上中下の下
目を瞑るまではスムーズな、本当に鉄道なのかと驚くほどなめらかに動いていたのにリズムが酷く乱れている。
探偵たちのいるボックスシートではまだ町内会の人たちと話が続いている。腕時計を見ると始発駅を出発してまだ数分しか経っていない。
すると探偵はいきなり立ち上がり
「解ったぞ!」と大声を出した。
「紙とペン!似顔絵を描く!」
すぐにお付きの一人が渡し、探偵はものすごい勢いで似顔絵を描き始め、あっという間に描き終えた。
「犯人はこいつだ。ただどこの誰だかが解らん。みなさんに会ったとき心当たりがないか聞いてみましょう」
六人は驚いている。
私は近づいて、
「いや、みんなに聞く必要は無いよ。犯人はこの電車の運転手だ」
描かれた顔を見ると、確かにさっきの男だ。さすが名探偵だ。
「え?なぜ解るんだ?」
探偵は素朴な疑問として言ったが、六人は話を聞いてなかった助手が突然何を言い出すんだと不思議な顔になっている。
私はさっきまで見ていた夢の話をして、
「まぁ夢は証拠にはならないでしょう。しかし犯人は、自分の異能が訳のわからないことでキャンセルされて動揺しています。今ここで犯人の目の前に行けば、動揺が加速していらないことを口走るでしょう。どうせ警察に突き出す事件じゃないでしょう?みなさんの掟で裁くんでしょう」
「いや、それはそうだけど」と町内会の一人。
「電車が停まるまでは待ちますか。動揺して事故を起こされちゃかなわない。電車が停まって逃亡するかもしれないので、次の駅の人に応援を頼みましょう。結構微妙だな」
「いや、犯人が運転手だと、なぜ思うんだ?」
私は探偵に説明をする。
「私に異能は無いよ。けどね、音に関してはいろんな経験を積んできた。だから見なさい聞きなさい、さっきまでは完全だった振動も走行音も、ガタガタになってるじゃないか。私に手口を無効にされて、動揺してるんだよ。起きてるときと寝ているときのちょうど境界線上で、自分の力が通用しない者がいるなんて、経験不足の犯人には理解出来ないんだろう。自分以上の能力者に会ったと思って、動揺してるんだよ」




