【2-2】新町 桜
若い女性というワードに桜の心臓が跳ねた。
まさかという思いが全身に走る。
もちろん名前は書かれていないが、見覚えのあるホームなのは、確かだ。
カウンターに音を立てて置いたコーヒーカップからコーヒーが跳ねて、カウンターの上に茶色い水たまりを作った。
「店長これって」
震える手で新聞を持つ桜は、記事を読みながら他の、別のことを考えた。
「何? どうしたの? なんでそんな震えてるわけ? なんかあった?」
手を休めることなく傍らで桜の呼びかけに答える。
「これって、この駅ってなさかあの」
「どれ?」
「これ。ここってさ」
「……ああ」
無言になる桜の目の前には店長の顔。気になって手を休めて桜の前に両手をついた店長は桜の目をじっと見た。
「これ、まさかと思うけど、知ってる?」
「あぁ、最近ここ多いんだよな。ここなんかの曰く付きなんかじゃないの? それがどうした?」
「タイラ、ちゃんとバイト来てる?」
店長の顔が曇り、眉の間に皺が入る。
「まさかこれが? とか思ってねーよな? 確かにタイラちゃん無断欠勤だけど。電話しても出ないし、実家にも帰ってないみたいでちょっと問題になってるのは確か。お前が来た時にでも聞いてみようかって思ってたとこだったんだよ」
「やっぱり。なんかおかしいと思ったんだ。もしかしたらこれって、やはり……」
「おいちょっと待てって」
「そういうことなんだよ、やっぱりきっとそうだ。これ……」
「まさかお前……考えすぎんなって」
これ、タイラだ。絶対これタイラのことだ。
という桜の直感は当たっているが、まだこの時点では確証は持てなかった。
証拠がつかめないし憶測でそうは考えたくなかったということもある。
「私、行ってくる」
コーヒーを一気に飲み干すと、
止める店長の手をかわし、桜は店を飛び出した。後ろで店長が何か叫んでいるが、桜の耳には雑音にしか聞こえない。
熱い空気がそこらじゅうに漂い、風の流れに乗って自由に泳いでいる。
道路の片隅に無残に転がされた黒猫の残骸のようなものに桜はびくりとして足を止める。
遠くからじゃ分からない。恐る恐る近づき確認するが、それはただの黒い服のかたまりだった。
よかった。胸を撫で下ろす桜はそのまま向かう。
例の駅へと。みんなが死んで行く、あの駅へと走った。
昼間の駅に人がいないなんてことはありえないんだけど、今日に限っては誰もいない。
うるさく鳴く蝉の声とじりじりと焼け付き始める太陽に温められるアスファルト。
駅構内は静かで、そこだけ現実から突き放されたように冷たい。定期で改札を抜け、あのベンチへと向かう。
目の前にはあの墓地の絵の看板があるはずだ。
たぶん、そこだ。




