1話 転生したい男
転生に絡めないと高評価が得られないと聞きました。
俺はどこにでもいる高校生、部活には入っておらず成績は中の下、身長は170cmで体重は秘密だ。
そんな俺だが秘密がある。それは体重なんかよりももっと重大な秘密だ。それは……、転生ガチ勢だということである。
これだけ聞いても何を言っているかわからないと思う人が多くいるだろうから説明しておくと転生ガチ勢とは世に不満を持ったり家族間の不和などの不遇な環境にあるわけではないがただ単に転生したいと常に考えそのために人生の内に3年間しかない高校生活という貴重な時間を削ってまで活動する人間のことを指す。そう今の自分のように。
「くそっ、今日が最後のチャンスなのに……」
今日俺はいつものように調べた結果近くで最もトラックが通る数と幼女が通る人数が多かったT字路に来ていた。もちろん突っ込んできたトラックから幼女を助けるためだ。
これは転生物ではお約束の展開であり、幼女を助けた自分に感動した神様がチート能力をくれるといったような分かる人が聞けば分かる最もポピュラーなものであるが起きる確率は極めて低いといってもいい。では何故これを選んだかであるが、転生には他にもいくつか種類があるが自力で起こせるものがこれしかなくしょうがなくこれになったのである。
しかし、今日は妙に車が少なく今も車が通る気配すらない。
あともう少しで小学生がここを通るというのに。
「あんた、まだこんなことしてたの?」
自身の運のなさから目から涙を流しそうになっていると後ろから声をかけられる。すぐに涙をぬぐって振り向くとそこには見慣れた幼馴染みの姿があった。
「こんなことって何だよ。俺にとっては自分の青春の全てをかけたことなんだぞ」
幼馴染みとはいっても俺が転生ガチ勢になってからは顔を会わせる度に俺の転生を止めようとするカスだ。今は幼馴染みとは思っていない。その原因は、毎日この場所で待つ俺を不思議に思ったこいつに何をしてるのかと聞かれたときに転生について熱く語った時にそんなのはただの死にたがりと言われたことだ。自分で言うのもなんだが、その言葉に大きなショックを受けた俺はその時から俺は自分が転生ガチ勢だということを隠すようになったのだ。
「それに俺がどこで何をしようとお前に迷惑をかける訳じゃないんだ、関係ないだろ。とっととどこかへ行け、転生のよさも分からんようなやつと話すことはないんだよ」
「はぁ~、あんたって本当にあのときから何にも変わってないんだね。転生だかなんだか知らないけどね、こっちは小さい頃から知ってるあんたに自殺されるとと気分が悪いの。十分迷惑、お分かり?」
「自殺じゃねぇって言ってんだろ!」
「呼び方の違いだけでしょ。あんたが死ぬのは一緒。とにかく早くやめてよね。じゃあね」
くそっ、気分が悪い。本当にこいつと話すとまるで自分が幼稚で異常なことをしてるように思わされる。やっぱりこいつとは永遠に相容れないようだ。だが、そんな俺の苛立ちを知ってか知らずかこいつは信号が青になると同時に手を振りながら横断歩道を渡っていく。
その時、一台のトラックが遠くからすごいスピードで走ってきた。止まる気配がない。だが、当然幼女はいない。ああ、また失敗だ、転生できない。いや、ちょっと待て、そんなことよりも。
「おい、危ないぞ。早く渡れ!」
「何よ……うるさいわね」
しかし、まるでトラックが見えていないかのように幼馴染みはゆっくりとこちらを振り返り文句を言う。
「バカっ、立ち止まるな! トラックが来てるんだぞ、見えないのか!」
そんな俺の発言に幼馴染みはトラックの方を向くもまるでトラックが見えていないかのように首をかしげもう一度こちらへと向き直る。
「トラックなんて来てないじゃない。あんた、本当に大丈夫? まさか、危ないクスリかなんかやってるんじゃないでしょうね?」
「そんなこと言ってる場合じゃ……、クソっ!」
全力で走るが間に合わない、これはもう幼馴染みだけでも助けるしかない。俺はトラックが当たる直前に幼馴染みを突き飛ばす。
自分もあんなに嫌っていたのに何故助けたのか分からないが不思議と悪くない気分だった。
「今、ゆっくりと痛みが……、痛みが……、あれ? 痛みがない。ああ、そうか死ぬときって痛みなんて感じないのか」
「私は! 痛いんだけどね!」
あれ、なんでこいつは普通に立ち上がって。ていうか今普通に俺しゃべってたか?
自分の体を見るが怪我はない。
「トラックは……?」
「ふ、ふふ。そうかぁ、無視かぁ。そんなに死にたいのならすぐに私がぶっ殺してあげるわ!」
「ちょ、ちょっとまてよ。俺はトラックからお前を助けようと思って」
「そう言えばさっきもそんなこと言ってたわね、じゃあそのトラックは今どこにあるのかしら?」
周りを見渡してもトラックなんてない。それどころか先ほどと同じように車すら通らない。
「ないですね、はい」
俺は幼馴染みの方を向いて今まで見せたことのないような笑顔で言った。
「殺すぞ」
幼馴染みも笑顔で言った。俺は走った、後ろで鬼のような顔をして大声を出しながら追いかけてくる幼馴染みを無視して全力で走った。
何とか鬼から逃げ切った俺は今日の出来事を振り返っていた。
「結局あれは何だったんだろうか」
しかし、いくら考えても答えは俺の見た幻覚だという答えしか出なかった。そうは思いたくはなかったがそれしかないのだからしょうがないのだ。
「もう、転生するのあきらめるか……」
そうだ、もう潮時かもしれない。きっとあれは神様が俺に転生を諦めさせるために見せた幻覚だったのかもしれない。
「転生させてあげようか?」
「ばーか、今俺はそれを諦めようとしてるんだよ」
「本当にいいの?」
「いいんだよ、自分でも自分が怖くなってきたんだ」
なんだか、戻れないところまできているようで。
「あんなに頑張ってたのに?」
「うるさいなぁ、お前に俺の何が分かるんだよ!」
さっきから、俺の言葉にいちいち突っかかってきやがって……。
ちょっとまて、今俺は誰と話しているんだ?
そう思い、声のする方をゆっくりと顔を向けるとそこには幼女がいた。
「お、お前だれだよ。ていうか、どうやってここに……」
もしかして、また俺の幻覚か? そう思って幼女に触れようとするも、もし消えたのなら本当に自分がおかしくなったと認めることになる。そんな考えが頭に浮かびさわる勇気がでない。
「そうなんだ。じゃあ、別の人のところに行くね?」
俺が迷っている間に、幼女はそう言うとどこか悲しそうな顔で扉から出ていこうとする。
ここで、幼女を無視すればきっと転生というものを忘れて、もとの生活に戻ることができるだろう。そんな予感がした。あいつも根はいいやつなためきっと謝れば許してくれるだろう。でも……
「ちょっと待て!」
俺はその手を掴んだ。
「その話、詳しく聞かせてもらおうか」