躍進
資金難を何とかするめどがついた織田家はまずは派手に銭をばらまいた。家臣への褒美に新田開発。軍備のために武具の購入。傭兵の雇い入れ。
城に詰めていた兵も数を増やし、人手不足も解消されつつある。
そして俺は……。
「お殿様、本当にわたしでよいのですか?」
「ああ。もちろんだ。むしろ……そなたがいい」
「はい、嬉しい」
大殿からもらった褒美で買いそろえた花嫁衣装に身を包んだ智が微笑みを浮かべる。
神社の神主の前で三々九度の杯を交わし夫婦の契りを結んだ。
大殿の名代として平手長政殿が笑顔で手を叩く。
いろいろと考えることはあった。嫁の実家の後ろ盾とか。そういう意味では織田の姫をもらうことが一番出世の近道だろう。
だがそれ以上に、日吉たちを身内に取り込んでおくことが重要だったのだ。何しろ史実の天下人だからな。
義弟となった彼らは目を潤ませながら笑みを浮かべていた。
「義兄上! 今後ともよろしくお願いしますぞ!」
大人ぶった日吉の言葉に周囲から笑みが漏れる。
ふと隣に気配を感じてそちらを見ると座敷童がいた。
「おう。お前さんも祝ってくれるのか」
「ああ、めでたきことゆえの。しかしながら……まさかそこまでするとはわらわも思わなんだわい」
「ん? どういうことだ?」
「よもや蔵の中身を丸ごと差し出すとはのう」
「ああ、そのことか。金ならまた稼げるしな」
「なんとも剛毅なる男よのう」
「身の丈を知っているだけだよ。身に余る財貨は我が身を滅ぼすってな」
「ふむ、そう思うならそれでよい。しかしあれじゃ。お主のふるまいによってわらわの力も増したようでな。清浄なる気を取り込むと良いらしい」
「へえ。ご加護が上がったってこと?」
「うむ、例えば……」
座敷童が指さした先には何やら物々しい行列がいた。
「おう、天田よ。婚礼の祝いを持ってきたぞ」
そこには柴田殿をはじめとする歴々の重臣が引き出物をもってやってきたところだった。
「あの時の娘か。似合いの夫婦ではないか」
「はい、実は平手様の養女となっておりまして」
「ほほう。先を越されたか。まあ仕方あるまい」
智は平手家の養女となっていた。家中に後ろ盾のない身であるがゆえに大殿が考えてくださったわけだ。
「先を越されたとは?」
「貴様は尾張で最も人目を引いておるからな。あやかし退治に大枚を織田家に献上しておる。いくさでも武辺を示した」
「いや、運が良かっただけですよ……?」
「その運が大切なのじゃ。武辺を誇った武者が一本の流れ矢で死ぬところを何度も見ておる故な」
「そういうものですか」
「まこと良き武士とはどんな窮地からも生きて戻ることよ」
実に実感のこもった言葉だ。
「故に天田殿にあやかろうという気持ちと、貴殿と縁をつなぎたいと思うものは多いというわけじゃ」
「これは森殿。わざわざありがとうございます」
森三左衛門殿は美濃から流れてきた一族で、その武辺は柴田様にも匹敵すると言われている。
地縁も結んだことで、俺は一人の武士ではなく、武家を立てたことになった。家臣として5人の足軽を雇い、村一つを領有している。立派な土豪である。
村:レベル6
忠誠度:128/140
発展度:139/150
開墾度:88/110
人口:890/1000
兵力:200/200(槍隊140 弓隊60)
訓練度:90/100
居館:館(防御100)
家臣に仕事を割り振る。それだけしておけば後はある程度自分で考えて作業をしてくれる。日吉は俺の側で助言と伝令だ。
月の半分ほどは古渡の城に出仕する。
「入会地の争い、国掟に従いて採決をいたしました」
「水利争いは新たにため池を作ることで双方退いてござる」
「城攻めの梯子の資材が届きましたぞ」
「熱田より加藤殿が参っております」
「津島会合衆より今月の税が納められました」
「寺領安堵の書面はどこじゃ!?」
四方八方からなにがしかの業務が行われ、それは多岐にわたる。村同士の争いを治めたり、軍備を整えたり。商人とのやり取りや寺社などの諸勢力との折衝。
なすべきことは無限にあるといってよい。
それでも予算が不足していたり人手が足りなくて棚上げされていた案件も資金の目途が立てば動き出す。
「大殿にお目通りを! 国境からの報告にござる!」
「川並衆より目通りを願う!」
ここで聞いたことのある単語が出てきた。
「おお、小六殿」
「ん……? おお、天田殿ではないか。ということは……織田様に仕官がかなったのか!」
「ああ、運よく機会があってな」
「というか……先だっての犬山とのいくさで具足も着ずに敵陣に斬り込んだ命知らずがいたというが……まさか!?」
「あー、俺、だな。意表をついてみたんだが」
「ぶはははははははは! とんでもないことをするのう! それで手傷らしい傷も負わなんだとは、おぬし、運が強いのう!」
小六殿と旧交を温めていると、通りがかった村井殿に殿のもとに引っ張って行かれた。
「おう、天田よ。伊勢守家はもうガタガタだな。侍が多く討たれたこともあって仕事が回っておらぬ。犬山との境目でごたごたが増えておる。近く兵を出すぞ」
「それは良いお考えかと。なれど清須より背後を衝かれませぬか?」
「うむ、先のいくさで当家の声望は高まった故な。清須より内応するものが出てきておる、無論それをそのまま信じ込むわけではないがな」
「ということは伊勢守家でも?」
「堀尾、山内が寝返った」
「やはり」
「うむ。貴様は此度のいくさ、那古野に詰めよ」
「留守居にございますか?」
「手柄を立て過ぎじゃ」
大殿は苦笑いを浮かべている。
「ほかの者と釣り合いが取れぬ。やっかみなども出てきておる」
「なるほど、では本拠の守りはお任せあれ」
「斎藤に通じて謀反を企んだ伊勢守家を討つ!」
大殿の呼びかけに清須の被官である土豪なども多く集った。伊勢守家の集めた兵力は500余り。弾正忠家のもとに集った兵は5000を数えた。
野戦をできる様な兵力差ではなく、城に籠るが援軍のあてなどは無い。大手門を守っていた堀尾、山内らが門を開け放って降伏したことで、城兵は士気を失って逃散。織田信安は降伏し、清須に詰めることとなった。岩倉には大殿の弟である信光様が入る。
清須城は尾張で最も大規模な城下を持つ。支配下の郡も豊かで尾張の国力の半ばを支配しているといっていい状態だ。
もちろん戦って負けるようなことはないだろうが、それでも犠牲が大きくなれば他国に付けこまれることとなり、今は従っている三河の松平一党も離反の動きを見せるかも知れない。むしろ五分の勢力まで持ってきたことが驚異的なのだ。
「天田、平手の供をせよ。稲葉山に赴くのだ」
大殿は次なる手を打とうとしていた。
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