クリスマス
番外編のさらに番外。その後の話。
「葉子さん、もうすぐ、クリスマスですね」
「ん。いつする?」
葉子さんと恋人になって早くも冬を迎えた、いつも通り葉子さんの部屋で過ごす夕方。来るクリスマスにを話題に出すと唐突に尋ねられた。
葉子さんは頭が良すぎるがゆえに、時々こういうことがある。でもよく考えたらわかるはずだ。えっと? クリスマスに対していつってことは、クリスマスデートの日取りをいつにするかってことだよね!
「えー、私は平日でも休日ならいつでもOKなので、葉子さんに合わせます!」
贅沢を言うなら、休日にすれば一日中どころかお泊りの口実になるかも、なんて下心もなくはないけれど、でもそんな口実がなくても当たり前に一緒に居てくれるのが葉子さんだ。むしろ、関係ない普通の日にお泊りする方が、特別な関係っぽいかもしれない。
なので本当にいつでもいい。家族でクリスマスなんて祝わないし、例年は友達と遊んだりしてたけど、そんなのはそれこそいつでもいい。
だからそう返事をしたのだけど、葉子さんはかちゃかちゃ操作していたノートPCから顔を上げて、隣の私に向けた。その顔は、どこか厳しめの凛々しい顔に見えて、ドキッとすると共に何かおかしなこと言ったかな? とびくびくする。
「美代、私に言われても不満かも知れないけど、平日でもいいなんて、言っちゃ駄目だよ」
「え? どうしてですか?」
「学校には行かないと」
「?」
え? ど、どういうことだ? 学校には行きますよ?今の会話の流れで、学校何て関係ないのに、何で注意されたの? クリスマスのお祝いを、平日でもいい、と言ったのが学校に行かない、とは全くつながらない。
葉子さんのことはすべて理解したい私だけど、残念ながら私のような平凡な脳みそでは、頭が追い付かないことは珍しくない。素直に白旗をあげて、葉子さんが手を止めているのをいいことに、すぐ左にある葉子さんの右肩に頭を寄せる。
「わかんないけどごめんなさーい。葉子さんのおっしゃるように、学校には毎日行きます」
「ん。それでいい。だから、クリスマスは週末の土曜日曜にしよう」
「あ、お泊りですか!」
「ん? もちろん」
あ、もしかして、それで平日になんてとんでもない! ってことで注意を受けたのかな。なるほど。さすが葉子さん、真面目だなぁ。
「土曜日なら、私、料理つくりますね」
「ん? じゃあ、お願い。いつもみたいに、食費とかは勝手につかっていいから」
「はい!」
「ん」
葉子さんは軽く微笑んで、私の頭を撫でてから、PCにまた顔を戻してかちゃかちゃやりだした。
今日は大学での課題のレポートをしていて、ずっとPCに何かを入力している。隣に寄り添って座って、頭をもたれさせるのは止めたけど、さっきからずっとすぐ隣にいる私だけど、もちろん内容何て把握してない。
よくわからないものを見るより、葉子さんの横顔を見つめている方が重要に決まっている。
はぁ……相変わらず、葉子さんはいつどの角度で見ても、お美しい。
葉子さんと付き合いだしてから、暇さえあれば毎日のように顔を出している私は、すっかりこの家に馴染んでいる。食事を作ってあげたくて何度かしてたら、葉子さんが食費用にお金をいれた財布を用意してくれて、それを自由に使って買い物していいことになったし、調理用品も私専用の食器類も増えた。
さすがにお泊りは毎日とはいかないけど、それでもしょっちゅうだ。着替えも専用のスペースをつくって置かせてもらっている。
もうちょっと、半分くらい同棲じゃない? と現状を認識するたびににやついたり、いまだにする。
そんな感じなので、今すぐお泊りできちゃうけど、でもやっぱり、クリスマスと言うイベントでお泊りとなると、また別だ。ちょっとどきどきしてきた。
もちろん、相応のごちそうをつくらないと。あ、あと頻繁だからお泊りが即ベットインってわけじゃないけど、クリスマスとなると別だよね。よーし、気合をいれておかないと。プレゼントは前から目をつけていたのがあるし。うん、完璧。
「ん。美代」
「はっ、なんでしょう!?」
「もう遅いけど?」
