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雨の中で  作者: 川木
本編
8/11

好きです

「……」


 目を開けて、あれここどこだっけていうかなんかあったかいしなんだこの柔らかいもの……葉子さん?

 ああ、思い出したぁー…………ああ、やばい。なんかドキドキしてきた。こんなドキドキするとか、私葉子さんのこと特別に好きなのかも。

 そりゃ特別に好きは好きだし当たり前だ。お姉ちゃんと呼ぼうと思ってたくらいだし。

 でもちょっとお姉ちゃん相手とにするとは、変に意識しちゃってる。昨日から急にだけど。


 起き上がって、隣で眠る葉子さんの寝顔を見つめる。


 綺麗な顔だ。この唇とキスしたのか。……キスしたい、かも。あー、でもなぁ。お姉ちゃんへの愛情表現でキスしたいのかも。弟が生まれてから我が家では子供にキスは愛情表現だし。

 葉子さんが男の人なら一発で恋愛感情かわかるんだろうけど、女の人だからビミョー。うーん。

 てゆーかもし私が葉子さんに下心的な好意をもってたとして、それを言ったら絶対ひかれるよね。仮に葉子さん自身に同性愛差別意識がなくても、自分が対象となれば別だ。

 私だって彩華が彼女つくってもいいけど、彩華が私を好きだと言ってたら困るし。今までのキスが酒の勢いってのはカモフラージュとか、えー騙されたーって感じ。


 ……まあとりあえず、変に思われたり心配かけたりしないように、普通にしないとね。そもそも私自身が戸惑ってるだけで深い意味はないのかも知れないし。


「……ん、んん? ……おはよう」

「おはようございます」


 目を開けた葉子さんと視線がぶつかり、私はあがる心拍数をなかったものとしてにっこり笑ってみせた。









 そしてそのまま元通りの関係に……なれるわけなくない!?


 並んで歯磨きするまではいい。けど着替えぇ! 何で昨日とか余裕でお風呂はいれたのよ! 下着姿見られるのさえめっちゃ恥ずかしい!

