脚本「殺意の化粧」
登場人物
森山あけみ(30)化粧品販売員
川畑ともみ(24)ファッションデザイナー・あけみの妹
森山剛志(31)印刷会社社長・あけみの夫
○武蔵小杉マンション(夜)
夜空に満月。
○同・森山家・バスルーム(夜)
森山剛志(31)がうつぶせに倒れている。
森山の口から泡が出ている。
床に青い小瓶が転がっている。
森山あけみ(30)が青ざめた顔で立っている。
○タイトル
24時間前。
○同・森山家・キッチン(夜)
あけみが、小鍋に水を入れる。
さまざまなハーブを入れる。
白い粉を鍋に入れ、かき混ぜる。
空の青い小瓶に、小鍋から液体を注ぐ。
青いビンの蓋をしめるあけみ。
○タイトル
12時間前
○マンションの前の道
あけみが歩いていると、黒猫が前を横切る。
と、ケータイが警報を鳴らす。
地面が揺れる。
あけみ「あ、地震」
○タイトル
6時間前
○森山家・玄関
チャイムが鳴る。
あけみがドアを開ける。
川畑ともみ(24)が立っている。
あけみ「ひさしぶり!元気だった?」
ともみ「うん、おじゃまします」
ともみは大きなスーツケースを転がして部屋に入る。
○タイトル
2時間前
○森山家・リビング(夜)
窓の外、雨と風の音。
ともみ、森山、あけみが食卓を囲んでいる。
テレビであけみと森山の結婚式のDVDを見ている。
三人で乾杯をしながら、
ともみ「結婚記念日おめでとう」
あけみ「ありがとう」
森山「あれから3年か、はやいな」
あけみ「あのときはほんとにありがとう」
ともみ「なにが?」
窓の外、雷が鳴る。
あけみ「ドレスだよ。専門学校の卒業記念に作ってくれた」
ともみ「ああ、あれ。あんまりうまくできなかったな」
あけみ「そんなことないよ、ほら、あんなに素敵じゃない」
あけみはテレビ画面を指さす。
あけみはコンコンと咳をする。
ともみは溜息をついて、
ともみ「疲れちゃった。もう寝ようかな」
あけみ「そうだよね、パリから帰ったばかりだし、時差ボケでしょ?お風呂入ったら?」
ともみ「うん、そうする」
森山「パリか、かっこいいな。俺、海外旅行なんていったことないし」
森山は薄い頭をかきながら、げっぷをする。
あけみは、露骨に嫌な顔をする。
あけみの表情を見るともみ。
ともみ「海外旅行くらい、いつだっていけるでしょう」
ともみはバスルームの方へ行く。
森山は、舌うち。
テレビ画面では、泣いているともみのアップ。
○同・バスルーム(夜)
ともみが洋服を脱いでいる。
と、ノックの音がして、あけみがドアを開ける。
あけみ「これ、作っといたから、使ってみて」
あけみ、青い小瓶をみせる。
ともみ「なに?」
あけみ「化粧水だよ。手作りなの。ともみお肌弱いから」
ともみは小瓶を受け取って、
ともみ「さんきゅ」
あけみ、コンコンを咳をしてからドアを閉める。
ともみは小瓶をじっと見つめる。
○同・夫婦の部屋(夜)
ベッドに寝てスマホをいじっている森山。
鏡台の前でピンク色のライターを見ているあけみ。
あけみ「なにこのライター?」
森山「あ?」
森山は少し頭をあげて、
森山「ああ、友達にもらった」
あけみ「ラブホテルのライターを?」
森山「……うん」
あけみはライターを投げつけようとして、やめる。
あけみ「浮気してんの?」
森山「んなわけないだろ。本当に友達からもらったんだ」
あけみ「じゃあ、これはなに?」
明美は名前入りのキーホルダーをみせる。
キーホルダーには『ももこ』と書いてある。
森山「バイトの子のだよ。預かってるんだ」
あけみ「なんで預かるの?」
森山「なんでもいいだろ。うるせーなー」
森山は立ち上がり、あけみの腕をつかむ。
あけみ「痛い!」
○同・夫婦の部屋・外(夜)
ドアの近くにともみが立っている。
ともみは笑っている。
○同・リビング(夜)
あけみがワインを飲んでいる。
ともみが入ってきて、
ともみ「お姉ちゃん、幸せ?」
あけみはちょっと驚いて、
あけみ「し、幸せよ」
ともみ「ならいいけど」
あけみ「化粧水、どうだった?」
ともみ「すごくいい感じ。ありがと」
あけみ「よかった。なにか飲む?」
ともみ「お水」
あけみは微笑み、立ち上がる。
あけみがフラッとする。
ともみが両手で止めて、
ともみ「だいじょうぶ?」
あけみ「ちょっと飲み過ぎちゃったみたい」
あけみちょっと舌を出す。
あけみの腕に紫色の痣。
ともみはじっと痣を見る。
○タイトル
5分前
○森山家・バスルーム(夜)
森山がドライヤーで髪を乾かしている。
と、ともみがきて、
ともみ「兄さん。これ、フランスで買ってきた育毛剤なんだけど、よかったら使ってみて」
ともみ、青い小瓶を差し出す。
森山はドライヤーを止めて。
森山「おう、わりいな。高かったんじゃない?」
ともみ「匂いがきついけど、すごくよく効くらしいの。使い方は、お風呂上りにに飲むだけ」
森山「飲むの?飲む育毛剤なんてきいたことないけど?」
ともみ「え、フランスでは普通だよ」
森山「ほんとかなー?」
ともみ「信じられないなら、かえして」
森山「いい、いい、信じる」
ともみは微笑む。
森山は、小瓶の蓋を開け、飲もうとする。
と、あけみが入ってきて、
あけみ「なにやってんの!」
あけみ、森山から小瓶を奪おうとする。
森山「なんだよ、邪魔すんなよ」
あけみ「だって、それ、化粧水でしょ?」
森山「育毛剤だよ、もらったんだ」
あけみ「だれに?彼女に?」
ともみが、小瓶を森山の口に入れる。
○同・ベランダ(夜)
夜空に満月。
○同・バスルーム(夜)
森山がうつぶせに倒れている。
床に小瓶が転がっている。
あけみが青ざめた顔で立っている。
ともみが笑い出す。
ともみ「いい気味。お姉ちゃんを苦しめて。絶対許さないと思った」
あけみ「……なにも殺さなくても」
ともみ「女ぐせの悪さは死んでも治らないってね」
あけみ「……どうしよっか」
ともみ「自殺ってことにしよ」
あけみはゲホゲホと咳をする。
(完)