言われて時計を見ると、すでにいつもなら帰る時間を10分以上過ぎている。いけない。葉子さんを見つめているだけで一瞬で時間が過ぎてしまうので、いつも携帯電話のアラームをかけているのだけど、今日はセットするのを忘れていた。
「ありがとうございます! 帰りますね!」
「ん」
慌てて立ち上がって、鞄を持って玄関に向かい、大事なことを思い出したので走って戻る。
ばたばたしている私に、葉子さんが不思議そうに私を見て首を傾げた。
「どうかした?」
「あのー、今日、キスしてないのを、忘れてました。その……」
別に言葉にして、毎回するって決めごとをしているわけじゃないけど、何だかんだ毎回キスしている。なのでやっぱり、ないとしょんぼりする。それにこのまま帰ると、たぶん寝る前に思い出して寂しくなってしまう。
前はそんな風に、寝る前に寂しいなんて思ったことがなかった。だけど葉子さんと出会って、共に過ごして、当たり前に一緒に居れて、一人を寂しいと思うようになってしまった。
改めてこんな風に、言葉でおねだりするのは少し恥ずかしい。いつもは適度にキスしたくなったタイミングで、常にうっとうしいくらいの近距離を保っているのでそのままさりげなくおねだりするから、そこまでではない。
でも、それでもしないと言う選択肢はない。だって、どんなに場違いなお願いでも、急なお願いでも、葉子さんは私を邪険にしないって、わかってるから。信じているから、恥ずかしいけど、不安にはならない。
「ん。わかった」
葉子さんは、私のお願いに不思議そうな顔をすることもなく、躊躇さなんて微塵もなくて、すぐにそう応えて立ち上がってくれた。
そして私に一歩近寄ると、そっと両手で私の肩に手を添えて、顔を寄せてくる。
何度もキスをして、何度も夜を超えても、葉子さんの綺麗な顔は、近づくだけでちょっとドキドキする。何回見たって、綺麗すぎるその顔には見とれてしまう。
「ふふ」
見つめていると、葉子さんは私に顔を寄せたまま、キスする寸前で笑った。
その微笑みにうっとりしてから、一瞬遅れてはっとする。え、何で笑ったの? もしかして私のキス顔って、笑いだしちゃう感じの顔してた?
「よ、葉子さん、私の顔見て、笑わないでくださいよぉ」
「ごめん。可愛くて」
「えへへ。じゃあいいですよ」
「ん」
葉子さんは微笑んで、私にキスをした。もちろん帰りがけなので、軽く唇を合わせるだけだけど、葉子さんの美しい顔を見つめながら、唇の感触と熱を感じているとたまらなく幸せな気持ちになる。
「えへへ、葉子さん、愛してます」
「ん。私も、愛してる」
葉子さんはそう応えて、また軽く私にキスをして、見送ってくれた。
はぁ、幸せすぎて、怖いくらいだ。
○
「雪、降らなかったですね」
「ん。降ってほしかった?」
「まぁ、そうですね。せっかくの葉子さんとのクリスマスですから」
今日はクリスマス当日ではないけど、だからこそ、ちょっと時間たったから雪降ってもいいのに。初めてのクリスマスだし、ホワイトクリスマスだったらよりロマンチックなのに。
とは言え、もちろん葉子さんとのクリスマスなのだ。その時点で幸せ100%なのだから、気持ちを切り替えよう。私はカーテンを閉めた。
テーブルに料理を並べて、シャンパンをそそぐ。雰囲気を出すために、部屋の電気は薄暗くしている。葉子さんのお部屋はLEDでなんかよくわかんないけど、オレンジのライトがつくのだ。ふぅー、ろまんちっくぅ。
「美代、メリークリスマス」
「メリークリスマス!」
ちん、とかるく音をたててグラスを合わせる。はぁ。ほんのり薄暗い中で、テーブルの上でつけているキャンドルライトが葉子さんの顔を照らしていて、いつもより妖艶に美しい葉子さんにうっとりする。
もちろん、私はいつでもどのタイミングでも、葉子さんにはうっとりするけど、また格別なうっとりである。
と、見つめていると不思議そうにされたので、私も口をつけた。わぁ、美味しい。
「ん。美味しいよ」
「ありがとうございます」
「いつも、ありがとう。美代はまだ、奥さんじゃないのに、ごめんね」
「いえいえ」
私が作った料理で、愛しい葉子さんの血肉となっているかと思うともうそれだけで嬉しい。って、あれ? え? まだ奥さんじゃないって言った!?
