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初めての家来

バレバレの伏線回収

 村長とあいさつを済ますと、割り当てられている一軒家に入った。兵たちが暮らす長屋と隣り合わせで、何かあればすぐに兵を集めることができる。

 村長の家の隣で、小高い丘の上にあり、小さな鐘楼があった。


「いざというときがあればここで鐘を打ち鳴らすのです」

「なるほど」


 着いたばかりだし、とりあえず家で休むことにした……そしてすごく根本的なことに思い至る。


「そういえば名前を聞いていなかったな」

「あんちゃん……」

 少年がジトっとした目で俺を見てくる。


「は、はい、わたしは智と申します」

「よろしくな」

 目を合わせると、頬を赤らめて目をそらされた。なぜだ、嫌われるようなことをしたっけ?


「おいらは日吉だ」

「おう。小者として頼むぞ」

「合点だ!」


「……小竹、です」

「うん。よろしく頼むな」

「はい」


「あさひです!」

「おう、元気いいな! 姉ちゃんのお手伝い、頼むぞ」

「あい!」


 こうして兄弟の名前を聞きだした。日吉と小竹は俺の側についてくる。あとは兵の頭役は善兵衛というらしい。あと村長は権兵衛だった。


「日吉、村の者から困りごとが無いか聞いてきてくれ」

「はっ! かしこまりました!」

「はいっ!」

 日吉と小竹の兄弟はビシッと手を上げ走り出した。というか日吉はコミュニケーションお化けだ。あっという間に村の子供たちを手懐け、ガキ大将に収まっている。

 子供たち経由で親の困りごとから、猟師の八兵衛と村長の娘がデキているといったネタまで聞きだしてきた。

 自慢げに披露している後ろで智が日吉の頭に拳骨を落としていた。

「このマセガキ! あんたにゃそういう話はまだ早い!」

「ぐえっ! 姉ちゃん、ひどいよ。それに……天田様が見てるよ?」

「はわっ! いえ、違うんです! いつもはこんなじゃ!」

 顔を真っ赤にしてワタワタと慌てる姿が面白く、思わず笑ってしまった。


「ははは、兄弟ってのは良いものだな」

「あんちゃん! 姉ちゃんを嫁にしたら俺たち兄弟だ!」

「ふむ? まあ、所帯を持つにはまだ早いなあ。もうちと出世しないとな」


 などと言っていると、智がパニックに陥っていた。

「ふぇ? あたしと天田様が……夫婦!? ひえええええええ!」

 顔を真っ赤にしたかと思うとぷしゅーと頭から湯気を噴きだしてひっくり返る。


「やれやれ」

 小竹は肩をすくめていた。なんだかんだで兄の日吉に引っ掻き回されているせいでなんだかんだと苦労が絶えないようだ。 


 いくつかの問題を解決した。実りが悪い畑には別の作物を植えることと、肥料の追加による土の改善を行った。


「ここに大根を植えるのは先祖代々そうしてきたんじゃ」

「うん、だから麦に必要な養分が足りてないんだ」

「え?」

 同じ作物を同じ場所で続けて育てると実りが悪くなる。細かい理屈を省いて伝えた。


「この芋を植えてみるといい。もしうまく実らなくてもこの畑からは年貢をとらない。次の年からもらうよ」

「それでいいだか?」

「ああ」

 もともと収穫の少ない畑から税をとっても仕方ないし、そもそも耕す者の食い扶持がない。

 

「桶を用意してくれ」

 桶に土を入れ、肥料を加える。そこに塩水選をしたぎゅっと実の詰まった種もみを蒔く。


「ほええ、よくわからんがお代官様の言うとりにするべ」

 

