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八歳~魅了~

 初めてカレン・ローイッシュとキュール・アクロイドが出会ったのは、八歳。両家が懇意にしている公爵夫人のお茶会での事だった。


「あのっ、カレン・ローイッシュと申します」

 人と接するのがこの頃から苦手であったキュールは、小さな体を庭の垣根に隠れさせぼけっと座っていた。隠れるには少々目立つ銀の髪が日差しを受けて輝く。

 そんな彼を目ざとく見つけたカレンは、何故だか一目で彼に気を惹かれた。

 そうして彼女が話しかけてきたとき、キュールは強烈な芳香を感じて思わず魔術障壁を張る。咄嗟の自己防衛だった。

(……魅了……)

 まさか、自分と同じくらいの子がそんな術を、よりにもよってキュールに掛けてきた事に警戒するが。琥珀色した髪を外行き用に丁寧に巻いて、大きな目は若草色。キュールはまるで邪気も裏もない少女(カレン)にその警戒も薄れた。

「なにをしているの?」

「べつに、なにも……」

 キュールは総じて、こういう屈託のない子供が苦手であった。独善的で、無理にでも手を引き自分たちの輪に加えようとしてくるから。だがカレンは俯くキュールに対して、それ以上をしなかった。

 キュールの向かいに同じようにぺたんと座り込む。手入れされた芝生の上とはいえドレスが汚れるのも気にしないで、むしろキュールの方が珍しく気を遣う程に、カレンには躊躇というものがなかった。

「え、汚れる……」

「なにが?」

 こてんと首を傾げたカレンは本当にただキュールと話がしたかっただけだ。庭の垣根にひょこっと見えた銀色に惹かれ寄ってみると、そこには同じ年くらいの男の子がいて、何故だかとても話かけたくなった。というだけ。

 そんなカレンをキュールが見たところ、妙な魔力の淀みも意図的な流れも見えない。どうやら彼女は無意識に魅了の術を巻き散らしているようだと判断した。


 魅了の術は今は禁忌と呼ばれ、故意に使用する事は刑罰、恐らく無意識でも抑制の術を施される。もしくは――。


 しかしキュールに屈託なく話しかけるカレンにその様子はない。

「あなたはどこの子?」

「……アクロイド家の」

 大きな目をぐるんと上に向けて考え込んでいたカレンは、ぱっと笑った。

「キュール・アクロイド様ね! よろしく」

「え、なんで」

 名前を知っているのか? というキュールの疑問はすぐに解けた。社交的なカレンは、この茶会に集まる同じ年頃の子供の名前は頭に入れてきているのだ。

 キュールがさらに観察してみると、発している魔力は微々たるもので他人の心理に大きく作用するものではないと判った。

「キュール様は、お菓子を食べないの?」

 小さいカレンの指が、垣根の向こうに展開されているであろう茶会の場を指した。キュールは子供ながら小さく胡坐をかいていて、そのまま首を振った。

「甘い物、にがて?」

 言われた事に、今度は首を傾げたキュール。食べ物に好き嫌いは特にない。というか、考えた事もないというのが彼の実状だった。

「そっか。じゃあ、キュール様はなにが好き?」

「べつに、好き嫌いは……」

 そうではない、とカレン。キュールが普段何をしているのか。どんな事をして遊んでいるのかを知りたかった。

 彼女が興味を向ける度、キュールは自分に向けられる魔力の芳香が強まっていくのを感じていた。不思議なのが、キュールがカレンと直接話をした時だけ強力な魅了の術が発生する事だ。茶会が終わった後でカレンを観察して、そんな結論を導き出す。


 非常に興味深く、そのメカニズムを解明したい欲に駆られるキュール。それと同時に、このまま成長すると魔力が高まり自分以外の人間に魅了の術がかかるのを危惧した。

 カレンを傍に置いて、道具を使わずとも徐々に魔力を抑えていく研究をしたいキュールだが、直接それを言う訳にはいかなかった。

 無意識の魅了は本人に知らせてはいけないのが定石。


 その茶会を期に縁切れると漠然と思っていたキュールだったが、その後も何度となく二人は会う事が多くなった。

 貴族の学び舎、その初等部に入学した二人は必然的に顔を合わせるから。そうでなくとも、カレンがキュールに会いたがった。キュールは目立つ事が好きではないと知っていたカレンだから、人目につかないよう気を遣ってまで。

 キュールは僅か十にも満たない年であるのに、すでに魔道具を自作する程優秀であった。しかしその用途は『カレンと会う度に魔術障壁を張るのは面倒だから』という理由だ。


 そうして交流する内、お互いを知っていく二人。

「動物が好きなの。特に」

 中でも猫が特別好きなカレン。

「普段……べつに、ただ空をみてる」

 研究していない時はぼうっと空を眺めるのが日課であるキュール。

「空の色、好きよ。キュール様の目みたいね」

 遠く高く抜けるような空色の目を綺麗だと思うカレン。

「……君、ともだち多いんだね」

 遠目からでもそれと判るのはカレンの琥珀色が目立つからだと思い始めるキュール。


 この頃からカレンは既にキュールに恋をしていると自覚していた。

 キュールは、人が苦手でありながらこのカレンに対しては傍にいても苦手意識を抱く事がなく、何故だろうと自ら首を傾げるくらいには彼女を意識の中心に置いていた。

 二人に共通して言えるのが、『居心地がいい』という事だった。


 そんな二人の関係に名前がついたのは、初等部を卒業する十二歳を迎えた頃。

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