「よ、葉子さん、その……」
「ん? なに? ケーキが食べたいの?」
ケーキは夕方に2人で買いに行って、今は冷蔵庫に入れている。でも私の言いたいのはそんなことじゃない。
きょとんと可愛らしい顔をしている葉子さんに、私はカップを机に置いて両手で持つようにして指先をもじもじさせてしまう。
何気なく言われたし、そんなこだわることないかもしれないけど、だって。そんな当たり前みたいに言われたら、意識してしまう。
「そうじゃなくて、その、お、奥さんって、おっしゃったので」
「ん? うん。そうだけど?」
不思議そうにされた!
あ、ああ……そっかぁ、葉子さんって、全然未来永劫一緒にいること疑ってない感じかぁ……めっちゃうれしい。ずっと一緒にいるって言われたし、信じてるけど、こんな風に前提条件みたいに普通に言われたら、めっちゃうれしい。にやける。
「わ、私が奥さんなら、葉子さんは、旦那様ですねー、な、なんてぇ」
「ん。そうだね。頑張るから」
にやける私に、葉子さんは何だか微笑ましがるような柔らかな笑顔を浮かべる。胸の奥からたまらなく愛情が溢れてくる。
「あ、う……葉子さん、大好き! キスしてください!」
「ん」
たまらなくなって、もうご飯そっちのけでお願いした。顔を寄せると躊躇うことなくキスしてもらえた。えへへ。
「葉子さん、大好きです。えへへ」
「ん。私も好きだよ。ご飯食べたら、一緒にお風呂入ろうか」
「はい!」
料理を食べて、お互いにプレゼントを交換して、一緒にお風呂に入った。あーんしながらケーキまで食べたから、お腹がポッコリしちゃってちょっと恥ずかしかったけど、葉子さんはそれも可愛いねって言って撫でてくれた。
だから気にしないけど、葉子さんは同じだけ食べて全然お腹ポコッてないし、毎日部屋で過ごしているのに相変わらず抜群のスタイルなのは何故なのか。大好きだけど、それだけはいつも不思議である。
なので質問してみた。
「葉子さん、私も葉子さんみたいにおっぱい大きくなりたいです」
ひと段落ついて、さぁそろそろ寝ようか、という状態で葉子さんの胸をそっともみながら尋ねると、困ったみたいに眉を寄せられた。
「私に言われても、困る」
「そうなんですけど、何か秘訣とかあるかな、と」
「前にも言ったけど、ないよ。それに、美代はそのままで可愛いよ」
「ぇへへ。ありがとうございます」
じゃあいっか! と前にも言われた文言で納得しちゃう私。
「葉子さん、大好きです」
「ん。私も」
「ん?」
言いながら葉子さんが、私の胸にそっと手をやった。あれ、おかしいぞ。なんだか手つきが。
「よ、葉子さん? もう寝ますよね?」
「ん? 美代から、触ってきたよね?」
「え、そうですけど、でも」
そんなエロティックな感じじゃなくて、軽く全体に触れる感じで、意識させないようにしたつもりだったんですけど?
と、戸惑う私に、葉子さんが何気なく顔を寄せてきて、キスをした。それはさっきまでしていた熱のあるキスで、葉子さんの愛に、私の体はまた火が灯る。
「う、よ、葉子さん」
「ん。愛してるよ」
「私も、愛してます」
私はそっと顔を寄せる。葉子さんは黙って応えて、またキスをしてくれた。
こうして、初めての二人のクリスマスは、葉子さんと言う幸せに包まれて過ぎていった。来年も、再来年も、同じように過ぎて行けばいいな、と思って、すぐに、続くだろうなと信じることができた。それがまた、とても、幸せだなと、思った。




