消えて、どれだけ寂しかったか。どれだけ後悔したか。

 もう…離したくない。瞳に映る彼は幻なのな夢なのか、それとも本当に本物の志音なのか。

「四葉、携帯鳴ってる」

「え?あほんとだ」

 見惚れていて気づかなかった。ズボンのポケットの振動さえも気が付かないほどに見惚れていた。相手は中田先生だった。

「もしもし」

『もしもし?先生大丈夫ですか?』

 よく電話してきたなこの人。今設定上というかトイレの中にいる体なのに。

「大丈夫です。少し旧友と会いまして」

『旧友?いいですね!』

「すみません。すぐに戻ります」

『ああ。大丈夫ですよ。私少し用事ができたので、先に帰っておきますね。先生足ありますか?』

「…あると思います」

『そうですか。ではまた』

 そう言うと急ぎ足で電話はきれた。そんなに急な用事なんだろうか。僕は電話がきれて画面が黒くなったスマホを見つめていた。

「同僚の先生、用事ができたから先に帰るって。志音、ここにはどうやって来たの?」

 僕はかかとを椅子にして腰を下ろした。志音の見上げてくる視線が愛おしく、ただかわいかった。

「車でマネージャーが」

 マネージャーってそんなのついてんの?大物だなあ。←芸能に疎いからマネージャー=大物という浅い知識。まあ実際志音は大物なわけだが。

「マネージャーさんかあ」

「四葉乗せていってあげる!マネージャーもきっと良いって言う」

 志音は笑顔でそう言ってくれた。この笑顔には人を吸い寄せる魅力がある。

「ついてきて!」

 立ち上がると、僕の手を取り、そして引っ張る。細くて、それでもしっかりしている指。志音が走って向かうその先は

「ちょっと待った!ここ関係者以外立入禁止じゃん」

「関係者じゃないの?」

 志音が言いたいのは、志音が関係者だから、志音の認めた関係者もこの音楽会の関係者という言い分だろう。

「いや、まあ考えてることはわかるけど」

 ここで向こう側に入ったとする。怒られなければ問題ないが、それがだめだったとすると間違いなく警備員に捕まり取り調べ、仕事どころではなくなる?

「大丈夫だよ。僕が話しつければいいんだから。黙ってついてきて」

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