最期2
「こっちにおいでよ」
「やだ……行きたくない」
「そうだね、私もね、そう思ったよ。今の桜ちゃんよ心境そのまーんま」
「だから、ごめんあざみ、本当にごめん! ごめんごめんごめん!」
「ダメだよ遅い。許さない。ううん、許せない。今までに桜ちゃんが言ったことば、ぜーんぶそっくり返してあげる」
「お願いだから。それに、私だって本気で言ったわけじゃないしっ! 私関係ないしっ! タイラだよ! タイラが全て悪い!」
「大丈夫。そんなこともう気にもしてないから。それに、タイラちゃんのことそんな風に言っちゃ、可哀想だよお。そこに、いるんだから」
「……」
「あなただけ一人そこに残っているのは、許せない。だからこっちに来て。みんないるよ。みんな待ってる。みんな、アンタヲユルシテイナイ」
電車が駅に入る音が聞こえてきた。まだ遠いけれど、振動は耳から足元から伝わってくる。
生暖かい風がその辺一体を取り囲んだ。
舐めるような風は、気持ちが悪い。
目の前には黄色い線が迫る。
体中の力をこめて後ろに下がろうとした。努力した。全身全霊てそれを拒否した。
「あざみ!」
枕木の間には無数の紫陽花が咲きほこり、その紫陽花の一部になったように、あざみが不気味に揺れながら立っている。
その横には、
高津用賀の姿。
「用賀……」
言葉を発しない用賀はあざみと同じように左右に体を揺らしながら、うつろな目で桜を見つめていた。
「用賀! 助けて! 用賀!」
響き渡る桜の声に、ようやく用賀が微かに反応した。
真っ白かった目に黒目が浮かび、瞬きをひとつ。
ぎこちない動きで油の切れた機械のように、顔をぎしぎしと音をたてて曲げ、桜の方に顔を向けた。
曲げた首からは黒い液体が流れ落ち、目からは真っ赤な血が流れていて、口からは唾液が垂れ流しになり、歯が折れて無くなり、押さえるものがなくなった唇は、口の中に入り込んでいる
「用賀! 助けてお願い!」
「さくら?」
「体が動かない! 行きたくない! 助けて助けて助けて助けてたす、」
「ぜぜぜぜぜ全部おまえのせいだ」
用賀の顔つきが変わった。
頭のてっぺんから真っ黒く焦げ始め、髪の毛が焼ける臭いがして、頭の肉が削げ始めた。
鼻や頬の肉を落としながら手を伸ばし、不自然に曲がった足をひきずるように歩き、ホームの下に群がるたくさんの黒い人の影を押し退けて近づいてくる。
既に高津用賀の顔には感情が無い。
桜を殺すという、一つのことにしか頭にない。
桜の足首を掴もうと必死で手を伸ばしている。
あざみから奪い取って自分の彼氏にした高津用賀のそんな姿にショックを隠しきれない。
絶望。
「……用賀、そんな」
涙が頬をつたい、顎先から服に落ちた。体が震えて何もできない。




