【 タイムリミット 】5
あれ以来、あざみのことを思い出すことは少なくなっていき、さらに時間が経てば風化し忘れることができるだろうと思っていた。
「なんとか二人で乗りきろうね」
「……うん」
手と手を取り合い、仲良く歩く。
大梯はなぜ富多子があざみを怖がるのかを敢えて聞かないことに決めた。
今後いっさいその話には触れないことにしようと決めた。他にもなにかあるのは間違いないが、富多子を失うことの辛さは堪えられないというほどに夢中になっていた。
自分に嘘をついてまで隠したい何かがあるのなら、それは無理に聞いてもきっと傷つけるだけ。すべてを受け入れる。そんなスタンスでいようと自分自身に誓っていた。
人間生きていればそれなりに隠したい秘密のひとつくらいみんな持っているはずだ。
無駄な詮索は避ける。それがお互い様だ。
言いたくなるまで待てばいい。
言いたくなければ言わなければいい。
そういうスタンスで接することにした。
許すわけがない。
彼女がそんな簡単に諦めるはずがなかった。
どこまでも追いかける。
地の果てまでも追いかけて、自分のその手で息の根を止めるまでは何があっても追いかけ続けるだろう。
二人を見逃すことは決して無い。
動けないなら動けないなりにここに呼び込んでやる。
あざみの顔からは完全に笑みが消え去った。
彼女はもう自分に時間がないことを知っていた。
ゆっくりと待ちすぎた。
急いで片付けなければならないほどにタイムリミットがせまっていた。
冷たい雨に打たれている頭からぼとりぼとりと肉の塊が崩れ落ちて、足元に落ちる。
その肉の塊に紫陽花の花びらが何枚も張りついていく。
右耳がずるりと音を立てて顎の方へずり落ちたとき、あざみは小さく舌打ちをしてホームのベンチに目を向けた。
あのベンチに自分が座ることはもうないかもしれないという直感が腐り始めた脳みそに不安となって浮かんだ。
「死んでまで不安になるなんてね」
肩を力なく揺らし自嘲気味に笑って足元の紫陽花の中へ倒れこんだ。




