3話 仲間
神様が帰ったあとは暇だったため、約束の12時までゆっくりと……とはいかなかった。というよりはさせてもらえなかったというのが正しい。食事をして風呂に入ってさあ、ゆっくりとしようと考えていたとき突然優花から電話がかかってきたのだ。ちなみに優花とは今日俺が助けようと突き飛ばしたやつのことである。
俺はもともと話すことなんてないし、母さんがそれを見てにやにやしているのを見て電話に出てすぐに切ることを決めた。しかし、現実はそうもいかない。
「電話、勝手に切ったらあんたが毎日してることあんたのお母さんとお父さんに言うから」
これを電話に出ると同時に言われてしまい、切ることができなくなってしまった。根はいいやつどころか根っこの先まで腐っていたというわけだ。きっと、優花という名前は優しいに花、ではなく優しくないに花なのだろう。
それからは、今日俺が突き飛ばしたことに始まり、それについて俺が危ない薬でもやってるのではといったような事実無根の話を繰り返し繰り返し聞かされたり、果ては今日日母親とだってすることのないような日常会話を延々と3時間にもわたって話すことを強要された。これは訴えても勝てると思う。幼馴染みとして生まれてしまったことをこれほど後悔した日はないだろう。
その後、疲れながらも母さんに12時から出かけると伝えるとまたニヤニヤしながらお熱いわねぇ、朝までには帰ってきなさいよと言われた。解せない。
「はーい、迎えにきたよ……って大丈夫? もうすでに戦いでもあったような顔してるけど」
神様は予定の12時よりも10分もはやく俺の部屋に現れた。そして、俺を見ると心配そうにする。きっと、俺がこんな調子で戦いなんてできるのかと思っているのだろう。でも、心配はない。俺は転生するためなら何だってできる男なのだ。
「大丈夫です。それよりこれからどうするんですか?」
「いや、だって」
「大丈夫です」
「うーん、それならいいんだけどね」
そう言ったにもかかわらず神様は心配そうにしていたがやがて俺の強情っぷりを見て言っても変わらないと分かったのだろう。ゴホンと一つ咳払いを入れ、話始めた。
「これから君には約束通り戦ってもらうわけなんだけど……」
神様はそう言って俺の体を上から下までじっくりと見る。
「どうしたんですか?」
「いや、もしかして君って武術の達人だったりするのかなぁってさ」
自分では気がつかないがそんなに強そうに見えるのだろうか。
「そんなふうに見えます?」
「見えない。武術なんて何一つ知りませんって顔してるね」
見えないのか。まあ実際にそうだけど。そんなにはっきりといわなくても良いんじゃないだろうか。一応少しやってたことはあるのだけど。転生したあとに役に立つと思って、空手や柔道なんかを一ヶ月ほど。何故一ヶ月でやめたかは情けないので言わない。
「でも、それがどうしたんですか?」
まさか今になってやっぱり弱そうだから違う人にするなんていわないだろうな。
「だからさ、あげちゃおうと思ってさ」
「あげるって何をですか?」
「うーん、あともう少し時間もあるし。当ててみなよ」
あげる……か、安全を祈願したお守りとかか? 神様から直接もらったお守りなんてすごい御利益がありそうだな。あっ、でも、それだと今の話と関係がないか。ま、まさか。
「チート能力ってやつですか?」
……それはないな。自分で言ってなんだが、そういう能力っていうのは人間ができることを超えている。火をだしたり、植物を操ったり、斬撃が飛んだりなんかが良い例だ。それこそ転生でもしない限りは身につけることなんてできないだろう。
神様もむっと顔をしかめる。きっと俺が当てることができなかったから怒っているのだ。
あーあ、早く転生したいなぁ。
「悔しいけど当たりだね」
「やっぱり違いますよね。じゃあ、答えは何なんですか?」
「当たりだって」
「そういうのいいですから。いくら何でもそんな急には無理でしょ。俺、もう答え知りたいんですよ」
俺のその言葉に神様はさらに顔をしかめるがいくらなんでもできないものはできないだろう。
「信じてないね? 私に不可能はない。君にあげる能力がどんなものかはこの紙に書いてある。君の言うチートとは少し違うかもしれないが」
