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津島神社奉納相撲

 馬揃えの翌日、津島神社には続々と人が詰めかけていた。門前市には売り買いの威勢のいい声が響き、普段に倍する活気で満ちている。


 境内の中央には土が盛り上げられている。円のように俵を巻き、中心には線が2本引かれていた。いわゆる現代の土俵である。


「相手を倒すかこの円から押し出せば勝ちとしてはいかがかと」

「なるほどのう。であれば小兵も立ち回りようによっては勝てるというわけか」

「はい、番狂わせが起きれば賭け札もよく売れる事でしょう」

「なるほどのう。天田よ。そちも悪よのう」

「いえいえ、お殿様ほどではございませんて」

「「はーっはっはっはっは」」


 大会の前夜、土俵を前に俺と殿の高笑いが神社の境内に響いていた。


「はっけよい!」

 行事は殿自らが務めた。目に留まるどころではない。殿の目の前でその武辺を示すことができるのだ。相撲はいやおうもなく盛り上がった。


「本多平八郎、参る!」

 特に三河より竹千代の馬廻りを勤める本田忠高の気合はすさまじかった。岡崎衆としては、滅亡の危機を救われた恩があり、同時にその強さで織田家に貢献しなければならない。可能なら優勝。そうでなくてもより高い順位を狙わなければならない。


「ぬおおおおおおおお!」

 馬廻りの若武者は鎧袖一触に吹き飛ばされた。

「平八郎の勝ちじゃ!」

 三河からの見物人が歓声を上げる。そういえば槍の部でも出場を希望してたな。


「うりゃあああ!」

 小姓たちは別枠で参加させた。うちの小姓は出てない。というか、前田犬千代は普通に大人枠でよかった気がする。圧倒的な力で勝ち進み、優勝をさらった。なお、褒美は大人枠での槍武門の出場権だった。


 馬廻りの甚兵衛は初戦敗退でしょんぼりしていたが、殿の直参でもある馬廻り衆はやはり強い。それと曲りなりに渡り合った末の敗退なので、次は勝てとだけ伝えた。

 

「うぬううううううん!」

 いや、あれ反則だろ。マッチョポーズを決めてミキっと軋みを上げる様な筋肉を披露しているのは織田の武の象徴である柴田勝家殿である。織田最強の猛将として数々のいくさで武功をあげているが、例えばさっきの本多平八郎が細身に見えるほどのゴリマッチョに知らず汗がにじんでくる。実に暑苦しい。


 そして、なんだかんだ人気があるのだろう。町民たちから歓声が上がっていた。そういえば初めてあったのもここ、津島の市で権六殿は治安部隊を率いていた。正義の味方と言ったようなイメージで見られているようだ。本人も清廉な性格で悪事は許さんとか、力は弱者を守るためにあるといったお題目を信じている。

 それでいて頭も回る上に領地の統治も見事だ。あれ? 何この完ぺき超人。


 対戦は進み、準決勝まで来た。そこでアクシデントが起きる。勝ち進んできた馬廻り衆の塙直政殿が先の勝負で足をくじいた。

 そして……これもお約束なんだろうなあ。殿が指名したのは俺だった。


「くくく、手加減はしませぬぞ」

 一応槍働きの武功はある。というか、裃一枚で単騎駆けやらかした実績という頭おかしい奴の所業だ。

 そして目の前には本多平八郎殿がちょっと逝っちゃった笑みを浮かべていた。あ、これバトルジャンキーや。


『一騎打ちモードスタート』

 システムメッセージと共に、心眼システムが動き出す。最初にこちらの中段に赤の光が点いた。

「むっ!」

 突き出された拳をガードすると、そのまま突き抜けるような衝撃が走った。

「ぐぅ!?」

 ガードブレイクの強攻撃かよ!


「うらあああああああああ!」

 そのまま中段に蹴りが飛ぶ。ちなみに、勝敗ルールだけが現代版で、それ以外は何でもありだ。体重の乗った蹴りをまともに受ければ土俵の外まで吹っ飛ばされることは普通である。

 

「っと」

 崩れかけた体勢を無理やり立て直し、身体を横にスライドさせて避ける。そのまま一歩踏み込んでカウンターの上段突きを放つが、頭を揺らして避けられた。


「ククク、やりますな」

 なんかすごくいい笑顔を浮かべている。だめだこいつ。もういろいろ頭からすっ飛んで行ってる。

 視界の隅には殿の小姓控えのスペースで竹千代が頭を抱えていた。

「それなりに、な」

 そこからは凄まじかった。いつ息が切れるんだと聞きたいくらいに連撃が飛んでくる。そのすべてをガードしたり避けている俺もたいがいだが。息詰まる攻防に観客は黙りこくる。息をする音すら勝負の邪魔になるのではないかと、思われるような緊張感が続いた。

 平八郎が一歩飛び下がり、スッと息を吸う。来るな。


「はああああああああああああ!!」

 裂帛の気合と共に放たれる中段突き。これを待っていた。

「いよっと」

 身体を横に開いて回避。同時に伸びきった相手の手首をつかんでそのまま体に前方向の力を加えてやる。

「あっ!」

 バランスを崩した平八郎はそのままたたらを踏んで数歩前に進む。最後の一歩を踏んだ場所はちょうど土俵の外だった。


「ああああああああああああああああああああ!!」

 悲痛な叫びがその口から漏れ出す。

「勝者、天田!」

 殿の勝ち名乗りを受け、俺は意気揚々と土俵を降りる。

 藤吉郎が目をキラキラさせながら寄ってきて、手拭いと竹筒を差し出してきた。


「殿、お見事でした!」

「うん、どんな強い攻撃も当たらなければどうということはないってわけだ」

 少し調子に乗っていたのだろう。その一言を聞いていた決勝の相手がすぐ横にいたことに俺は気づいていなかった。


「良い勝負をしようぞ」

 決勝戦で相対したのは全身から湯気を噴き上げている筋肉だるま。我が元上司の柴田勝家殿だった。

「はっけよい!」

 合図と共に立った瞬間、全力でぶちかましを喰らい……。

「ぶべらっ!?」

 吹っ飛ばされてごろごろごろと転がったあげく、観客席に突っ込みかけたところを甚兵衛が受け止めるというファインプレーを見せ、何とか俺も無事に済んだ。


 土俵の真ん中では力こぶを作って良い笑顔を浮かべる柴田殿がいた。


「優勝者、柴田権六!」

 殿の勝ち名乗りにニカッと笑みを浮かべる柴田殿。見物客からの歓声は神社の外まで響いていたという。

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