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*:・'°☆新しい獲物

 あれから2年が経っていた。


 あのおぞましい事件の記憶は世間の人々の記憶から薄れていったけれど、あの駅だけは変わらない。


 周辺の学生の間では黒い噂話がはびこり、それに尾びれ背びれがついて都市伝説のようになって回っていた。


 例えばこんなことだ。


 終電間際に一人であのホームに行ってはならない。


 ホームの下、それからホームの最後方へ一人で行ってはならない。


 線路の枕木の間に紫陽花を見つけたら、すぐに引き返して駅を出ること。


 そんな半分真実な噂話が独り歩きをして、事件後には誰も寄り付かなかった駅だけれど、それも時間とともに薄れていき、そんな事件があったことすら知らない人も多くなった。


 あざみはいつも通り、無表情で線路の真ん中に立っている。


 白目をむいて口を半開きにしてよだらを垂らしながら、ホーム上の人々をじっと眺めていた。


 時折自分から発せられる死臭に顔をしかめる人々を見ては、満足そうな笑みを浮かべ、真っ赤な舌を顎まで垂れ出して、口元を一周舐め回した。


 足元には紫色の紫陽花が咲き乱れ、つたはあざみの膝あたりまできつく巻き付いていた。


 風になびかない髪の毛はじっとりと濡れ、黒々と光っている。ぱっくり割れた頭から流れ出た血が凝固したものだろう。


 夕方4時になるとどこからともなく現れて、終電が終わるとどこかへ消えていく。


 相変わらず無数の亡霊たちは電車がホームに入るたびに手を伸ばし、ホームを歩いている人々の足首を掴もうとしている。


 ひとりでも多く、こちらの世界に引きずり込もうと、この世への未練、怨み、妬み、嫉妬などを隠すことなく押し出していた。



「今日も来なかった。今日じゃないのね。ふふ、明日なのかしら。楽しみ」


 あざみが誰に言うとでもなく発した言葉は、誰の耳に入ることなく宙を抜けた。


 ホームの電気が消えると、それに合わせるようにあざみもまたどこかへ消えていく。


 終電か終わったあとのホームは冷たくて寒い。


 駅員が掃除をしに毎日のようにホームを端から端まで歩くが、その左手首には数珠が巻かれている。


 そして、もちろん黄色い線より外側へは行かない。


 そんな駅員を面白そうに眺めながら、背後をついて回るあざみの顔には笑顔が浮かんでいるが、歩き方はぎこちなく、遅い。


 身体中の骨があり得ない方向に曲がっているせいだろう。


 落ちそうになる目玉を目の奥に押し込み、腐り落ちていく顔の肉を抑えながら歩いていく。


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