【さがしもの6】新町 桜
『桜ちゃんが苦しむのはあんたのせいだからね』
富多子の耳にあざみの声が届く。
『これ以上邪魔をしたら、あんたも、どうなっても知らないよ』
「わたし……」
アナウンスが入る。
____電車が通過します____
「桜ちゃん」
声のした方、線路に目を向けると、あざみが笑って立っているが目は笑っていない。
「こっち」
両手を差し出すあざみに恐怖を覚え、首を振った。
「来て」
あざみの顔から笑みが消え、伸ばした両手の肉がずるりと剥け落ち、白い骨が見え始めた。
「やめて」
震える声で言いながら顔を振るが、視線はそこから外れない。
「……ほら」
崩れ落ちる顔の肉、肩から腕がすっぽりと抜け、落ちた腕は線路上に転がり左右に揺れている。
死臭が漂う。
気持ちが悪く、体が強ばり力が入る。足は震え、脂汗が舐めるように全身をつたう。
あざみの足下には未だに消えることなく紫陽花が咲いている。
桜の体は意志とはうらはらなことを繰り返す。
雨が強くなってきた。
冷たい風がホームを上下左右に踊りながら吹き抜ける。
「桜ちゃん」
桜の真横には、笑っているあざみが立っていた。
「だってあんたさっきそこで、え、もう、なに」
何がどうなっているのかすら分からない。
脳は思考をストップさせ、線路に向かって勝手に歩く足はもはや止めようがない。
無理だ。




