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2話 神様

「その話、詳しく聞かせてもらおうか」


 手にはしっかりと感触がある。つまり、これは幻覚じゃない。


「分かった、分かったから手を離してよ。痛い」


 幼女は顔を少し、しかめる。どうやら、幻覚かを確かめるために手に力が入りすぎていたようだ。俺は一言すまんと謝って手を離す。すると、そいつはにこりと笑い俺の部屋のベットへと腰を下ろした。

 

「さて、どこから話そうかな?」


「とりあえず、お前がどこの誰かについて教えてくれ」


 触れたということから幻覚ではないと言うことは分かったが、まだこいつがなんなのかが分からない。これで、もしこいつがちょっとませているただのガキなら俺はショックのあまり転生することを諦めることになるどころか1ヶ月は部屋に引きこもるだろう。


「そうだね、早く伝えたいことがあったから忘れてたよ。単刀直入に言うけど、私は君で言うところの神様ってやつかな」


「まじで?」


「マジで」


 神様来たー! おいおい、勝ったわ。

 ちょ、ちょっと待て、おつち、落ち着け俺。まだ本物の神様と決まったわけじゃない。それどころか俄然怪しさが増したぞ。このぐらいの年頃なら、神様という単語を知っていてもなんらおかしくはない。平常心だ、平常心で会話を行うんだ。


「へ、へぇ~。じゃ、じゃあ何かその証拠を見せてもらえますか。神様」



 だが、待ち望んだ状況が突然目の前に現れたためうまくしゃべれず言葉がつっかえる。それを聞いたこいつはさも不満そうに口をとがらせる。


「ふーん、君は私が本当に神様なのかと疑ってるんだね。私はこんなに可愛いのにさ。可愛いは正義だってこの国の偉い人もいってたんでしょ?」


「た、確かに可愛いは正義ですけどですね。あと、偉い人は多分いってません。それに、それとこれとは話は別というか、いや決して信じてないなんてことはないけど、ですね。自分の中では99%はもう信じる気持ちでいっぱいなんですよ。しかし、この世の中には万が一という言葉がありまして、残りは1%なのに万が一というのも変な話ですがね」


 もう、自分でも何を言っているか分からないが、とりあえず言いたいことは伝わったのかこいつはやれやれといわんばかりに。


「やれやれ」


 訂正、やれやれと言いながら首を振る。俺はもし、こいつが神様じゃなかったらこいつのほおを全力でビンタしてしまう自信がある。それほどまでにウザい。


「まあ、仕方ないよね。証拠だっけ?」


 こいつが手をこちらに向ける。俺は突然のことに両腕をクロスさせて目をつぶり身構えるが何も起こらない。1分、2分。どんどん時間が経過するも何も起きない。


「ふふっ、なんで目を閉じるの? 怖いの? 目、開けないの?」


 ……そうかぁー、お兄ちゃんをからかって遊んでたんだね。なら仕方ないよね、子供のすることだもんね。でも、俺は子供だろうと女だろうと容赦なくビンタできる人間だからね。


 全力でビンタを浴びせようと目を開けたその瞬間、目の前に大きな何かが現れた。あまりに突然のことにビンタすることも忘れて後ろに飛び退く。が、体のバランスと崩して転んでしまう。

 自称神様はそんな転んだ俺に一歩ずつ近づいてきて上から見下ろす。


「驚いた? そんなに怖がらなくても大丈夫。これは幻覚、触れられない」


 俺はそんな神様の言葉にただ唖然とするしかなかった。そして、俺を見ながら神様は満足そうにうなずきながらこう尋ねた。


「こういうことができる人間っている?」


 俺は首を横に振った。





「これで私が神様だって信じてくれたわけでしょ?」


「はい」


 このお方が神様だということはもはや疑いようのない事実だ。そこはもう心配じゃない、だが俺はさっき神様をビンタしようとした。これも紛れもない事実だ。ばれてなければ問題はないと思うが自分を神様だという存在がそれに気がついていないはずがない。とすれば、俺がやらなければいけないことは一つ……!


「君の質問に私は答えたよね?」


「はい」


「はぁ~。じゃあ、次は私の質問に答えてくれるよね?」


「なんなりと」


「……なんでそんな格好をしてるの?」


 そうそれは、DOGEZA、土下座だ。これはあらゆる失敗を高い確率で無かったことにするという日本人なら誰もが持っている特殊能力。例えば、相手の顔面に牛乳をかけても土下座すればセーフ、相手の顔面にカレーをかけても土下座すればセーフ、さらには相手の部屋で勝手に焼きトウモロコシを作っても土下座をすればギリギリセーフになるのだ。


「あろうことか神様が神様であることを疑い、そのほおにビンタを食らわせようとした自分への戒めです」


 さあ、効果のほどは……!


