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第五話:神楽の夜に

 目を開けると、見慣れた光景がそこにはあった。木目が丁度人が断末魔の叫びを上げているように見える天井。僕の家だ。

 身体を起こすと酷く頭痛がして、軽くこめかみを押さえる。熱は無いみたいだ。

 頭がぼんやりして思考に霞がかかったようになっているのは、頭痛のせいだけではないだろう。昨夜の出来事が順を追って思い出せない。ただ鮮明に瞼の裏に焼き付いているもの、あの娘のカオ。

──弔い

 耳の奥で、思い出したかのようにその言葉がジクジクと疼いた。

 子どもたちの遊ぶ無邪気な声が、冬のものにしては暖かすぎる陽光とともに、粗末な小窓からどっと溢れてきた。

「あの娘は…」

 どうしているだろうか。帰る場所を失った少女は今、何を思って過ごしているだろう。

──弔い

 鈍く疼く言葉に、何か引っかかる。何だろう、この息苦しさは。

 ふと、懐かしく、けれど苦いような、そんな気持ちになった。けれどそれが自分の内側のどこから来るものなのかわからない。

「夕刻…」

 行かなければいけない、そんな気がした。




 少し日も傾き始めた頃、僕はまた村をぶらぶらと歩いていた。宵の口には、まだ時間がある。

 しばらく歩いて、はたと足を止める。小さな古ぼけた神社。普段は人が滅多に来ないこの場所に、今日は珍しく人が溢れるほどに境内に集っていた。不思議に思い、人混みへと足を向ける。人混みの中心に目を向けると、鬼とも子どもともつかぬ奇妙な面を着けた人間が神楽を舞っていた。

──鬼追い祭りか

 鬼追い祭りとは、簡単に言えば夢鬼童を払うための祭りである。毎年神社の境内の周りに夜通し篝火をともし夜の闇を追い払い、鬼の面を着けた者、巫女の面を着けた者の順で神楽を舞う。そうして夢鬼童からの災厄を払うのだ。

 忘れていた。今日だったのか。

 神楽を眺めていると、何故だかまたあの懐かしく、苦いような気持ちがした。

ふと、思考の片隅に引っかかりを見つけ、そっとすくい上げると、懐かしい日、幼い頃、母親と鬼追い祭りに来たときの記憶だった。

人混みの中に、小さな女の子が見えた。その子の母親と僕の母親はとても親しげに話していたのを覚えている。だけど彼女たちの顔が思い出せない…あぁ、彼女たちは頭から薄手の着物を笠の代わりのようにして被っていたのだ。だから顔がよく見えなかった。女の子の顔が一瞬見えた気がした。色白の肌、まっすぐすぎる強い瞳──

『楓は崖で足を滑らせたんじゃねぇ!お前らがっ…お前らがっ!!』

 蘇る父親の声。灰がさらさらと舞う。鳴り響く笛の音、篝火に照らされた面の薄気味悪い形相、誰も居ない明け方の境内、繋いだ手──

 我に返る。冬だというのに、額には玉のような汗が流れていた。

 足は自然と神無の屋敷跡へと向かって走り出していた。

──弔いをしてくださらない?



全てを、思い出した

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