表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/63

【 タイムリミット 】6

夢を見ていた。


 四方八方からありとあらゆる電車に押し潰されて苦しみもがく自分を客観視している夢をみていた。


 玉のような汗をかいて夜中に起きたが、隣では大梯が気持ち良さそうに寝息を立てていて、その横顔を見てふと心が落ち着いた。


 ワンルームの部屋はシングルベッドとテーブル、ソファを置いたらそれだけでいっぱいだ。


 しかしながら今の状況ではこの狭さが二人を落ち着かせる空間となっていて、守られている気にもなった。


 ベッドから出た富多子は静かに冷たいソファの上で膝を胸につけて抱えるように丸くなり、暗い部屋の中の一点をじっとながめていた。


 カラーボックスの中には一冊のアルバムが入れてある。


 写真には笑顔で笑っている大梯と、そこに寄り添うように写っている自分がいる。


 出掛ける先々でたくさん写真を撮り、思い出をアルバムに溜め込んでいた。海にも行ったし山でキャンプもした。泊まりで温泉にも行ったし、山道で道に迷って怖い思いもした。


 喧嘩をした後などは特にこのアルバムを手に取り、楽しかったことを思い出し、気持ちを落ち着かせていたりもした。


 だから今夜も同じように暗い気持ちを手放したかった。


何日も降り続けている雨は止まずじめっとしているが、窓ガラスを打つ雨音は富多子の波打つ鼓動を抑えつけてくれるいい材料になっていた。


 このまま、昔の嫌な記憶も一緒に流れ去ってしまえばいいのにと思うが、目を閉じるとあの光景が浮かび上がってくる。


 自分の後ろに得たいの知れない何かがつきまとっている気がしてならない。


 黒いもやが抱きつくようにまとわりついている錯覚に陥る。


 このままずっと見えない何かに永遠に追われるんじゃないかという恐怖に脂汗が流れた。


 心は蝕まれ憑かれている恐怖を全身に感じながら生活をするのは、もはや苦痛でしかない。


 愛を手にいれると、人はそれを守ろうとする。


 今まではなんでもなかったことが急に敵になったりもする。


 まわりの何もかもが敵に見えたりもしてしまう。


「大梯君」


「ん? ああ、もう朝?」


「ん。でもまだ早いから寝てて。私ちょっとコンビニ行ってくる。お腹すいちゃったし」


「コンビニ? じゃ一緒に行くからちょっと待って今起きる」


 大丈夫だからまだ寝てていいよ。と、富多子は起き上がろうとした大梯の肩を優しく押し戻した。


 二人はほんの少しの時間でもばらばらになることを敬遠していた。一人になったら狙われる。引きずりこまれることを分かっていた。その一瞬をあざみが見逃さないことを知っていた。


 そんな気の張った状態が何日間も続き、あいかわらずテレビのニュースではあの駅のことを連日報道している。


 少しの物音でびくつき、その度に心臓を指し抜かれるような痛みを感じ、全身全霊で辺りに気を配る。



 本人の知らぬうちに気が滅入ってきていた富多子はそろそろ限界に近かった。


 起きようとした大梯を、


「コンビニなんて目の前みたいなもんなんだから大丈夫だよ、それに朝早いしさ、すぐ戻るし大丈夫。寝ててね」って言いながら笑いかけた。


「そっか。わかった。じゃ、気を付けてね。早く帰ってきて」


「うん」


 引くかたちになった大梯だが、釈然としないものが尾を引いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