表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

エピローグ~丸くおさまったその裏~

 カレンとキュール。

 二人は前よりもずっと距離が縮まった。その一方で。


 アクロイド卿とローイッシュ卿はソファに並んで座り、向かいで恐縮する親子を無機質に眺めていた。

 キュールの父ノイマン・アクロイドは、シュタイン家に婿入りした自らの弟とその娘の対照的な態度に、一切の感情を削ぎ落としたくなった。

「さて。言いたい事はあるか」

「兄上。本当に、リーアが申し訳ない事をした」

 平謝りをし悔いる弟の横で、縮こまりながらも憮然と横をむいているリーア。そんな姪の姿に、どうしてこうなったのかと呆れるばかりのアクロイド卿。

「俺に謝られてもな」

「かと言ってこちらに謝罪されても困る。特に……娘に直接会わせるなど」

 と、これはカレンの父ローイッシュ伯爵。

「カレン本人は何も言わなかった。誰に、何を言われ、何を貰ったのかなど」

「そうだ。彼女は何も言わない事で手打ちにしたかったのだろうが、そうもいかなくてなぁ。それに俺にも、息子の珍しい『お願い』を叶えてやりたい親心というものがある」

 すっ、と目を細めたアクロイド卿。

「『絶対に許さない』。キュールからの伝言だ」

 憮然とした顔が一転、じわじわと蒼白になり涙を浮かべるリーア。

「私刑をしようと言うのではない。これはれっきとした傷害事件だからな。お前を裁くのは、法だ」

 まだ子供だからと好きにさせていた責任は当然親たちにある。だが、もう善悪の分別がつく年齢であるリーアのした事を見逃すのは、それこそ人道に反する。


 成人一歩手前だがまだ親の庇護下にある子供の年齢。そんなリーアの処遇が果たしてどの程度になるのか未知数だが、ここが落としどころだろうと二人は重い溜息を押し殺した。

 結果、魔力を失ったが無事であるカレンと、そんな彼女に改めて求婚したキュール。二人が現在幸せである事が救いであった。

 親たちにとっても、罰を受けるリーアにとっても、だ。





 それから。

 幼い頃から続けていた魅了術の研究を認められ、弱冠18歳で魔術研究職を得て独立した男がいた。


 台頭したどこか陰のある若い研究者の、その地位と実力を認めた令嬢たちが当然目を着ける。

 だが、そんな彼の隣には、常に婚約者である女性の姿があった。やっかみで彼女の魔力の無さを揶揄する周りだったが。

 しかし、それを言われると必ず彼女も、彼も。

 ただ顔を見合わせて幸せそうに笑うばかりであったと言う。


 後に、夫婦となったその男女は語り合う。

「結局私の魅了の力って何だったの?」

「ん、無意識に魅了術を発する人って、本当に無自覚に手当たり次第辺りに力を振りまくんだ。でも君は最初から……出会った時からちゃんと自制できてた」

 今思えば、最初から本当に魅了したい人間にだけその力を振るっていたのだ。と男は言う。これも相当珍しい事象なのだと。

「私を好きになってくれたのも、魅了のせい?」

「いや、おれ防いでたし……というかそれ言わせるなら……覚悟して」


 おかしそうに(さえず)って身を委ねる妻。

「君は、昔から……綺麗だ」

「魔力が?」

 若草色の目が意地悪く細められる。

「魔力、ないけど」


 その琥珀色の頭に口付けを落とす事で、夫は答えとした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