【富多子】
「どうしたの? 浮かない顔して。なんかあったなら話聞くよ」
あざみはホーム上に設置されているベンチに座り、隣にいる痩せこけた女子高生に話しかけた。
「もう...ダメかもしれないんです私」
「何かあった? 言ってみて。楽になるとおもうけどな」
「実は...」
ぽつりぽつりと話し始める女子高生は、自分が部活内でいじめにあっていることを告白した。
テニス部に所属している彼女は浅黒く締まった体をしている。
見た感じいじめられるようなタイプではない。その逆で、誰からも好かれるような容姿を持っているように見える。
部室内で彼女のラケットやシューズが頻繁に無くなったりゴミ箱に入れられるようになったのは最近の出来事だ。
最初は何かの間違いかなんかだろうと気にも止めていなかったが、毎日のように重なって起きると、さすがにこれは気のせいなんかじゃないと思うようになったが、ついに昨日、決定的な言葉を耳にしてしまったということだ。
「富多子を仲間はずれにして、今後の試合にも出さないことにしようって部員全員が話してた」
「富多子ちゃんはそれを聞いて何か言ったの?」
「言えないよ。だって部室の外で聞いちゃったんだもん。怖くて、何も聞けないし」
「なんでそうなったか、覚えは無いわけ?」
「……」
「で、今この時間にいるってことは、今日は部活は休んだってことだ?」
「そう。行けなくて。だってもうどうしたらいいのか分かんないし。どうしよう。これからどうしたらいいんだろう。私何かした? ぜんぜん分からない」
顔を両手で覆い、うわっと泣き出した富多子にあざみは骨のように白いハンカチを差し出した。
子供の頃から続けているし、テニスが好きだから辞めたくない。
でも、こんな状態じゃ怖くて部活なんて行けないし、学校にだって行きたくないと言った。