クラクドッティルはたどり着いた
聖暦一一五二年一〇月、極北島南東八〇〇キロメートルの海上にある『フエロ諸島』のクリムトヴォール火山が大噴火を起こした。
空高く舞い上がった火山灰は大陸西方を覆い、作物は育たなかった。
大陸西端の北に浮かぶアルビオン島及びエリーン島には火山ガスすら到達。硫酸を含む強い酸性雨に多くの家畜が死に、作物は枯れた。
その被害は当然極北島にも及んだ。風向きの関係で火山灰こそ届かなかったものの、世界規模の気温低下の影響から逃れることは出来なかった。
聖暦一一五三年は春が遅く、夏が来ずに秋が来た。極北島人は泣く泣く羊を潰し、この年を乗り切った。
聖暦一一五四年も春が遅かった。極北島人は多くの傭兵を大陸に送り出して口減らししつつ、誰も行ったことのない西の海『世界の果て』へ漕ぎだした。新天地を目指して。
クラクドッティルは、父ウルフソンと共に新天地を目指した一人だった。
強すぎる風に海は荒れ、旅に出た五日目には遭難してしまい、一八日も海を漂った。
渇きに耐えられず父は死に、その血をすすりその肉を餌に魚を釣ることで彼女は生き延びた。
一九日目の早朝、海が穏やかになっていることに彼女は気付いた。辺りを見回してみると、北西の水平線に何かが見える。
「きっと島だわ!」
彼女は北へとオールを漕ぐ。海流が西へ流れていることには気付いていたので、それを読んでのことだった。
予定していたよりは西に流れたが、彼女は無事そこへたどり着いた。
「まあっ!」
灰色のカバの巨木が生え、ベリーの花が咲き誇る、島にしては大きなその地に、彼女は喜んだ。
「さて」
どうやって生きていこうか? 腰に手を当てた途端、彼女は頭に強い衝撃を受け、意識を失った。
「****?」
「****!」
彼女は、毛皮の服を着た、その地に元から住む人々『カラリット』に捕らわれた。
当時カラリットも世界規模の気温低下に苦しんでおり、彼らも新天地を探し北へ旅に出ていたのだ。
カラリットは、クラクドッティルの乗っていた未知の物体『船』に興味を持ち、彼女から作り方を聞き出そうとした。
しかし全く言葉も慣習も異なるため、作り方を聞き出すことは出来なかった。
カラリットとクラクドッティルは共同生活を送り、お互いに言葉を学ぶことにした。
一年ほどかけて、クラクドッティルはカラリットの言葉を学んだ。
「私を故郷へ連れ帰って欲しい。代わりに船の作り方を教える」
そういったクラクドッティルのためにカラリットは若い男四人と熟練の戦士一人を選出し、クラクドッティルと共に極北島へと送り出した。
一か月と半月かけて、クラクドッティルらは極北島最大の港コルドへたどり着いた。
極北島の人々は毛皮の服を着た一同に仰天しつつ、彼女らを歓待した。この時極北島の食糧問題は、色々あって解決していた。
それから半月後。
クラクドッティルらの先導の下、極北島からカラリットの下へ交易船団が送られた。
『新大陸発見!』より百年以上前に、極北島人は新大陸こと『西ヒンドー大陸』に到達し、交流を始めていた。
クラクドッティルとカラリット出会いの地は『グリンラント』の『クラクフィヨルド』とされている。現在は都市開発が進み当時を偲ばせるものは皆無で、小さな石碑が立っているだけだ。