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【2-3】新町 桜

 階段を上がり、ホーム上に出る。生暖かい風が桜を頭から包み込む。深呼吸し、一歩前へ蹴り出す。

 

 ベンチには誰もいない。

 誰も座っていないけど何かがいそうな気配がした。注意深く周りを確認するが、桜以外他に人はいなかった。

 

 線路の方へ足を向ける。

 茶色い枕木が永遠と続く。カゲロウが立ち始める茶色いレールを見ていると、あの時の記憶が鮮明に思い出された。

 

 ここできっとタイラが死んだ。たぶん、そうだ。用賀もここで死んだ。繋がっている。これは偶然なんかじゃない。


 あいつの復讐だ。だから、やられるなら次は私だ。

 

 半ば確信している桜は恐怖よりも怒りの感情の方が大きく心を支配していた。


「来るなら来てみろっていうのよ。ふざけるな! なんならもう一回同じ目にあわせてやる」

 

 こぶしを握りしめながらホームのぎりぎりのところまで歩き、下を見た。

 

 タイラの残した何かが見つかるかと思ったが、そこには何もなかった。

 

 きっと長いトングのようなもので、機械的にタイラの肉片はゴミ袋に入れられて業者の元へ運ばれたのだろう。

 

 でも、ここにはタイラと用賀の血肉がかすかにでも残っているはずだ。

 

 同じ場所だったら、混ざっているかもしれない。

 

 その拾われなかった血肉は、この土の中に吸収されて、もしかしたら体液や脂肪などは溶け込んで染みついているかもしれない。

 

 小さくてもいい、ここにいた証拠が何かが見つかるかも知れないと思い、目を懲らしてよく見た。

 

 しかし、やはり何も見つけることは出来なかった。


 後ろでにこやかに笑って立っている女が二人いることになど、線路に気を取られていた桜は気付くことがなかった。


「なに……してるんですか?」

 

 不意に聞こえた声に振り返る桜は、そこに鞄を胸の前で抱えた浅黒い肌の色の女の子が立っていることに気付いた。


「だれ?」

「……」

「何? 何か用?」

「離れたほうがいいと思いますよ」

「なんでよ」

「そこは、危ないから」

「あんた……なんか知ってるわけ?」

「その……タイラさんの友人ですよね?」

 

 タイラのことを知っていると言ったこの女子は、タイラがここから飛び込む様子を一部始終見ていたと言った。

 

 なんで助けなかったのかと桜がまくしたてると、硬く口を閉ざし下を向いたまま黙ってしまった。

 

 それ以降、桜の問いかけに答えることもなく、首を縦や横に振るだけで、視線も合わせようとしなかった。


「だって」

 

 ちらりと自分の後ろを振り返る。

 桜も目を動かすが、そこには誰もいない。

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