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【2-4】新町 桜

「なによ」

「やっぱりなんでもないです」

「なんなの? 気持ち悪いことしてないで言いなさい」

「ここには来ない方がいいと思いま……ひゃっ」

「どうしたの?」

 

 横に1、2歩飛ばされる格好になった女子は、なんでもありませんと下を向いた。


「だれなのあんた? ここで何があったか知ってるなら教えて。確かにタイラは私の友人で、今ぜんぜん連絡がつかない。何してるのか誰も知らないの。もしかしてここでタイラに何かあったのなら、どうしてそうなったのか教えて欲しい。お願い」


「あ……そうですかそこまでは……はい」


 一呼吸おいて、


「私は……私の名前は……富多子です。ええと……」

 

 誰もいない方を見て話し始める態度に気味の悪さを感じるも、タイラとの経緯を少しずつ話し始めた富多子に桜の顔が徐々に歪んだ。


 やはりここで死んだのはタイラだったと言った。


「じゃぁ、やっぱり確実に落ちたのはタイラなんだね。間違いじゃないんだね」

「はい」

 

 線路に目を向ける。

 

 枕木の間には砂利と紙くずが落ちている以外他には何も見当たらない。

 

 何も無い。

 

 なんで? どうしてタイラがそうなったの? 線路を見ながら考える桜の耳にアナウンスが入る。


 富多子が後ずさる。桜はベンチの方まで戻り、そこに腰掛けた。汗が頬をつたい顎にたまり、落ちる。

 

 電車が速度を落としてゆっくりと駅に入って来た。


 警笛は鳴らさなかった。


「桜さん……電車、乗らないんですか?」

「え? あ、あぁ。そうか、電車」

 

 ドアが閉まる合図が聞こえると、思い出したように腰を上げて足早に電車に乗り込んだ。

 


 ちょっと待って。

 


 なんであの子、私の名前知ってたの? しかも私、別にこの電車に乗らなくても良かったんじゃない? 取り立てて向かう場所もないし、そもそもがこの駅に用事があって来たわけだ。

 

 遅い。

 

 電車が動き出してからその疑問にぶち当たるが、既に降りることは出来ない。

 

 ベンチの横に立っている富多子は相変わらず下を向いたままで顔が見えない。  

 電車が通過した後、富多子はのんびりと顔を上げた。


 その顔にはぬめっとした笑顔。



「桜さん、よかったですね。今日じゃなくて」

 

 独り言のようで、そうではない。見えない誰かと話をしているようにすら見える。


「いつなんですかそれって? はい? まだ分からない? はぁ、そうですか。え? 見たいかって? あぁ……はぁ……そりゃぁ」



『一回見ると癖になるでしょ? 今度はどうやって料理しようか。あなたのこと、私好きだからまた見せてあげるね』


 

 声は富多子にしか聞こえない。

 自分の内側から発せられる声なのか、はたまたそこに誰かがいて何かを言っているのか。

 

 富多子のとろんとした笑みだけがそれに答えてくれる。

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