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 あ、始まったのか?

 わざわざ私の前にいるのだからな。

「観光ですか?」と言ってくる。

「ええ、私は遊びに来たようなもんですよ」

「そうですか。この鉄道が開通して数十年、仕事の往来は活発になり、都会に出て行く者もなんとか抑え、ようやく観光に力を入れるようになって、大勢の人を迎える準備ができるようになりましたよ」

「この土地の方ですか?」

「ええ、そうです。」

 確かこの港鉄道は、開業が五十年くらい前ではなかったか。聞けば開業前からのここを知っているのだという。

 話をして、やはりこれは現実ではないとの思いが強くなってくる。そろそろ停車駅に着く頃ではないか。アナウンスもしないし徐行もしない。しかし初めて来る場所なので、これがおかしいのかおかしくないのか、決定的な判断はつかない。

「まだ駅に着かないのですかね」

 聞くと男は、口に両手を当ててわずかに顎を引き上目遣いでこちらを見た。

「あなたはこの電車も港駅に行くのも初めてですよね、ならばこの電車は、駅に停まることはありませんよ」

「それはどういうことでしょう?」

「ここはあなたの夢の中なんですよ。あなたが駅を知らないならば、それは存在しないも同じです。無い駅に停まることはできないでしょう」

 おうおう。

「そうですかね?私の夢の中だったら、実物とは全く違う駅に停まっても、おかしくないんじゃないでしょうか」

 男はまたにやりと笑う。私の受け答えが面白いようだ。

「この鉄道が開通して、いろんなことがありましたよ。良いこともたくさんありましたが、ほとんどは普通のことです。便利になって電車を当たり前に使う、それが圧倒的ですな。しかしですね、ごく限られた件数ではありますが、鉄道ができて困ったこと、酷いことになった者もいるんですな」

「はぁ」

「私はその酷い目に遭った者なんですけどね、他の者は同情はしてくれましたがそれ以上のことは何も思いません。良いことの方が多いんだし、無くなったら困る。私もそれ以上何も言うこともできず一人で抱えていたんですけどね、ある日突然、不思議なことができるようになったんですよ」

「ほお」

「こうやって、他人様の夢の中に入れるようになったんです」

 男は顔をくしゃくしゃにして笑う。確かに身につけたら面白そうな力だ。

 男は両手で口を覆ったままひとしきり笑い、

「でこうやって、電車の中で寝ている人の夢の中に入りましてね、その人を手にかけることにしたんですよ」

「そりゃすごい」

「相手に恨みはありませんけどね、あ、あなたにも恨みはありません、ただこの鉄道に悪い噂が立てばいいって、それだけです。」

「ほうほう」

「最初は、といいますか、電車の中じゃなく家で寝ている人の夢に入ったときは、そんなこと考えませんでしたし、今だってやろうなんて思いません。始めて人に手をかけたときは、本当に死んでしまうか解りませんでしたけどね、でも事件になりまして新聞に小さく載りまして、本当に死んでしまうんだなぁと」

「ふぅむ、なるほどなるほど」

「というわけで、本当にあなたに恨みはないんですけどね、不運だと思って諦めてください」

 そう言うと男は背中から小刀を取り出した。ちゃんと鞘に入っていたから、背中がごつごつはしただろうけど、ベルトに挟めていたんだろう。

「なるほど、お話は解りました。しかし私に恨みなぞ無いという言葉が本当なら、夢の能力者と見込んでちょっと教えていただきたいことがあるんですが、いかがでしょう?」

「どんなことですかね?答えられることでしたら構いませんけど」

 鞘から刀身を抜き、右手に構える。私が逃げようとしたり抵抗しようとしたらすぐに刺せるようにしている。なるほど夢の中で一突きすれば、現実の相手は心不全で死亡するのか。

「私は最近、夢なのか睡眠障害なのかの微妙なところで困っていましてね」

 わざと顔を近づけて、悪事に誘うように力を込める。

「はぁ」

「ベッドに横たわって考え事をしていると、天井から大きな蜘蛛がぶら下がって降りてきて、驚いて叫び声を上げるんですが、蜘蛛はいなくなっているんです」

「はぁ」

「それが数回ありましてね、あと学生時代、教室で寝ようとうつむいて目を閉じたら、教室の中が見えるんですよ。驚いて目を開けて顔を上げて、見た光景と全く同じで不思議だなと。それがもう一回、部活動で全国大会に行って、会場の客席でまた目を瞑ったら、目の前の光景が見えるんです。このときも驚きましてね」

「…はぁ」

「それで調べましたら、科学的には〝入眠時心像〟という現象だと解説がありまして、別に怪異というわけではないらしいんです」

「……はぁ」

 あまり興味を持てない話題のようだ。

「夢は科学で考察されるとき、記憶の整理だとか無意識のガス抜きだとか、その人の心の奥底に入っていくようなことが言われますが、これが怪談の視点となると、外の世界に出るとか空を飛ぶとか、過去や未来に行ったりと活動範囲が一気に広まるのですね」

「えぇえぇ、解ります」

「そこで夢の怪異の専門家であるあなたにお聞きしたいのは、自分の魂なり意識なりが体や家の外に出るのはイメージ出来るんですよ、幽体離脱のようなことがあるんだろうと。しかし、他人の夢の中に入るのって、どうやって入るんでしょう?」

「……」

「幽体離脱の逆、その人の体にすぅっと入るのか、どこか特別の一点から入るのか、あるいは待ち合わせ場所のようなところがあって、そこで相手と出会うのか、どうなんだろうと知りたいのです」

「…どんな話かと思えば。とても教えて差し上げるようなことではありませんな」

 表情が一気に無くなる。さっきまでは表情豊かだったのに。機密事項というより単純に失望したようだ。

 小刀の刃を上に向けこちらに突きつけようとするのを見て

「残念です。つまらない話題で、気分を害してしまったようですね」

「他に何か言い残したことはありますが」

 無表情なまま言う。

「実はさっき言いました〝入眠時心像〟なんですけどね、最近また繰り返し見るようになりましてね」

 今度は何を言うつもりだ?と顔を傾け上目遣いにこちらを見る。

「布団に入って明かりを消して目を瞑る。そこで眠りに就けばいいんですけど、眠りに至らなくて考え事をする。すると目の前に風景が見えるのですな」

「……」

 夢の異能を自負するだけあって、聞く気を戻したらしい。

「すると人がいて、知ってる人だったり知らない人だったりするですが、話をしましてね。例えば「○○って、××だよな」と言いますと相手が「そりゃそうだけどさぁ、何言ってんだ馬鹿野郎!」と突然、何の脈絡もなく罵声を浴びせてくるんです。私は(え?なに?)と思うんですが、それでも会話を続けようと「でも△△って□□だろ」と言うと、「まぁそのときはそうなんだろうけど、てめぇふざけんじゃねぇぞ!」と、会話が成り立たなくなるんですね」

 男は怪訝そうな顔を崩さす、それでも聞いている。

「いや私のことを嫌いなら嫌いでいいし、罵倒するならするでいいんだけど、このタイミングはおかしいだろうと。もうこいつとは会話が成立しないなと判断して、強制的に夢を終わらせるんです」

 男は右手を動かして、私を刺そうとする、しかし刃が届く前に瞼を開け、現実に戻る。

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