武術大会(1日目)
「ではこれより、武芸大会を始める!」
殿の宣言に参加者、見物人が沸き立った。凄まじい歓声が上がる。
参加者たちも気合のこもった雄たけびを上げている。まずは弓術だ。
「はっ!」
5人が並んで合図とともに弓を射る。的の中心に近いほど高得点というのはスタンダードな評価だろう。
「次!」
尾張のホープ、太田牛一が参加する順番がやってきた。そこに美濃斎藤家より参加を表明した一人の、すでに初老と思われる武士が的場に入った。
「美濃斎藤家より、大島雲八殿!」
名前を呼ばれた大島殿はすっと手を上げ歓声にこたえる。
「放て!」
弓を構える姿は実に堂に入っており、そのたたずまいはすでに強者だった。
ステータスを見ると、弓術スキルがカンストしている。ほか、鷹の眼とか狙撃とか潜伏とか、いっそゴルゴっぽいスキルが目白押しだ。
大田殿も負けていない。負けていないんだがなんというか相手が悪い気がした。
5回の射撃ののち、大島殿と大田殿が残った。というかこの二人の気迫がすさまじく、両隣の参加者が手元を狂わせたりするとかどんだけ……。
エクストララウンド。より的の中心を射抜いたほうが勝ちだ。
「ふっ!」
「はぁっ!」
二人そろってど真ん中を射抜いた。マジか……。殿も目を見開いている。大田殿は馬廻りでそこまで目立った武辺を示していたわけではない。どちらかというと戦場における祐筆のような役割だった。
「我の人を見る目もまだまだであったということだの」
「意外な副産物でしたねえ」
「うむ、機会を与えてやればよいということがよくわかった」
「ええ、良き働きを示す者を抜擢していきましょう」
「であるな」
その時、弓術大会の会場からすさまじい歓声が上がった。
「む?」
「殿! 矢継です!」
「はあ!?」
大田殿の放った矢は中心を射抜いた。ほぼ並んで2本の矢が突き立っている。そしてもう片方の的には……一本の矢だけが突き立っていた。中心を射抜いた矢の尻にもう一本の矢が当たり、そのまま的を射抜いたそうだ。
「狙ってやったのであればとんでもないな……」
「いや、本人の様子を見るに狙ってやっておるぞ」
「はあ!?」
「あの見事なる残心を見よ。全く心が乱れておらぬ。おそろしき者じゃ」
「あー、例えばですが、山林の中を進むとき、彼の武者が潜んで武将格を狙撃すれば……」
「うぬっ!?」
さすがに殿の顔色が変わった。というか斎藤家の狙いもこれであろう。
「ふ、うかつに美濃に手出しはできぬな」
「あっちもそう思ってますよ。仮に何度かいくさをしてこっちが負けたとしても、損害の回復速度が違い過ぎます」
「ふむ」
「金回りの違いはあっちも思い知ったことでしょうし、商人を派遣して徐々にあちらの豪族どもをとりこんで行きましょう。ふふふ」
「お、おう」
「織田領の暮らしぶりをあっちに流せばよいのです。こちらの祭りもあえて間者を素通りさせたのはそういうことでしてね」
「ククク、天田よ。措置も悪よのう」
「いえいえ、殿ほどではありませんて」
「「わーっはははははははははははは!!」」
槍術大会は決勝戦で大いに盛り上がった。
「本多平八郎参る!」
「前田犬千代じゃ!」
観戦で心眼モードを発動させてみた。互いに中段狙いで槍を突き出し、ガキっとぶつかり合う。
「うりゃうりゃうりゃあああ!」
「ふ! ふん! ふんふん!」
鋭い突きの応酬で観客は素晴らしい盛り上がりを見せる。平八郎の円熟のある槍術に、若さと巨躯から繰り出されるパワーで圧倒しようとする。
「ふん、まだまだ無駄が多いな」
「息が上がってるぜおっさん」
「「ぬうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」
互いに煽り合ったところで再び突きの応酬が始まる。なおこの時点で、槍術大会の試合時間で最長を更新している。
観客たちはひたすら盛り上がっている。
「犬千代、がんばれ、がんばれええええええええええ!」
前田利久殿が声を涸らして応援している。その手には賭け札が握られていた。ああ……。
「平八郎! 貴様の槍に松平の未来がかかっておるのだ!」
同じく声を張り上げる酒井忠次殿の手にも賭け札が握られていた。
「藤吉郎?」
「ああ、商人から報告が上がっております。岡崎城の軍資金のほとんどを突っ込んだようでして……」
「おいいいいい……」
「面白い。あの二人には褒美を与える故、それで補填ができるであろう。とことんまでやらせよ!」
殿は目をぎらつかせて試合の行方を見守っている。
「くく、犬千代があれほどの才を持ち合わせていたとはのう……」
槍の応酬はさらに激しさを増して行く。そして決着は意外な形でついた。
「はあ!」
打ち合わせた槍がぽっきりと折れたのだ。折れた槍は……犬千代のものだった。
「そこまで! 勝者、本多平八郎!」
殿の一言に二人は動きを止めた。がっくりと膝をつき、涙をこぼす犬千代の肩を平八郎がポンポンと叩く。
「三河一の剛の者とあれほどまでに渡り合うとは……」
「これが若さか……」
「まだ元服もしておらぬというに、末恐ろしき武者であるな」
平八郎の武名は、皮肉なことに尾張との抗争で高まっていた。常に先陣を切り、槍先に上げられた高名な武者は多い。
そんな平八郎と互角以上に渡り合った前田犬千代の名は大いに高まった。
殿に褒められ面目を施した犬千代と、掛け金をすって泡を噴いて倒れた利久殿、そして緊張が解けて顔面蒼白でへたり込んでいる酒井忠次殿。まさに悲喜こもごもだった。
本多平八郎には武衛様より朱槍と褒賞金が与えられる。銀板10枚を拝領してホクホクしていた。
犬千代は、その場で殿が烏帽子親となり元服を許された。
「前田又左衛門利家と名乗れ」
「ははっ!」
「ああ、利久殿。犬千代をあれほど見事に育てた功を殿が賞しておりましてな」
「は、ははっ?」
「この銭を賜うことじゃ」
「は、ははー!」
というか、家の銭全額持ち出して弟に賭けるとか、わからんでもないがやり過ぎだろ。
武術大会1日目はこうして幕を閉じた。
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