カーラドッティルは甘いものが食べたかった
極北島の開拓が一通り済んだ聖暦一〇〇〇年。五歳の童女であるカーラドッティルはとても不満だった。
「あまいのたべたい」
蜂蜜やキタカンバ水とは言わないが、ベリーのような甘いものが食べたかったのだ。
だが、村の周りは羊の牧草地ばかり。極北島では小麦や黒麦が育たないので、羊毛を作って売らないと飢えてしまうから仕方ない。
仕方ないとしても、カーラドッティルは甘いものが食べたかった。
「あまいのたべたいよー!」
川沿いに群生するマッドベリーが残っていないか、彼女は必死に探す。ベリーは貴重な食べ物なので、全て収穫済みであった。
「むう」
頬を膨らませていたその時、彼女は閃いた。
「ベリーふやしたらいいんだ!」
村の近くの湿地には、マッドベリーが生えていない。そこに、ここに生えているマッドベリーの木を持って行って植えれば、来年はきっと増えているはず。
「ふふん!」
彼女は誇らしげに、川沿いのマッドベリーの木を一本丁寧に抜いて、湿地まで持って行って植えた。
夕方家に帰ると、泥だらけなことと貴重なマッドベリーの木を抜いたことを、彼女はしこたま怒られた。拳骨を何度も落とされてたんこぶが出来た。
そして翌年。彼女は湿地にマッドベリーを植えたことをすっかり忘れていた。
時は流れて。
カーラドッティルが一八歳になり、夏のベリー収穫の季節に、長女であるギールドッティルが行方不明になった。
「私の娘が!?」
まだ二歳の可愛い盛りの娘が消えたことに、カーラドッティルは半狂乱になり、夫のアルナルソンが必死に探しまわっていた。
ギールドッティルは、その日の夕方、とても嬉しそうに帰ってきた。
口元をベリーで汚して。
ギールドッティルの頭に拳骨が何度も落とされ、カーラドッティルは泣いてギールドッティルを抱きしめた。
それからの事情聴取。
「あのね! いっぱいベリーがあったの!」
ムフンと胸を張るギールドッティルに案内されたのは、村人が近寄らない湿地だった場所だ。そこにはベリーがわんさか生えていた。
カーラドッティルは、その湿地が昔々に引っこ抜いたベリーを植えた場所だと思い出していた。
『ミーリィ村』近郊の湿地帯が全て、マッドベリー畑に変わるのに、それから一〇年とかからなかった。