神様はそう言うと三つ折りにされた紙切れを手渡してくる。顔は真剣そのもので俺をからかおうとかいう気持ちはみじんも感じられない。
まさか本当に俺にもチート能力が? おいおいおい、これはすごいことになったぞ。どんな能力なんだ。早く確認しないと。
「まて、まだ開くな!」
早速中身を確認しようとするも神様に止められる。
「何故ですか! まさか、今のは全部嘘でこの紙にはドッキリ成功とでも書いてあるとでもいうんですか?」
だとすればこの世の中で最もひどい嘘だ。
しかし、まくし立てるように問い詰めるも意に介さず、ため息混じりにこう答えた。
「そうじゃない。あっちとの約束で人間に能力を与えてもいいが、能力の内容を知るのは直前とすることになっているんだ。だから、この約束を破ればお前は死ぬことになる」
危機一髪じゃないか! もし止めてくれなかったらと思うとぞっとするな。神様ありがとう。
しかし、じらされるとなおさら気になるな。
「そんなに慌てなくても時間が来ればわかるんだ。別に、今知らなくてもいいだろ。死ぬほど知りたいわけではないだろう?」
死んでまで知りたいわけではないが死ぬほど知りたいのだ。
そんなそわそわした考えを読んだのか、神様は笑いながら続けた。
「まあ、ヒントくらいなら。いいかもしれないな」
「本当ですか!?」
神様はそんなに喜ぶことかと苦笑する。
他の人はどうかは分からないがチート能力をもらうというのは俺の夢の一部のようなものなのだ。喜ばない方がおかしい。
「と思ったけど、どうやら時間のようだね。ちょっと無駄な話をしすぎたかな。能力はあっちに行ってからゆっくりと確認するといい」
「えっ」
そう言われて指がさす方を見れば時計の針は十数秒で12時になるというところを指していた。惜しかった、もうちょっとでヒントをもらえたのに。
「目をつぶって」
すぐに目を閉じる。神を間違えて開いただけで死んでしまうところだったのだ。いうことはしっかり守らないと、転生するためならともかく無駄死にするのはごめんだ。
「私がいいよって言うから、それまで目を開けないでね。さあ、行くよ!」
「はい」
行くと言われても、体が移動するような感覚もなく、他にも変わった様子はない。真っ暗な視界の中で俺はあることを考えていた。
「おやつ忘れた」
「もういいよ」
意外にも目をつぶってから大して間を置かずに神様の声が聞こえた。そういえば行き先を聞いていなかったなと、恐る恐る目を開ける。
目を開けると正面には金髪の女、右には時代を間違えたかのようなきものを着た筋肉質で侍みたいなおっさん、左には俺と同じ高校生くらいの茶髪でめがねをかけた男、俺も含めると4人が真ん中のテーブルを囲むように座っていた。周りを見渡すが、それ以外は一面真っ白で椅子と机以外には何もない殺風景な部屋という感想しかでてこない。
「おっ、来たか」
「やっとかよ」
大男がこちらに気がつき、それを聞いた左の男も会話をやめてこちらを見て、ため息をつく。
何がなにやら全く分からない。
俺が混乱しているとテーブルの中心があいて中から小型のテレビが出てきた。それは、どんどん上に登ってきてついには宙にういた。そして、もうすぐ天井に到達するかと言ったところで画面に光がともりそこに知らない男の姿が写った。
「はい、ちゅうもく。大事な話をするからよく聞いてください。あなたたちは叶えたい願いのためにここに来ましたね。ここに来た以上はここのルールに従ってもらいます。はじめに皆さんは仲間です。もし、皆さんが生き残ったら全員の願いを叶えさせていただきます。なので、皆さんで協力して戦ってください」
なるほど。初めて知ったけど、味方がいるというのはいいな。全員の願いも叶えるって言うのもいい。俺の他にも3人もチート能力持ちがいるなら楽勝だな。よしよし、俺は転生への道を順調に走ってる。素晴らしい。
だが、周りを見ると侍は満足そうに頷いているが、他の2人は神妙な顔持ちでモニターを見ている。
「じゃあ、はじめに各自自己紹介を行ってください。内容は、名前、年齢、叶えたい願い、そして、もらった紙を開いて能力を確認して、能力の4つと何か一言です。一番は東川 桃太郎くんお願いします。時計回りでね」
それだけ言うと画面は消えまた部屋の中は静かになった。まずは、桃太郎ってやつから自己紹介かさてどいつが桃太郎だ?
