【玉川富多子】7
その夜、大梯は悪夢にうなされて目を覚ました。
隣では富多子がすやすやと眠っている。幸せそうに眠っている富多子の顔を見たら少しだけ気分も落ち着いた。
額から流れる脂汗を腕で拭い、パシャマのズボンで拭く。
水を飲みに台所へ行くときも、富多子が起きないように気を付けながらベッドから抜け出して、そっとドアを開けた。
真っ暗な台所には外から入ってくる月明かり以外に明かりは無い。
ひんやりとする床を裸足で歩き、冷蔵庫を開けるが、その明るさに目を細めた。
麦茶を取り、グラスに注いで一気に飲み干した。
「っはーーー。うまい」
二杯目をグラスに入れてから冷蔵庫に麦茶を戻し、ダイニングテーブルに座って麦茶に口をつけた。
しんと静まりかえった部屋は、電化製品が動いている電気音しか聞こえない。
蛇口が少し緩んでいたのか、水道の水がピチャンと落ちて、そこに目を向けると黒い影がすっと通りすぎた。
何かがいる。この部屋に得体のしれない何かがいる気配を感じて、そこに意識を集中させる。
見てはいけない物を見たことにドキンと跳ねた心臓を抑え、残りの麦茶を飲み干すとすぐに寝室へ戻った。
富多子は相変わらず安心しきったように寝息を立てていて、そっと布団に入り込んで額にかかっている髪の毛を耳にかけてやった。
んー......と鼻から抜ける声を出して、無意識に抱きついた。
布団を頭からかけて、二人で布団の中で抱き合った。
人のぬくもりは温かい。
肌はすべすべしていて柔らかく滑らかで、髪の毛はほどよく冷たくてつるつるしている。
大梯は一度ぶるりと震えたが、温もりにくるまれるように暖かさを体に感じながらゆっくりと眠りに落ちていった。
台所では黒い影がゆらりゆらりと揺れていて、それに合わせて蛇口から水滴がポタリポタリと落ちる。
部屋中を一周回ると、寝室の前で立ち止まり、しばらくそうしてから玄関からすり抜けて外へ出ていった。
水滴はぴたりと止み、月明かりに照らされたシルバーの蛇口が不気味に光輝いていて、テーブルに置きっぱなしのグラスには大梯のものじゃない指のあとがくっきりと浮き出ていた。
テーブルの上や下にはところどころ水が落ちたような跡が残っていた。




