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【玉川富多子 】8

 そんな時期からテレビでは毎日のように奇怪な事件が起こっていると報じられるようになった。


 どれもみな、『線路に吸い込まれる』という見出しがつき、『また飛び込み』とか、『呪われた駅』とか『怨霊の巣くうホーム』など、書きたいように書かれた。


 もちろん富多子も大梯もそのニュースを目にするようになる。


 あまりにも同じ駅で事件が頻発するため、ホーム以外にはモザイクがかかるようになり、駅名も伏せられるようになった。


 そんなことをしても富多子にはそこがどこだかはっきり分かっていた。


 昨日のことのように、手に取るように鮮明に覚えている。


 喉がごくりと音を立て、唾液は食道を通りぬるく濡れている胃袋に落ちる。


 『見たい』


 抑えられていた欲求が目覚めるように首をもたげ、体全体に鳥肌が立った。


 行けば見れる。しかし、そこに行けば必ずあざみがいる。


そして、あざみは自分のことを待っている。もしかしたらこれも自分をおびき寄せるための罠なんじゃないかと思うが、欲求は止まることなく加速し続ける。


 次の日もまた人が飛び込んだというニュースが日本中をかけめぐった。


 胡散臭い霊媒師も現れては駅で徐霊行為をして世間を賑わせていた。


 そんなもんじゃあの女が消えるわけがないと富多子は分かっていた。


 そんないんちきまがいなことではあの女はただ鼻で笑ってその光景を眺めているだけだろう。


 この目で確かめたい。


 今、あの女は、いや、桜たちがどうなっているのか見てみたい。


 死に行く瞬間の人間の不自然な行動、動揺、命乞い、これは自分じゃないと思い込むあの魂の抜けたような顔。


ぞくぞくする。


 魂が肉体から離れゆくその瞬間。それを見ている方に訪れる性欲は経験した人にしか分からない。


 富多子は一度目を閉じて、自分を落ち着かせるように深く深呼吸をした。


 遅かれ早かれ、あの駅に行くことになる。


 導かれるように引き込まれて、あざみと会うことになるだろう。


 問題は、誰の死を見るかだ。


 全くの他人の死を見ても興奮は半減し、面白みがないことを彼女は知っていた。


 身近な人がいい。できればかなり身近な人。


 いなくなったら寂しくて毎日泣き崩れてしまうと思えるような人だ。


富多子は無意識に隣にいる大梯の顔を見た。


 テレビのニュースを観て顔をしかめているその横顔を、『この人がいなくなったら私はどうなる?』


 答えは簡単に降りてきた。


 そして、気づかれないように、にやりと口角を上げた。


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