「……もう許したからやめて」


 やはり、土下座の効果はすさまじい。正直な話、神様にすら通用するとは思わなかったのだが。

 神様はあきれたようにいくらなんでも人選を間違えたかな、でももうえり好みできる時間じゃないし、とかなんとかつぶやいているがどうやら本当に許してくれたようだ。しかし、ここでやったーなどと叫ぶことはできない。ここはあえて土下座を続ける。土下座は続けることに意味がある。


「いえ、それでは神様に申し訳が立ちません」


「じゃあ、私もう帰るね」


「どうしたのですか? 早くお話の続きをお願いします」


 土下座の最も重要な部分はひきどころだ。土下座を続けることに意味なんてないのだ。だらだらと同じことに執着するのは人間の悪いところなんだ。

 すぐに土下座をやめて正座へと移行するが、神様は先ほどと同様にあきれ顔だ。どういうことだ? 俺の何が気に入らなかったんだ。考えろ、考えろ俺。あれ、そういえば。


「うん、もういい。分かったよ。じゃあ、次は私が話したいことを話すよ?」


「すいません、やっぱりもう一ついいですか?」


「次土下座したら私は本当に帰るからね?」


「いえ、そうではなくてですね。その神様が作り出した幻覚にですね、どこか見覚えがありまして」


 そう、見覚えがある。どこで見た、というよりはもうすでに日常に組み込まれているものだった気がする。思い出せない、何だったか。


「何言ってるの、これは人間ののりもの、トラックでしょ」


「あっ、なるほど。確かにトラックですね」


 そうかトラックか、通りで見覚えがあると思った。ん? トラック、幻覚、触れない……。あれ、それってもしかして。


「すいません、神様最後に質問です」


「まだあるの? まあいいけどさ」


「今日、この場所以外でトラックの幻覚を私に見せたなんてことはないですよね?」


「?」


 神様はそんな俺の問いにさも意味が分からないというかのように首をかしげている。ああ、良かった俺の勘違いだっただよな。うん、そうだよな。あれは俺が見た幻覚、これは神様が見せている幻覚。全然違うな。


「君が幼馴染みだかの女と一緒にいた時のこと? それなら私だけど」


 神様だったんかい! これは怒っていいだろう。い、いや、ちょっとまてよ。よく考えれば全然アリだ。むしろ、その幻覚を自分の転生への執着が見せたものだった時の方が危なかった。神様が見せてくれたものでよかったんだよ。しかし、やはり釈然としない。例えるなら今日の晩ご飯はカレーだと言われて家に帰るとそこにハヤシライスがあったときのような。


「あっ、もしかして、何かそれを俺に見せなくてはいけない理由があったとか?」


「ないけど。私の趣味」


 神様の趣味かぁ。それならしょうがないね。だって神様の趣味なんだよ。それで、一人の人間が3年がかりの壮大な計画を諦めることになってもそれはしょうがないことなんだよ。そう、そうなんだ。俺が我慢すれば良いだけの話なんだよ、そう。


「おらっ!」


「わっ、あぶないな!」


 あれ、おかしいな。俺は我慢してたはずなのに何故か手が……。まさか別の何かに操られているのか! くっ、でもそれならしょうがない。きっと神様も許してくれる。


「しょうがないんだー!」


「何が!?」




「次やったら私は帰る」


「またまた~」


 これも、神様ジョークってやつなんでしょ。だが、神様が俺を見る目は冷たい。本気だ。怒っている。

 こんな時はあれしかない。


「すいませ……」


「ああ、それとさっきも言ったけど土下座しても帰る。あれ、なんかバカにされてる気がするんだよね」


「ふぅー、ふぅぅぅぅ」


 俺が土下座を繰り出そうとしたその直前に神様が思い出させてくれたおかげでなんとか土下座をキャンセルすることができた。のだが、急に姿勢を変えたことで腕が変な方向に曲げてしまった。痛い。

 しっかし、危ない。もう少しで全てが終わるところだったのだ、今からはもう少し慎重に動きたい。腕が痛い。


「……本題に入る。これからは質問は話がおわるまでなしだ。ややこしいことになるからね」


 腕の痛みに悲鳴を上げる俺を無視して神様は話し始めた。


「ふぅぅぅぅ、はい」


「本当に分かってるの? ……もういいや。君はバカそうだから簡単に話すよ。まず、私のことだけど私はさっきも言ったように日本の神様ってやつだ。日本にはいろんな神様がいるけど、その中でも主に安全を司っているのが私だ」


