守り神
「殿、やりましたな!」
屋敷の探索に加わっていた兵、足軽の甚兵衛が快哉を叫ぶ。機転を利かせて塩をまいたのは彼だ。
というか、それまではモブだったのが功績を上げたためかネームドの配下に変化した。
モブはステータス最低限で、1割程度の揺らぎはあるが逆に言えばそれだけの言い方は悪いがその他大勢だ。
出自は農民兵だったり臨時雇いの流民だったりする。
ちなみに、名前だけのネームドがさらに成長し功績を上げると苗字を与えることができる。史実における秀吉のような感じだ。
能力も教育で伸ばすことができるので、うまくすれば下手な史実武将よりも強くなる。
「甚兵衛。お前の機転で俺は命を拾った。戻ったら重く報いるぞ」
その一言で彼はくしゃりと顔をゆがめた。笑っているようにも涙をこらえているようにも見える。
「ははっ、ありがたき幸せにござる!」
ボスを倒して解放されたダンジョンは安全地帯となる。というか、ダンジョンアタックまで追加とかやりたい放題だな公式。
間取りは普通の武家屋敷と言った風情で、敷地も広く100ほどの兵が立てこもれるようになっている。実際には村人を収容することにもなるかもしれない。愛知郡は清須に近く、斯波家と戦うことになる場合敵の攻撃を受ける可能性があった。
「ふむ、ここが当主の席か」
板張りの広間に一段高くなっている上座。というか、あばら家だったはずなのだがボスである怨霊が消えた後はなぜか綺麗になっている。
「不思議なこともあるものですなあ」
「世の中、何があっても不思議じゃないさ」
甚兵衛の言葉に実感のこもった答えを返すと、とりあえず上座に座ってみる。そうすると甚兵衛をはじめとした兵たちが下座に並んで腰を下ろす。
「うむ、大儀!」
大殿をまねて声をかけると、彼らもすっとお辞儀をする。
「ああ、甚兵衛以外にも褒美出すから。危険な任に志願してくれたからな」
その一言にほかの兵たちも歓声を上げる。
「ほう、思うたより見事なる主にてあったるな」
……さっき消滅させたはずの怨霊の声がする。ふと目線を上げると広間の中央、兵たちの後ろに一人の少女が座っていた。
「消えたんじゃなかったのか?」
「うむ。わらわに取り付いておった悪しきものは清められて消えたぞ」
「……じゃあ君は?」
「この地に住まうあやかしではあるが、悪しきものではない故な。ちとピリッとしたが問題ないぞ」
ふと気づくと兵たちは凍り付いたようにその動きを止めている。というか時間が進んでいない。ゲーム内でもリアルタイムに時間が進んでいるがそのカウントが止まっているのだ。
リアル時間のカウントは止まっていないが。
「君の姿は彼らには見えていない?」
「うむ、霊的な波長が合わねば無理であろうな。それでな、わらわからそなたに言いたいことがあっての」
「言いたいこと?」
「なに、そう身構えるでないぞ。ただの礼じゃ。あのまま取り憑かれておったらばわらわ自身が悪しき祟り神になっておったであろうからな。救ってくれたそなたに感謝を」
そういうと少女は綺麗な礼をした。
「ああ、どういたしまして。仮に祟り神になっていたらどうなっていたんだ?」
「そうだの、尾張は悪しきあやかしの支配する地となっていたであろう。加賀のようにな」
加賀は一向一揆が守護を滅ぼし尾山御坊による一向宗が国を支配している。しかし本山である石山の支配を受け入れず、半ば暴走状態にあるらしい。というか、それって原因がマジでオカルトだったのか。
「さて、命を救われた恩は命にて返すが筋であろう。わらわはそなたが生ある限り守護を与えることをここに誓おう」
「は、はあ。ありがとうございます?」
「なんじゃ、気の無い返事じゃのう。まあよい。わらわは座敷童じゃからのう。そなたが住まう家に住み着き家に繁栄をもたらそうぞ。具体的には銭が無限に入ってくると思え」
「……はあ!?」
「家運上昇、一族繁栄、子宝沢山、一日一善!」
「おい、適当な四字熟語混ぜただろ」
「ホホホ、気にするでないぞ。とりあえず蔵を開けるがよい」
その一言の後、座敷童は姿を消した。
「殿! 我らは殿のために命を差し出しても悔いはありませんぞ!」
時間が動き出した。そうか、確か褒美を与えると伝えたんだったな。
「うむ。希望があれば考えておけ。俺にできる限りで果たす」
「ははっ!」
・システムメッセージ
守護霊システムが解放されました。
あやかしを見つけ助けることで彼らがあなたを守ってくれます。
ダンジョンやクエストを攻略することでその報酬として追加されます。
・座敷童 ランクSS
金運上昇、激運、毎ターン金銭収入があります。
えー、なんかすごいの来た。ってか金に困らないってことはやりたい放題ってことか。
屋敷の敷地を確認していると裏口側に蔵があった。さび付いた錠前を叩き壊して中を見ると……なんかすごい量の金銀財宝が収納されていた。
「う、うーん」
甚兵衛が卒倒する。そりゃそうか。
「えーと、そこのお前!」
「はっ、わが名は竜一と申します」
「わかった竜一、ここを見張っておけ。俺以外誰も通すな。大殿に報告してくる!」
屋敷を覆っていた黒い靄のようなものが晴れ、無事に帰ってきた俺を見て村人たちが歓呼の声を上げていた。
しかし今はそれに構っている暇はない。
「すまぬ、大殿に此度のことを報告するのでな。すぐに戻る」
「ありがたやありがたや」
伏し拝むようにひざまずく老人の手を取って立たせる。
「おい、屋敷に入る守りを固めるんだ。指図は甚兵衛と竜一に従え」
「は、ははっ!」
村はずれで待機していた兵たちに命を下すと俺は古渡に向けて走り出した。
「天田だ! 大殿に取り次いでくれ、急ぎ報告があると」
「は、ははっ!」
門番の兵は一人で駆けこんできた俺にけげんな顔をしつつもすぐに伝令が走る。中に通されると思っていたら大殿自身が走って駆け付けてきた。
「おお、天田! 無事か!」
「はっ。まずはご報告を……」
屋敷に取り付いていた怨霊を払ったこと、そして蔵で見つけた財宝について話をした。
「ふむ、本来ならばそれは貴様が見つけたものであるからして、貴様のものになるな」
「なるほど。であればその財貨は俺が好きに使っていいということですな?」
「うむ。兵を養うなり所領の発展に使うなり好きにせよ。謀反だけはやめてもらいたいがな」
ガハハと笑う姿は実に器が大きかった。今の当家の財政を考えれば喉から手が出るほど金は欲しいはずだ。
「では、我が家臣への褒美を除いて大殿に献上いたします」
「ほう、そうか。って!? え!? まじ!?」
珍しく大殿がうろたえている。どうやら相当のやせ我慢をしていたようだ。
「わかった。貴様の献身には後程報いさせてもらう。貞勝を呼べ。あと武者だまりの侍どもを集めよ!」
そうして急ぎ俺が接収した代官屋敷に大殿が自ら乗り込んだ。
「お、おお。これがあの屋敷か」
「はい。怨霊を払ったところなぜかこのようになりまして」
「まあよい。蔵へ案内せよ」
大殿の姿を見た甚兵衛たちは慌てて平伏する。
「役目大儀。蔵を開けよ」
「ははっ!」
開いた扉の向こうのまばゆいばかりの輝きに、大殿は呆然とし、村井殿はへなへなとへたり込むのだった。
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