【 タイムリミット 】4
清めの効果があるという塩と水を家中に置いた。
魔除けの札を見えるところに貼った。
出歩くときには必ず数珠をして塩を持ち歩くようにした。
富多子と大梯は肩を寄せあって生活するようになり、バイトも遅くても20時には終わらせて21時には家にいるようにした。
どこに行くにも二人一緒、かたときも離れることはなかった。
お互いにお互いを守る。そんなかんじだ。
交通手段もバスを使うようになり、電車に乗ることはほとんどなくなった。
札のおかげか、家で見た黒い影も見ることがなくなり、家にいたら大丈夫なんだと思うと安心して眠りにつけた。
「富多子ちゃん、僕、考えたんだけどね、ずっこここにいるのもあまり良いとは言えないから、この際どこか、そうだな、大学の近くとかに引っ越さない? ほら、そのほうがこれから進路決める時期になってもさ、いろいろと楽だと思うし」
もう富多子が見ているあざみのことも、彼女が何をしでかしたのかをうっすら気づいているので言葉をはぐらかし、何も言わなくとも力になろうと考え方を変え始めていた。
「引っ越す? でもお金とかかかるし、親にもなんて言ったらいいのかわからないよ」
「引っ越しのお金は心配しなくて大丈夫だよ。そうしたらもう電車も使わなくてすむし。それに大学の近くの方がなにかと便利じゃないかな」
電車を使わなくてすむのはありがたい。
この恐怖と不安から解放されるんだから、こんなに嬉しいことはない。
親だって言えば分かってくれると思う。
霊と話をするものほど怖いものはない。彼は思っているのか怖くて聞きたくないし、今後も聞く気もない。だって、これは絶対に言えないことだから。
心中に秘めたもののおかげで、冷凍庫の中に入れられているような気分になる。
あざみにだって会わなくてすむんだから、この悪夢からも解放される。
「うん。できれば私も引っ越したい」
「早急にしよう」
「聞いてみる」
「僕も力になるから」
そんな話をした1週間後には二人は話した通りに引っ越した。
引っ越した先のアパートの目の前は大学だ。窓を開ければすぐにキャンパスが目に入る。講義の30分前に起きれば間に合う距離だ。
今までしていたバイトも辞めて、二人で大学の近く、アパートからも見えるお弁当屋さんで働くことにした。同じシフトで同じ時間に。そこはまかないもつくので食費も浮くといった大学生にとっては嬉しい条件だった。
電車の音も聞こえない、電車を使う必用もないところに引っ越してきて正解だと、心から思った。




