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最期4

「用賀……たすけ……て」

「ねぇ、桜ちゃん。だから用賀は私の彼氏だってことがまだ分からない?」

 

 ホームの下に吸い込まれていった用賀を見て桜がすがる思いで声を出したが、それは虚しく打ち破られた。




「ホームに電車が入る時になんで警笛を鳴らすか知ってる?」





「……やめて。死にたくないよお……」


「鳴らしたり鳴らさなかったりするでしょう?」


「やめてよぉぉぉ……ぉぉぉぉぉおねがいだからぁぁぁぁ」


「見えてるんだよ、ちゃあーんと」

 

 

 桜の耳にかすかに届く警笛音。

 

 しっかり聞こえるあざみの声。

 

 なんとか四つん這いになった目の前には、

 

 真っ青な紫陽花が咲いている。

 

 不自然な咲き方をする紫陽花に見入る。


「黄色い線がなんであんなところにあるか、分かる? 別にあの位置じゃなくてもいいと思わない? そうでしょ?」


 

 紫陽花は凍るように青さを増し、電車が入ってくる風が届いているのに、びくりともしない。花びら一枚、揺らさない。落とさない。



「ちゃんと意味があるんだよ」


 

 瞬きするのも忘れるほどに、青い色に惹きつけられる。

 

 すぐ横には避難場所がある。

 

 そこに行けば助かるんだと頭では思うが体は動かないし、動こうとしない。





「それはねえぇぇぇぇ……くくくく」




 警笛が間近で聞こえて意識が戻った。

 重い体をなんとか起こし、這って、避難場所へと向かう。

 

 手足は恐怖に勝てず、左右に大きく震えているためなかなか思うように動かないから腹が立つ。

 

 歯ががちがちと鳴り、声にならない声が自分から発せられている。

 

 両腕が線路から出たところで、雷に打たれたような衝撃が全身に走った。

 

 そこに行けない。

 

 行きたくても行くことが出来ない。


 もう体は動かない。

 

 避難場所の中には、

 

 体を丸くして小さくなって座り、目だけをを見開いて待ち構えるようにこっちを見ている無数の目。

 

 タイラの姿もそこにあった。

 

 もちろん笑顔は無く、無表情で桜のことを見ている。

 

『タイラ』と呼んでも、答えることは無い。

 

 呼ばれていることすら分かっていない。

 

 腹の底からそこしれぬ恐怖が沸き上がり、子宮がぎゅーっと収縮した。





「黄色い線の下にはね」





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