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哀しみの魔女

作者: 松本優紀

 今から5、60年前。エミリア・バレイアは一つの大きな決断を迫られた。

 アルエラン王国の神殿で一生を神に仕える身になるか、家族と共にこの世を去るか。


 彼女の身体には平民には有り得ない程の量の魔力を持っていた。

 彼女はそのせいで周りの人間に迷惑をかけていたのを知っていた。けれど、離れたくないという思いを強く持っていた。


 彼らもエミリアの思いを笑って受け入れていた。だから彼女は深く考えることなくそれを享受し続けていた。彼女がまだ世界を、身分や権力を知らない子供のときの話しだ。


 エミリアが10歳のときだ。町が花で溢れ、人々が活気づいていたあの日。彼女は選択した。



 彼女はその活気に呑まれ、どこか現実がないままに歩き廻っていた。当時のエミリアはそれまでさせて貰えなかったこをやらせて貰っていたせいか、自分は大人なのだと。もう一人で何でも出来るのだと。驕り一人でいた。


 そのせいで、彼女が力を使うことをやめるよう言う人が側におらずエミリアはしたいままに力を使ってしまった。


 それは偶然であった。

 そのとき近くにいた人間が神殿の関係者であったことも。神殿内部が極度の人材不足に陥っていたことも。エミリアがその人材不足を補える程の魔力を持っていたのも。

 全て偶然であった。


 だが、後の出来事は必然であった。

 神殿が彼女を欲するのも。拒めば、反乱分子として殺されることも。


 彼女が初めてまじかで感じた権力であった。


 エミリアは知っていた。いつかこうなることを。

 エミリアは知っていた。甘えて、享受してばかりではいられないことを。

 エミリアは知っていた。彼女が力を使う度に両親が悲しい顔をすることを。


 エミリアは知っていた。


 だから彼女は笑った。笑って家を去った。もう彼女を守らなくて良いように。彼女という存在を抱えこまないように。


 10歳の年、雨の日にエミリア・バレイアは神殿に入っていった。


 彼女の神殿生活は酷いものであった。

 朝の日も昇らぬうちから神殿の掃除を行い、少しでも汚れがあればご飯が無いなんてこともザラにあった。昼になれば倒れるまで魔力を絞りとられ、倒れれば使えないと暴力を振られていた。抗議しようとしても家族を人質にとられ彼女にできるのは唇を嚙みしめることのみであった。


 数ヶ月経ったある日。彼女がいつものように掃除をしているとしんかん神官二人が話している声を聞いた。彼女は余分に暴力を振るはれないようにと立ち去ろうとした。


 そんな時だ。聞こえてきた言葉に彼女は足を止めた。殴られた訳でもないのに頭が痛み、息が上手くできなくなった。彼らの声が、嗤い声が酷く不快だった。


 ただ心のどこかで理解していた。


 彼女は苦悩した。己が家族を守るために下した決断は間違っていたのか。あの時、家族と共にこの世を去った方が良かったのだろうか。分からない。分かるわけがない。


 ただ彼女は神殿を抜け出し、家に帰った。


 そこで見たものは今、尚も赤々と燃えている何かだった。もう原形を留めていないそれは、けれど確かに彼女の唯一の居場所だった。


 大切だった場所だった。


 幸せが詰まった場所だった。


 宝ものだった場所だった。



 涙が頬を伝った。

 帰る場所はもうどこにもないのだと知った。願いは叶わないのだと知った。約束に意味はないのだと知った。大切なものは作れないのだと知った。






 それは花が枯れ、寒々しい雲のしたでの出来事だった。




 一人になった私は神殿には戻らず森の奧に入っていった。


 絶望した。

 そう私は絶望した。あの人達がいないこの世界で生きている意味などないから。だから私はいのちを絶とうとした。なのに――――


 刃を持ち喉を切れば一瞬のうちに傷は塞がり、水に身を投げれば水が消え、岩に打ち付け、どれ程身を痛めつけようと己がいのち一つ絶つことが叶わなかった。



 なのにどうして――――


 神殿で殴られたとき傷が塞がる事なんてなかった。掃除をするとき水がなくなることなんてなかった。



 意味が分からない。


 自分の人生さえ、私は決めることができないというのだろうか。


 その原因が魔力にあったと気づいたのはいつだったか。

 いつもそう。知っている。私の魔力は私の願いの邪魔ばかりする。




















 早く魔力でも体力でも尽きれば良い


 私は帰りたいのだから。あの温かい場所に。




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