茶髪の男、でもない。金髪女、でもない。てことはやっぱり……。そんな俺の考えを肯定するように右の男が立ち上がった。
「ワシからだな。名前は先に神が紹介したように東川 桃太郎という。年齢は16歳、叶えたい願いは特にない。強いて言わせてもらえば強いものと戦い、立派な侍になりたい。あとは能力だが……」
「なあ、ちょっと待てよ」
一つずつハキハキと話していくがその中に聞き捨てならない部分があったのは左の茶髪めがねもだったらしい。全部そうかもしれないけどその中でも群を抜いて驚くことあったよな。よかった、金髪女も驚いている。そうだよな、俺だけじゃないよな。
「ぬ? 何かあったか?」
「おいおいおい、いくらこの中で一人おっさんはきついからってよぉ。嘘はやめようぜ、一応味方なんだからよ。いくら何でも16歳ってことはないだろ? 46か56の言い間違いだろ? もしくはジョーク」
そう、そこな! さすがに16歳はないよなこの見た目で16ってことは俺より2年も年下だぞ。
だが、そんな俺たちの疑問に東川は首をかしげる。
「ワシは正真正銘、齢16だが……?」
「まず16はワシっていわないし、齢なんて言葉も使わねぇ!」
「そう言われてもなぁ。事実である以上仕方なし」
「な、なら学生証をだして見ろ! 学生だろ16なら」
それを聞くと東川は思い出したように懐を探るがこれはもう無理だろう。しかし、よくこんな大胆な嘘をついたな。ばれるに決まってるのに。ていうか、これ嘘だよな。嘘だといってくれ。
「ほれ、あったぞ。これが証拠だ」
俺たちのそんな期待もむなしく東川は学生証らしきものをとり出し、見えやすいようにテーブルの真ん中に置く。
16歳、東川 桃太郎 神代高校 1年。自分の中の何かが壊れる音がした。
「は、ははそんな物偽物に決まってる! よく見せろ!」
はっ、そうか。まだ偽物だという可能性がある。それにかけるんだよ。そうだよ、神はいるんだよ。茶髪めがねは学生証を東川から取り上げ顔を近づけ、じっくりと眺める。だが、ある項目を3度見たあとに学生証を東川に返す。
「学校名……、神代高校って俺と同じ高校じゃねぇか。通りで見覚えがあると思ったよ……」
俺も神代だわ、見覚えあったわ。
「なんと! そうであったのか。ならば先輩と呼んだ方がよろしいか?」
「やめてくれ、頼む……!」
俺は同じ高校だってこと言わないようにしよう。茶髪めがね、お前に東川のあいては任せたぞ。
嘘をついていないことを証明した東川は学生証をもう一度懐にしまうと代わりに俺が神様からもらったのと同じような紙をとり出し、学生証と同じように見せる。
「では、自己紹介の続きをさせていただく。ワシの能力は……おぼれない能力と書いてあるな」
なんだそれ? どんな能力か全く想像つかないんだが。単純に泳げるようになるってことか? でも、すでに日本からアメリカまで泳いで横断できそうだしなぁ。
「まあ、どんな能力だろうと関係ない。ワシはこの身一つで戦うのだから。最後に一言だったな、共に戦い勝利を収め人類を救おうではないか。以上!」
おっと、時計回りだから次は俺か。
「俺の名前は北谷 京介、年齢は18歳、この戦いで勝ったら転生させてもらう……!」
「どうかしたか? 北谷さん」
「いや、なんでも。それより、北谷さんはやめてくれ。なんか怖いから。京介でいいよ、東川さん」
俺が転生という言葉を口にした瞬間背筋がぞっとしたんだが。殺気とかには一番に反応してその場でひねり上げそうな東川も気がついてないみたいだし気のせいだよな。茶髪めがねはまだ16歳、あれが……とショックを受けているようだし。さすがに、金髪女ではないだろうし。
「分かった。ならば、ワシのことも桃太郎で良いぞ」
「わかった、桃太郎くん」
「くんもいらんのだが」
不満そうにするがどうか勘弁してもらいたい。せめて、くんづけで呼ばなくては殺されてしまうような雰囲気がお前にはあるんだ。
「んで、能力は……」
そう、背筋に寒気が走ろうが桃太郎が向かってこようがそんなこと今の俺には問題なし。だって、この瞬間に俺のチート能力が目覚めるんだからな。それに比べたら他のどんなことだってどうだって良いことなんだよ。
俺はもらった紙を鼻歌交じりに広げていく。
「事故が起きる能力? なんだこれ?」
相手予想外の攻撃を仕掛けるとかか? だとしたら強いけど。どんな能力なんだろうか。
「ワシのものと同様によく分からんな」
「役に立たない能力ではないだろうし、いいか。では、最後に一言。転生について詳しく知りたいのなら俺に聞いてくれ。どれだけでも話す。むしろ話したいんだ」
「そういえば、転生? がしたいというのが願いらしいが転生というものが分からなかったのだ」
まさか、高校生なのに転生を知らないのか? しょうがないなぁ。教えてやろうかな。
しょうがないとはいいながらも教えたいので、聞きたいという人間が現れるとは思わなかったがうれしい誤算だ。
「この国にいて転生をしらないのは人生損してるぜ。桃太郎くん。よろしい、ならば教えてあげよう!」
「そんなにか!」
うんうん。言い反応だよ。こっちも教え甲斐があるってもんだよ。
「そうなんだよ。まず、そもそも転生とは……」
「負け犬が次の人生ではなんて希望を見ながら自分の命を絶つ、この世の中で最も愚かでくだらない行為のことよ」
今から楽しい楽しい説明タイムという時に今まで黙っていたはずの金髪女が急に口を開いた。声すら聞いていなかったので驚いたが次第にそれは違う感情へと変わっていく。
「今なんて言った? 金髪女。俺の聞き違いじゃなければ聞き捨てならんことをお前が言った気がしたんだが」
「あれ? 聞こえなかったかしら。自分一人が死ぬのは勝手だから口を挟まないつもりだったんだけど。誰かさんが何も知らない桃太郎君を洗脳しようとしてたからそれを止めるために大きい声で言ったのよ。聞こえなかったようだけどね。聞こえるようにもう一度だけ言ってあげるわ。転生なんて最も愚かでくだらない鼻からマヨネーズとケチャップ同時にすする方がまだマシってぐらいね」