違和感
幕間なので短いです。
画面の隅に警告が出る。このままゲームを続けると……おそらくひどいことになる。
ゲーム内自室に入るとログアウトの処理を行った。
「ふう」
ヘッドギアを外すとゲーミングチェアから降りる。下腹部の違和感に耐え、あわててトイレに駆け込むのだった。
「あら、もうゲームは良いの?」
「え、ああ。ちょっと休憩だよ」
トイレから出ると一緒に住んでいる彼女である智子が話しかけてきた。
「ふふ、新作ゲーム、ひと段落着いたらわたしにもプレイさせてね?」
「ああ、わかってるよ。けどVRギアの抽選率、やばいよ?」
「ふふーん。わたしの実家ってどこだっけ?」
「栄光コーポレーション……ああっ!?」
「そういうこと。シローくんの当選にはわたし関わってないけどね。ふふっ」
彼女とはゲームのコミュニティで知り合った。ゲームの趣味がすごく合って、オフ会で意気投合した。
おかげで礼のオフ会の日には友人として連絡先を交換していたし、なんなら恋人関係になるのにはひと月と掛からなかった。
そうして智子は週の半分くらいはうちに入り浸っているわけだ。
「じゃあ、今日は邪魔したくないから帰るね。晩御飯は作ってあるから」
「いやー、ごめん」
「ふふ、わたしも家から入ってみようかな」
「あれ? マルチプレイできたっけ?」
「ああ、そうかー! シングルプレイだけなんだ。秀くんに苦情言わなきゃ」
智子の弟は世界でも有数のプログラマーで、日本の誇る若き天才として表彰されている。
「ほどほどにしときなよ? 秀吉君も忙しいでしょ」
「姉より偉い弟なんて世界には存在しないのですー」
ペロッと舌先を出して笑う顔に何やらドキッとした。
食卓にはラップをかけられたおにぎりが置かれていた。お湯を注ぐだけで出来るインスタントみそ汁。あとは自家製のたくあんだ。
彼女とこうなってそれほど長くないはずなんだけど、なんというか懐かしさを感じる味だった。
うちのご先祖様は戦国武将だったらしい。幕末だかに没落して、今では一般庶民だ。智子の実家も同じような感じで、世が世ならお姫様だったと笑いながら言われた。
まあそれは別にいい。昔は昔、今は、今だ。
VRギアを装着して再びゲーム世界にダイブする。そしておぼろげな記憶がよみがえった。
「あれ? 俺彼女なんていたっけ……?」
読んでいただきありがとうございます。
感想、ブックマーク、いいね、ポイント評価、そしてレビュー。
全て作者の創作の燃料となっております!