 仕方ないから朝のシャワーをかりて同室着替えを回避。その間にトーストと目玉焼きにインスタントみそ汁の朝ごはんが用意されてた。

 ただでさえお世話になってるのに何たる失態! お昼は絶対私が作ろうと思いながら食べた。


 ご飯を食べたらあとはいつも通りだらだら……するんだけど、昨日みたいにべったり隣とか恥ずかしい。

 ちょっとだけ離れる。といってもいつも無駄にくっついてたので、普通に隣に座ってるだけなんだけど。


「?」


 不思議そうにした葉子さんだけどすぐに視線をテレビにやった。追及しない葉子さんでよかった。


「……」


 朝のテレビを見ていると少し落ち着いてきた。

 なにも話さなくていいのだから焦る必要はない。もし言葉につまっても葉子さんはちゃんと考える時間をくれるんだから、てんぱる必要はない。

 そう思うと気は楽になった。葉子さんが隣にいると意識すると普段よりは僅かに心音が早いけど、問題ないレベルだ。

 私の葉子さんへの好きの種類がなんだとして、どうでもいい。ずっとこうして、隣にいたいなぁ。


「美代」

「はい、なんですか?」

「買い物に行く」

「わかりました」

「…ん」


 時間は10時前。買い物か。そういえば掃除はいつするんだろ。お昼食べたらしようかな。


「いきつけのスーパーってどこなんですか?」

「……決まってないけど、だいたい駅前の○○」


 マンションを出て葉子さんについて行きながら尋ねるとやや迷うようにしつつも、私もよく知るスーパーの名前を口にした。


「へぇ。確かにここからなら駅前のが一番近いですかね」

「あと、安い」

「意外とちゃんとやりくりとかしてるんですね」

「……そうでもない」


 ? 今の間は照れた? それとも説明が面倒ではしょったのか、私の言い方が気にさわったのかな? まあいいか。


「へぇ。そういえば葉子さんってバイトとかしないんですか?」

「しない」

「面倒だからですか?」

「親に、禁止されてる」

「え? なんでですか?」

「学生のうちは勉強に集中するよう、言われてる」

「はぁ…」


 やっぱり、葉子さんって結構お嬢さんだよね。


 とかなんとか会話しながらスーパーに到着。買うものはわからないのでとりあえずカゴを持つ。


「何買うんですか?」

「んー、醤油。あとは適当」

「ほう」

「あとお昼、何がいい?」

「葉子さんの好きにしていいですよ。ていうか私つくりますよ」

「……なら、ホットケーキ」

「わかりました」


 ホットケーキは簡単すぎる気もするけど、まあいいか。昔はよくつくってあげてたし、ホットケーキなら楽勝だ。あ、ホットプレートあるのかな。フライパンより楽なんだけど。


「牛乳と卵はありますよね? ホットケーキの粉と蜂蜜……まあこれは好みですよね。あります?」

「ない」

「わかりました」


 とりあえず回りながら買い物をした。葉子さんは食材プラス大量の冷凍食品を買い込んでた。この間入ってたのはもう全部食べたのかな。


「あ、葉子ちゃん、こんにちわ」

「ん…こんにちわ」


 レジをすまして商品をつめた袋を一つずつ持ってスーパーを出ようとすると、ちょうど入ろうとカゴをもった女の人が葉子さんに声をかけた。お友達だろうか。


「また冷凍食品をそんなに……できるんだから料理しなよ」

「面倒」

「体に悪いよ、っと、彼女は?」

「友達」

「は、はじめまして。下村美代です」

「ご丁寧にどうも。秋吉悠里です。話には聞いてるよ。可愛いね、高校生?」

「はい、2年です」

「2年生か…懐かしいなぁ」


 とりあえず挨拶すると秋吉さんは懐かしむかのように目を細めた。話って、いったいどんな話を聞いてるんだろう。ちょっとドキドキ。


「と、引き止めちゃってごめんね。邪魔だったよね」

「そうでもない」

「そう? でも……耳貸して」

「ん」


 秋吉さんが葉子さんに顔をよせて耳元にキスしそうなくらい近づいて何か内緒話をした。


 なんとなく、もやもやする。今までにも二人、葉子さんの友達に会ったけど、気持ちが変化したからか、何だか嫌だなぁ。

 私は葉子さんの友達で、それが嫌だなんて思わないけど、秋吉さんたちも同じくらい大切な、いや、付き合いの長さから多分私より大切な友達だ。

 私は葉子さんにとって何人かいる友達のうちの一人でしかない。そんなの当たり前で今更なのに、なんだか嫌だ。

 私にとって葉子さんは彩華みたいな親友とも違う、唯一特別に大切な友達だ。だから私のことも特別にしてほしい。


「――」

「それは……否定しない」

「じゃあ、―――――?」

「…ん」

「そっか、ん。私が言ってもいいかわからないけど、頑張ってね」

「ん、嬉しい」

「そかそか、よしよし。葉子ちゃんいー子いー子」


 って、葉子さんが自分より背の低い秋吉さんに頭撫でられてる!? どんな力関係なのよ……。


「んじゃ葉子ちゃん、美代ちゃん、ばいばい。また今度ね」

「ん」