 しばらくすると芽が出る。育ちの悪いものを除いて、苗をまとめる。


「じゃあ、これから俺と同じようにしてくれ」

 等間隔にあらかじめ印をつけた位置に苗を植えこむ。

「適当じゃあかんのかね?」

「なるべく間隔をあけて同じように植えこむんだ」

「へええ、まあ、やってみようかいねえ」


 経世済民スキルは農作業の最適化ができるスキルだ。本来農地絡みのスキルを上げないと収量が増えなかったり開墾の労力が余計にかかったりする。

 しかし、これは経済活動においてすべてにバフがかかる神スキルなのである。


「市を開きたい者はこっちだ。何々……野菜を持ってきたか。ではこの場所を貸し出す」

「ああ、道具か。鍛冶屋に伝手があるのか? なら村で雇われてみないか? すまんが話してみてくれ。これは手間賃だ。断られても返せなんて言わんよ」

 同じような品を持ち込む者をひとくくりで配置し、村で作れないものを持ち込んだ者を少し優遇する。

 また、職人の雇い入れも強化した。


「殿、鉄を少し分けてもらえませんかね?」

「何に使うんだ?」

「農具を増やしたいんですよ」

「ふむ、岡崎が降った今、こちらは前線とは言えぬな。よかろう」

 砦に赴いて物資を分けてもらう。農具を増やせば開墾や通常の田畑の整備もはかどると言うものだ。


「おう、いい腕だねえ」

「ああ、野鍛冶とはいえな。腕が無けりゃ生きていけんよ」

「あ、殿様、報告が……って叔父さん!」

「あ! 日吉か!」

 

 この鍛冶師と日吉は親類であったようだ。どうも彼らの母の妹がこの鍛冶師の妻らしい。


「ねえ、殿様。母ちゃんをここに呼んだらダメかなあ?」

「ああ、構わんぞ」

「ありがとう! この恩は、絶対、命に換えても返すから!」

「大げさだな」


『システムメッセージ 日吉があなたに忠誠を誓いました。家臣を得たため家臣のパラメータがあなたのステータスに上乗せされます』


天田 士朗

段位:3 経験値:18/38

統率:67(+28)

武力:85(+2)

政治:54(+35)

知略:58(+36)


 カッコの中のプラス分が日吉によるバフか……ってええ!?

 武力はわかる。あいつは細いし身体も小さい。腕っぷしじゃ村の子供たちの中でも下の方だろう。

 しかしそれ以外の数値……なにこれ!?


 システム、ヘルプを起動。日吉のパラメータ表示。


日吉(豊臣 秀吉)

段位:1 経験値:24/12

統率:93

武力:27

政治:99

知略:96


 ちょ!!! 何このチート能力値! ってか秀吉!?


 あー……俺は大当たりをひいたらしい。ということは弟は秀長か。ってすでにレベルが上がるだけの経験値がたまっているが……おそらく元服するまではそのままなんだろうか?


「兄上、よろしくお願いいたします」

 日吉が家来にしてもらったと大喜びしていると、小竹が寄ってきて俺のことを兄呼ばわりした。

「お前の兄上はそこにおるではないか」

「……すぐにそうなるから」

「そうか」

 なにを言いたいのかはなんとなくわかる。しかしまだその時ではない。


「さあ、母御を迎えに行こうではないか」

「うん!」

 

 そうして中村郷に向け兵を率いて出立した。


 日吉の家に入ると、やくざ者に囲まれた一人の男と、観念したように座り込む女性がいた。


「ふん、子供たちを犠牲にするくらいならここで喉掻っ切って死んだほうがましだね!」

「くそ、くそおおおおおお!」


「ああ、取込み中すまんな。ここは日吉の家で相違ないか?」

「あ、ああ日吉はうちの子だけども……って日吉! なんで戻ってきたんだい!」

「母ちゃん! もう大丈夫だ! 天田様が助けに来てくれたから!」


 俺が合図を送ると、10人の兵が声を上げた。

 その一声でやくざ者が怯む。


「ああ、一つ聞きたい。借金とやらはいくらなのだ?」

「……20貫だ」

「では俺が支払おう。利息も込みでよいのだな?」

「あ、ああ」

「証文はどこだ? それと引き換えだ」

「う、うむ……」

 もはや言葉を発することも難しいくらい混乱しているようだ。そこに付けこんで一気に話を付ける。


「母ちゃん、これからは一緒に暮らせるんだ!」

「お、おお。おおおおおおおおおおお」

 事情を聞いた母御が泣き崩れる。

 小竹が母にしがみついて震えている。


「おう、あんた」

「あ、ああ」

「借金はなくなった。命だけは取らんでやるから何処なりとも行くがいい」

「……承知した」


 これにて一件落着、というわけだ。

読んでいただきありがとうございます。

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[気になる点] 「ここに《大根》を植えるのは先祖代々そうしてきたんじゃ」 「うん、だから《麦》に必要な養分が足りてないんだ」 「え?」  《同じ作物》を同じ場所で続けて育てると実りが悪くなる。細…
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