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【 タイムリミット 】

 富多子は眠れない日々が続いた。


 夜になるとうなされ、脂汗をかきながら起きる。


 大梯はその度に起きては汗を拭いてやったりパジャマの替えを持ってきたり、水を持ってきたりと甲斐甲斐しく尽くした。


 あざみを見たあの日から、あの駅は完璧に避けるようになった。


 完全にあざみは富多子を待っている。そして見つけられた富多子はこれから進まされる自分の道を思い、身震いをした。


 忘れたい。あのときのことは全て忘れたい。


 もう昔の話だ。


 大梯を失いたくない。


 この幸せな時を無くしたくない。


 壊されたくない。


 逃げたい。あざみから逃れたい。


 もう何も見たくない。


 あいつに捕まりたくない。本気でそう思った。


 大梯の様子がおかしくなり始めたのも丁度このくらいの時期からだった。


 頭や腹が痛いと頻繁に言うようになり、大学も休みがちになり、食欲は減退し体もじょじょに細くなって行った。


 心配した富多子は病院に行くことを強く進めた。


 頭痛の原因は、精神的なものからくるのか、もしくは外的要因からくるのか、調べてみなければ分からないからだ。


 しかし、いつも行っている病院に行くためには必ず電車に乗らなければならない。


 ということは、必然的にあの駅を通るということになるのだ。


「タクシーで行こう」


「はは。富多子ちゃん、そんなにしなくても大丈夫だよ。ちゃんと電車に乗れるし、そんなに弱くない」


「そうじゃなくて」


「……あー、あのさ、このまえのことなんだけど……覚えて……たりする?」


 大梯の言うこのまえとは白装束のあざみが電車に撥ね飛ばされた時のことだ。


 もちろん忘れるわけがない。


 むしろその逆で、鮮明に記憶している。昨日のことのように思い出される。


「富多子ちゃんあの時からなんかちょっとおかしいよ。ほら、電車が通りすぎたとき腰抜かしたでしょ? 何があったの? てか何かあるよね? 何か、見たとか? とにかく、どうかな、僕に聞かせてくれないかな」


 富多子は、あの日見たことを何一つ話していない。

 何も聞いてこないのでうやむやにしていたが、毎日のように電車に乗るのを嫌がればそれは彼じゃなくても誰だっておかしいと気になるところだろう。


 これ以上このまま隠し通すのは難しいと感じた富多子はしばらく黙り込み、これからどうしたらいいのか考えたが、答えは何も言わないというところに落ちた。


「うん、それはなんでもないよ」


「なんでもないってことはないでしょ? 隠し事は少しずつでいいからほどいていってもいいと思うよ。言いたくないことならなおさら。小出しにしたら楽になる」


「ありがとう。隠し事はしたくない。てか、しないよ。ほんとに、ただあのときは急に具合が悪くなっちゃって。電車が通るときの揺れとかでちょっと無理だなってなっちゃって」


「本当にそれだけ?」


 疑われているのは分かっているけど言うわけにはいかない。言えば私があの事件に関係していたことが分かってしまう。関係というかむしろ中心にいた。


 そうならないためになんとかここまでやってきた。


 大梯はバカじゃない。


 もしかしたら簡単に探り出すかもしれない。もしそうなったとしても、だからこそ最後まで隠し通さないとならない。



 桜の背中を押したのが私だってことを、最後まで隠し通して墓場まで持っていかなければならない。


 これは私の秘密だ。


 誰に言うこともない。自分の中だけに秘めればいい秘密だ。これが私の裏の部分だ。


 富多子をじっと監察している大梯の目には不信の色しか浮かんでいない。きっと気づいてる。


 でも……



 富多子もまたバカじゃない。


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