「あ、はい。さようなら」


 秋吉さんは楽しそうに笑いながらカゴをのせてカートを押しながら店内に入って行った。

 なんだか馴れ馴れしい人だなぁ……と思ったけど、すでに会ったことのある葉子さんのお友達も二人とも馴れ馴れしい人だったような。葉子さんって積極性低いから仕方ないか。


「帰ろ」

「あ、はい」


 葉子さんと並んで帰りながら、言い出しにくくて葉子さんの顔をちらちら見ながら、尋ねる内容を頭の中でまとめる。


「なに?」


 あ、気づかれた。


「えと……さっきの、秋吉さんと、何をお話されてたんですか?」

「秘密」

「ひ、秘密ですか?」

「内緒のこと」

「いや、わかってますけど…」


 秘密と言われたのがショックでおうむ返しすると説明されてしまった。


「……あの、秋吉さんは、葉子さんにとって、どんな人なんですか?」

「友達」

「ただの友達ですか?」


 葉子さんからしたら、私はなんてうざいやつなんだろう。やたら詮索されて、答えたことまで疑問視されるなんて。わかってるのに、やめられない。


「……特別な友達」


 葉子さんは私を見て、少し考えるように間をあけてから答えてくれた。


「特別……他の友達と比べて、ですか?」

「そう。私の一番最初の友達」

「えっ……そ、そうなんですか?」

「ん。それまでは、同じくらいの年頃の遊び相手は、従姉妹だけだった」

「そうなんですか……」


 なんだ、そうか。そういうことだったのか。それなら確かに特別だ。幼なじみなのか。それも最初の相手ならわかる。

 そういうことか。なんだなんだ。はー。緊張して損した。


「悠里がいなかったら、多分今も、友達いない」

「いやいや! そうだとしても多分私は友達になってましたよ!」

「……そう?」

「はい! 絶対です!」


 特別ってそういう意味か。じゃあ全然、葉子さんが好きとか恋人とかそんなんじゃないんだ。よかったー!

 ……あれ、なんで私そんな喜んでんだろ。てかあれだけ毎日家にいるんだから恋人いるわけないしね。……いや、遠距離って可能性もあるか。


「そういえば葉子さんって恋人はいるんですか?」

「いない」

「ほう! ほほほ……ほほ、そうでございましたか」

「? ん……美代、は?」

「え?」

「恋人」

「ああ、いないです」


 いないのか! うんうん。ですよねー。ん? 喜ぶのは失礼だよね。でももし葉子さんに恋人できたらこれまで通りにはいかないだろうし、喜んじゃうのは仕方ないよね。


「ところで葉子さん」

「ん?」

「私のことは、その、ちょっとは特別な友達と思ってくれてたりなんかします?」

「……ん、特別」

「えっ、本当ですか?」

「ん」

「えへ、えへへへえへ。嬉しいです。葉子さんちょー好きです」

「ん」


 頭を撫でられた。いぇい。









「美味しい」

「ありがとうございます」


 ホットケーキは普通に好評だった。

 その後昨日残したチーズケーキを食べた。


「ケーキ屋、買いに行く?」

「いいですって。おめでとうって言ってくれてお祝いしてくれただけで嬉しいんですってば」

「……なら、欲しいもの、とか」

「んー、特にないです」


 私って物欲もそんなないし、結構貯金してるからたまに何か欲しい!となったら即買うので買いたいなーと保留してるものは特にない。


「なら、してほしいこと、とか」

「へ……してほしいこと…」


 葉子さんにしてほしいこと? んー、ひざ枕とか……でも頼んだら普通にしてくれたし。究極的には我が家に住んで朝から晩まで一緒にいてほしいけどさすがに無理だし。


「………」

「ない?」

「んー、あー、なしはもったいないんでちょっと保留にしてもらっていいですか?」

「ん。待つ」

「お願いします」


 さて、何にしよう。猶予をもらったのでじっくり考えよう。


 葉子さんをじっくり見つめながら考える。


「……」

「……」

「……ぎゅってして下さい」

「ん」


 葉子さんが私を抱きしめる。抱きしめかえしながら幸せを噛み締め……はっ! なんてしょーもないことにお願いをつかってるんだ! 馬鹿か私!


「これだけ?」

「えと……やっぱり今のはなしで」

「ん。これくらい、お願いにはいらないから、いつでもいい」

「葉子さん……。あの、き、キスは、はいりますか?」


 葉子さんは抱きしめるのをやめて、私と少しだけ体を離すと私にキスして微笑んだ。


「私もしたいから、はいらない」

「……」


 ……う、うわぁぁ…やばい、めちゃくちゃドキドキしてきた。


「……わ、私…」

「うん?」

「葉子さんが好きです」


 ってなに言ってんの私! 葉子さん美人すぎるし、それでこんな優しくていい匂いしたらそりゃ好きになるってものだけど! 唐突すぎるし! ひかれる!











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