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第3話

 茉莉も教室に戻ると、ハナは体操服の入った手荷物を持ってすぐにスタスタと出て行ってしまう。続いて廊下へ出ると、ちょうど隣のクラスからも一人の女子が出てくる。外国人の留学生の女子だ。不意に目があうと話しかけてきた。


「よろしいでしょうか? 気になっていたのですが、そちらのクラス前の壁に書いてある四文字熟語の意味を教えていただけませんか?」


「四文字熟語?」


 身長175cmほどはあり、長い薄めの金髪。欧州からの留学生と聞いていて、何度か見たことはあった。いざ目の前にすると茉莉より頭一つ分は大きく、スタイルも圧倒していた。


 聞くと、その文字に向かって指を指してきた。壁に貼ってある赤いプレートには、”火気厳禁”と書いてある。単なる注意書きだ。自分のクラスの方に貼っていないことに疑問をもったようだ。


「うーん、四文字熟語じゃない、かも?」


 適当に意味を教えておいた。金髪長身の美人女子留学生は、感慨深く納得したようなそ素振りを見せると、去って行った。茉莉のクラスは普通学級だが、隣は芸術や英語、商業などを特化して学ぶ学級となっている。1年生はその2クラスのみだ。


 着替えて体育館に入ると、すでに4人の姿があった。女バスは半面を使う。体育館を半分に割って、片側がバスケ、もう片側がバレー部だ。その半分をさらに男女で半分に割って、基礎練習をする。


 その後特に予定がなければ、最後の方に男女で30分ずつ貸し切り合い、1面を使用して試合などができる。女子は人数不足で基本的に試合形式が出来なかったので、男子にそのまま譲るか、男子の控えと試合形式を行ったりしていた。


 3ギャルは体操服ながらも、ヘアゴムを腕につけたりしたままリングにボールを打っては大ボリュームでゲラゲラ笑い、教室と変わらず自由自在だ。男子バスケ部どころか、バレー部からもそのやかましさに周囲から刺さる視線が痛い。


「うお! 爪割れたし、ありえねー!」「わははは、長すぎだっての」


 双子金髪の一人がどこかへ行ってしまった。3人そろって姦しいの2乗くらいある。

一人フリースローラインに立ってリングを見上げるハナの下へ行く。


「高くなった」


「え? ああ、ハナちゃんは中学からマネージャーだったもんね」


 通常、バスケットゴールは、小学生までジュニアの高さ、中学からは公式の高さになる。


「ああ……、そういう意味じゃないんだけど。練習メニューも試合の采配も全部私がやる。やりたかった」


「ええ!? たしかに、ハナちゃんはバスケIQ高いけど、大丈夫なの?」


「ふっふっふ。まかせたまへ。その代わり、試合は活躍しない」


「し、してよ」


 茉莉の記憶してる限りは、ハナも一応ガードのポジションだ。プロの試合を一緒に観戦していても、ボールの無い場所まで選手の動きには敏感だ。茉莉などは、どうしてもボールを持つ選手や見たい選手の動きのみに目が行ってしまう。


 ふと見渡すとギャルが一人も居なくなっていた。


「あ、あれ?」


「全員爪が割れたらしい。切りに行ってる。アホ」


「……」


 ズルズルズル……


「?」


 何を思ったのか、爪を整えに行き、その後最初に戻ってきた双子ギャルの一人が体育で使う踏切板を倉庫から持ってきた。ペイントエリア(※1)内のそれっぽい正面位置に設置する。次いで残り2人も戻ってくる。


「おーしダンクすんぞー」


 !?


「ええ!」「無理無理ムーリー」「出来るかお菓子賭けようべー」


 茉莉は驚き、他ギャルは出来る出来ないを賭け始める。


「やるしかないし赤髪の漫画主人公に出来てあたしに出来ないわけないし?」


「そいつできてたっけ? ミスってなかった?」「わははははは」


「……」


 適当にストレッチを終えると、両手でボールを掴む。助走位置まで下がってきた。

本気で飛ぶつもりなのだろうか。


「見てよう。あの2人アホだけど発想は天才的なの。やるのは真夜のほう」


 男子側もその奇怪な行動に、出来るかどうか気になったようで、チラホラ見はじめた。助走を付け、一直線に台を踏み切る。ボールを持つ手のほうが真上に上がった。


 ガンッ!


 そして、ボールがリングの先端にぶつかる。弾き返された。


「ぐへっ」 「ぎゃははははは!」「くっそウケル!」


 斜めな体勢となり真下に踵から落下していく。尻もちをつき、大の字で仰向けに倒れた。


 ――と、届くんだ! とういうか、何度かやればできそう。


「一応私達、4人ともミニバスじゃないけど、ジュニアクラブで一緒だったんだ。みんな3年ぶりくらいかな?」


 ハナは言うと、パンパンと手を叩き、3ギャルの方へ歩いていく。茉莉も追随した。


「それじゃ、練習メニューを言い渡す」


 それぞれ、マジでやるのかよーといったようなボヤキを出しつつも従うようだ。旧友といえども、3人とも人の言うことを聞くタイプには全く見えない。


 双子には液晶端末の資料を見るように言いつける。資料閲覧のの端末使用許可は得ているという。茶髪の優里には、フリースローの練習をするように言いつける。茉莉に球出しをしてやって欲しいとのことだ。


「じゃ、後はよろしく。ほっほっほっ」


メニューを告げると、ハナは人で走りに行ってしまった。

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