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【2-6】富多子

 恐怖だ。     

 黄色い線の外側に視線は固定され、その先、線路の間にあざみの笑う顔を見た。

 肩を落として背中を丸めて立っているあざみの髪は、なびかない。 顔には綺麗な笑顔。


 警笛が連続して鳴らされてうっとうしい。機械的なアナウンスが入る。


 すぐそこ、数メートルのところに、冷たくて重たい鉄の棺桶、もしくは棺桶が入る巨大な焼却炉が迫ってきている。そんな電車よりも恐ろしいものが宮前タイラの目の前にある。


 


 今まで遠くにいたあざみがタイラのすぐ後ろ、耳元で囁いた。




「つまんない。やっぱ快速じゃないほうがよかったかな」


 


 その声が宮前タイラが聞くことになる最後の言葉となった。


 

 彼女が最後に見たモノ、それは……




 殺人鬼のような電車の顔、それと、十字を切る運転士の姿だった。


 自分の発狂しているこえは自分にしか聞こえない。恐怖に目をひんむき、鼻水を垂れ、顔に食い込ませた爪は頬の肉をえぐりこんだ。


 線路に引きずられるように落ち行く宮前タイラの白いワンピースは、経帷子きょうかたびらに見えた。




『ぜんぜん違う。私が求めているのはこれじゃない』


 


 あざみはタイラをひきつぶして数十メートル引きずり急停車した電車の下で、ぶつ切りになって動かなくなった宮前タイラの腹辺りの赤と白の混じったまだ温かみのある肉の塊を掴み、手の中で弄ぶ。



『うん、違う。これじゃない。こんなんじゃない。私が求めているのはこうもっと違う、そう、違う誰かだ』


 手の中で弄んでいた肉の塊を握り潰すと、真新しく温いべとつく脂をしたたらせた肉を、当然のように口の中に放り込み、人の脂でぎとついた手のひらを真っ赤な舌でべろりと舐めた。

 

 真っ赤な鮮血を止めどなく溢れさせるタイラの肉の塊は、黒い亡霊に喰いつくされ、流れ出た血は迷うこと無く真っ青な紫陽花の根元にたどり着いた。


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