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このフテーヤローどうしてくれようか。

 三日目。

 子供たちの波状攻撃は火の神様に捧げる儀式よりも過激かもしれない。と心のメモ帳に書いた私は、休憩をいっぱいしてから儀式に戻った。

 大きな通りを進み、だんだんと強くなる熱気の中、カシラはどこにいるのかなぁと探す。

 梯子に登って踊っている人を見て、わたしもやりたくなった。でも、ダメって言われたから我慢する。でも、タコさんをグルグル回すのは良いと思うの。うん、いいわよね。


「つか、熱っ!?」


 神力を纏ってないから熱と痛みがある。かと言って神力を纏うわけにもいかない。

 それよりも、周囲で火が上がっていないのに熱気がブワァと強くなっているのはなんでだろう?

 ドコーン、ドコーン、ガラガラガラガラガラガラ。


 ……ん? コレは家を壊している音ね。


 音の先を見ると、大きな木槌を振り回してドコーンドコーンと家を壊しているカシラが居た。

 やっと見つけたわよ。

 私は小走りでカシラの下に行く。


「カシラ、私も屋根の上でタコさんやりたい!」


 ビシッと屋根の上でタコさんを振り回している人を指差す。


「テヤンデイ、またテメェか!」

「ベランメイ、また私よコンチキショー!」


 テヤンデイへのベランメイ&コンチキショー返しは一日目でマスターしているのよ。スットコドッコイもできるんだからね。

 だからタコさんやらせて!


「このスットコドッコイ、川に戻りやがれい」

「ふっふっふっ、たしかに私は修行中だけれど、タコさんならできると思うのよ!」

「テヤンデイ、風を読めてからヌかしやがれスットコドッコイ!」


 か、風ですと!?

 風は修行で真っ先に外した苦手科目。

 それにしても、私が風を読めない事まで見抜いているなんて……さすがカシラ。

 でも諦めないわよ。それに苦手な事は必要な時に克服すればいいの!


「実践から学ぶ、それが私!!」

「このスットコドッコイ、どこのガキだ!」

「ベランメイ、さっさとタコさんやらせろい!」

「この、この! 逃げ足の早いガキだなコンチキショー!」


 私を捕まえようとするカシラの大きな手を躱して、何回もお願いしているとカシラの眷属がいっぱい来た。


「テメェら、このスットコドッコイを川に投げてこい!」

「「「応!!!」」」

「コンチキショぉおぉぉおぉぉ!」


 私はカシラの眷属から逃げる。

 大切な儀式のリサーチ中なのに鬼ごっこになっちゃったじゃない!


 四日目。

 カシラの眷属に捕まって川に投げられた私は、子供たちとの真摯な対話の末に『タイショウ』の称号を得た。

 今は、コブンたちとカシラの眷属の隙を伺っている。

 コブンたちが言うには、この川周辺はカシラが管轄しているエリアの住民が集まる場所らしい。

 儀式に対応できない人の避難所であり、カシラたちヒケシの休憩場所という事ね。

 子供は川遊びして、成人した女は奉納品ぽい食事を作り、成人した男は奉納品になる材料を集めて、休憩中のカシラの眷属が見張りという感じね。なるほどなるほど。

 それにしても、奉納品を食べながらの儀式なんて斬新ね。天界も予想できないレベルよ。


 ……ん? どうやらお腹ペコペコになって戻って来たようね。


 カシラが眷属を引き連れて奉納品を食べに来た。

 女たちはカシラの周りにいる眷属を蹴り飛ばし、キャッキャとカシラを囲うと、一人一人がおにぎりとタクアンなる物を差し出した。一人二個のおにぎりだから、四〇個かな。カシラはそんなに食べられるの?


「あれ?」


 女たちはカシラを見て頬を赤くしてる。

 なるほどなるほど。ふっふっふっ、私の目は節穴じゃないわよ。

 カシラほどの男なら、という事ね。


 ……カシラ、おにぎり四〇個、食べられるかな?


 女たちは頬を赤くして恥じらいを見せながらも、お残しは許しませんよと言うように目の奥をギラギラさせている。


 ……さぁ、全部食べろカシラ!


 カシラは一人の女から無愛想におにぎりを受け取った。

 キャーという黄色い声とキーという奥歯を噛んだ声が挙がると、女たちはこちらもこちらもと次から次とおにぎりを押し付ける。が、カシラが無愛想な顔を向けた瞬間、女たちはショボーンした。


 ……無愛想顔でおにぎり三八個をスルーしやがった。さすがカシラ。


 カシラは無愛想な表情のまま女たちの囲いから出ると、ワカガシラと呼ばれている細身の長身と対面する。

 女たちはワカガシラの一睨みでサササァと二人から距離を取ってるけど、声を抑えてキャッキャ言ってる。

 なるほど、無愛想なだけで近寄りやすいカシラと無愛想で近寄り難いワカガシラという事ね。


 カシラとワカガシラは難しい表情で話をしている。二人で確認し合うようにうなずくと、法被の襟を正すように伸ばして、一同を一箇所に集めて話始めた。

 女たちは二人の話に暗い顔になり、泣き出す。

 それは儀式に身を捧げた人たちの話だった。

 寿命のある生物にしかわからない悲しみ。尊い感情。

 死の無い神々には、理解は出来ても悲しむ事はできない。

 それは、人間だけが、寿命という制限がある中で祈り方や儀式を考えてくれるからだ。

 だから、神々はどんな儀式であっても嬉しい。

 嬉しいから、神様は出来る事でお返しする。

 いっぱい泣いて、いっぱい悲しんで、いっぱい頑張ったねて想ってあげて。


 その想いは届くから。神様が届けるから。


 でも見習い女神の私には、おにぎりを食べられなかった人の分まで食べるぐらいしか出来ない。


 ……モグモグ。タクアンもパリパリ、タクアン美味っ!!