 なるほど。そんな神様までいるなんて、八百万の神様とはよく言ったものだ。よく知らないけど。あっ、交通安全の神様がいるくらいだから転生の神様なんかもいるんだろうか。会いたいなぁ。あと、腕が痛い。


「神様ってやつにも人間と同じように悪いやつと良いやつがいる。私はどちらかと言えば良い方の神様に分類される。ちなみに悪い方の神っていうのは人間絶滅させたいな、って感じね」


「へぇ~」


 転生の神様は良い方に分類されるんだろうか。良い方だったら転生させてほしいな。


「当然のことだけど今までは良い方の神の方が多く、力も強かったため人間は今まで生き延びることができたわけだ」


 そうなのか、神様ありがとうございます。でも、今なんでそんな話をするんだろうか。なんだか嫌な予感がする。


「今までは、だ。最近悪い方の神の中の一人が急に大きな力を手に入れて、今まで押さえ込むことができていたのにそれも難しくなってきたんだ。そのせいで神同士で戦うことになったんだけど、もうあちらとこちら、互いの力は拮抗するまでになっていたんだ。それでこのままでは人間たちにも影響がでると考えた私たちはなんとか話し合いで戦いを終わらせようとしようとしたんだけど。あちらがそれを拒否して困ってたんだ」


「なるほど、それでどうなったんですか?」


 こういう話を聞くと厨二心に火が付くな!


「それで、結局なんやかんやで私たちが戦うんじゃなくて人間たちに戦わせてはどうだろうと悪い方の神たちが言ってきたんだ」


「人間を全滅させたいって思ってるのに?」


「おバカな君でも分かったようだね。そう、そこなんだよ。正直なところ私たちはもう全面戦争にするしかないというところまで来てたんだけど。今までは一度もこちらと話すことすらなかったのに急にあちらが話し合いの場を設けたいと言ってきて、その話し合いでトントン拍子に話がまとまったんだ……ってまあどうでもいいんだけど」


 そこがすごーく重要な気がしてならないが確かにそれを考えてたらきりがないし、文句を言えばやっぱりなしとなることもあるかもしれない。


「そ、こ、で、ああやっと言いたいことがいえる。私は君を選んだというわけだよ。あとは君がはい、かYESといえばもう全部オッケー。これで話はおしまい。あっもう質問してもいいよ」


 なるほど、なんとなくだけど話は分かった。しかし、まだ聞いていないことがある。俺にとってはそれだけのためにこの話を聞いたまであるのに。


「神様、まだ俺を転生させてくれる話について聞いてないのですが」


「あっ、忘れてた」


 神様は本当に今思い出したように驚く。

 忘れてたんかいっ! ま、まあいいけどね。俺は転生できれば。


「えっと、生き残れば願いを一つ叶えるのでそこで転生したいと言えばいいね。終わり」


「ざ、雑ですね。なんだか」


 それに、生き残れたらって最悪死ぬようなことをさせられるのか、俺。


「そう? でも、君は転生ってやつができれば良いんだろ?」


 まあ、それはそうだけど。何かはぐらかされたような。そんな気持ちを抱えながらも確かに転生するためならなんでもするのでうなずく。それを見た神様も満足そうにうなずき、口を開く。


「問題ないってことだね。よし、最後にもう一度聞くよ。自分の願いのために私たちの代わりに戦ってくれますか?」


「はい!」

 

 俺がそう返事をした瞬間、体からは光が……なんて言うことはなく何も変わらない。もっと、こうブワーッってなるのを想像してたんだが……まあ、これから俺の転生という大きな夢を叶えるための物語が始まったと思えばそんなことは些細な問題だよな。


「あーあ、やっと肩の荷が降りたよ、肩こりなんて経験したことないけど。こんな怪しい話誰も受けてくれないからさぁ。私だけ決まってなくて焦ってたんだよね、でもよかった、よかった。君みたいな変なやつがいてくれてさ」


 今、神様が聞き捨てならないことを言った気がするが関係ない。俺の転生という……。


「あっ、そうだ。日付が変わる頃にまた来るから、ちゃんと準備しておいてよね。おやつは300円までだよ」


 な、なんだか遠足のようだが関係ない。これでようやく……。


「寝てたらたたき起こしてでもつれて行くからね? 途中でやめるはなしだから」


「……はい」


 大丈夫だよな? 俺ちゃんと転生させてもらえるよな?


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