ステファンドッティルは生き残った
聖暦七五〇年。一〇歳になったばかりのステファンドッティルは、ヴィーキングの奴隷狩りにあって村から連行され、船の上にいた。この時代のノルス地方ではよくあることだった。
不幸なことに、その船は嵐にあって転覆し、彼女はひとり流された。
彼女はどこかよく分からない、前までいた場所よりも寒い天然の港に漂着した。
彼女はそこで必死に生きようとした。
石を組んで家を作った。
森の枝を拾って薪にしたり、槍にして魚を突いたりした。
ベリーを集めて干物にし、大切に食べた。
野生の羊を飼い慣らし、羊毛を編んで服にした。
羊の革を靴にして、森深くに進んだ。
三〇年、彼女は孤独の中にいた。
そして三一年目の夏、港に船が漂着してきた。
漂着してきたのはヴィーキング商人のエギルソンで、一人で生きる彼女に驚いた。
「ここは極北島ですよ」
彼女はとても驚いた。まさか自分が『北の端』極北島にいたなんて思っていなかったからだ。
エギルソンも驚いた。ステファンドッティルの生活があまりにも豊かだったからだ。
エギルソンはステファンドッティルに提案した。
「村長になりませんか?」
エギルソンはステファンドッティルの知恵を頼りに、極北島を開拓するつもりだった。彼女は「一人じゃなくなるなら」とそれを了承した。
エギルソンはまずは一〇人の移住者を集めて、ステファンドッティルに任せた。彼女はその期待に応えた。
極北島はますます人が増え、子供すら生まれるようになった。
ステファンドッティルが子供を生むことはなかったが、移民の子供達に囲まれて、彼女は幸せそうだった。
極北島の玄関口である『コルド』は、ステファンドッティルの活躍によって成立した。そしてこの港町が、極北島開拓の拠点にもなったのだ。