 五日目。

 昨日は火の上がりも悪くてゆっくりした儀式だったけど、今日はまた白熱した儀式になった。

 私のやる事は一つ。

 梯子踊りダメ、タコさんダメと来たら、なんとかして梯子を支えさせてもらえないと見習い女神ハトルテの名が廃る。いや、レポートの信憑性が欠ける。

 だから、今日は積極的にカシラへお願いする。


 コブンたちにカシラの眷属へ波状攻撃させた私は、川から脱出して大きな通りへ到着する。

 息を整える間もなく、カシラが轟々と燃えている家から慌てて出てきたため、コレはチャンスとばかりに突っ走って行く。


「カシラ、梯子を支えさせぶぇええぇぇぇぇ!?」

「このスットコドッコイ!」


 危うく家の倒壊に巻き込まれるところだった。

 カシラが家から出て来た勢いのまま私を捕まえてくれなかったら、神力開放するところだった。危ない危ない。

 でもまぁ、カシラと話せるチャンスには変わりない。


「カシラ、梯子を支え……ん?」


 カシラは眷属に向かって私をポイと投げると、何も言わずに倒壊した家の隣の家へ入って行った。また、アレか? お決まりか? わかってるよ、わかってますよ。でも言わせて。解せぬ。


 ………………

 …………

 ……


 どうやらカシラは儀式中に盗みを働くフテーヤロウという悪者を追いかけているらしい。

 たしかに盗みは悪い事ね。フテーヤローは商売と家内安全の神様から罰がくだるわよ。

 でも儀式中の今、フテーヤローが天への階段を登る事になったら、火の神様に命を捧げた事になるから罰にはならないわね。

 私としてはどちらでも良いのだけれど、フテーヤローが早く階段を登るか捕まるかしないと、私の梯子を支える時間が無くなるわね。うん、それは許容できない。


 ……それに、ふっふっふっ、カシラに出来る子だと認めさせるチャンスね。


 私は見習い女神の中でも、やれば出来る子だと言われてる。

 私の辞書に有るのはやるかやらないかの二択ではない。やる一択だ。

 そして、やるからにはやり方を考えないとならない。

 だから私は、見習い女神たちを担当する神様に『ムニャムニャ明日から本気出す』と、明日にやると伝えている。次の日に違う事をやらせようとするから、またやり方を考えないとならなくなるだけだ。私はカリキュラムに問題があると言いたいわね。


 カシラの眷属に抱えられながら色々考えていたら、川に戻され、慣れたようにポイされた。

 私はフテーヤローを捕まえるために、カシラに私は出来る子だと認めさせるために、そして梯子を支える許可を貰うために、行動した。


 私はコブンをカシラの眷属に差し向けては、大きな通りを目指した。

 大きな通りに行くと、盗っ人を見つけて特攻し、家が倒壊する度にカシラに法被をかぶせられた。

 カシラは私を眷属へポイし、眷属は私を川へポイした。

 それらを一〇回ぐらい繰り返していたら、カシラがフテーヤローを縄でグルグルに巻きにして川へ連れてきた。


「悪ガキども、このフテーヤローを見張るのがお前たちの仕事だ」

「「「おう!」」」

「ちょっと、私は梯子を……」

「このフテーヤローを、見張るのが、お前の仕事だ」

「はい」


 カシラ、怒ってるね。

 コブンたちもフテーヤローの見張りにノリノリだし。

 まったく、フテーヤローが悪い事するからカシラの機嫌が悪いのよ。

 私は見習いでも女神なのよ。その女神の行く道を邪魔するなんて、神様への冒涜や裏切りに匹敵するわ。


 ……このフテーヤロー、どうしてくれようか。


 でも、たとえ悪い事をしたフテーヤローであっても、見習い女神の私は人間に罪を与えられる立場ではない。

 プンプンしてるカシラに見張りを任されたから、私とコブンたちはフテーヤローの見張りをするしかない。

 カシラの命令。それはもう大義名分と言うに相応しい。それならば、タイショウである私はフテーヤローが逃げないように、そしてコブンやお母さんたちに危険が無いようにしないとならない。


 何事も、何かを成し遂げるためには、考えてから行動しないとならないのだ。

 そして今必要なのは環境の改善。


 避難所兼休憩所には、簡易な調理場と雑魚寝用の筵、そして儀式で余った木材やカシラたちが家を壊すために使っている予備の大工道具がある。

 ふむふむ、フテーヤローは縄でグルグル巻きにされているとはいえ、こんな環境で見張りをするには心許ないわね。


「さぁ、コブンたち、カシラの命令よ! フテーヤローを確実かつ安全に見張りをするわよ!」

「「「おう!」」」


 私はコブンたちに大工道具を持たせて木材を加工させる。

 更に、安全に見張るため、縄でグルグル巻きのフテーヤローを木と木の間に吊るして人間ハンモックにする。

 後は、コブンたちに作らせた椅子、ハンモック人間のフテーヤローが少しでも動いたり縄を弛ませたりしたらお尻がとんでもない事になる、神様を裏切った者に相応しいピラミッド型の椅子をフテーヤローの下に置く。

 これで、確実で安全な環境の完成だ。


 戻って来たカシラたちがフテーヤローを見ないようにしていたのは、私たちが作った環境に問題無いと判断してくれたからだろう。


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