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【2-4】富多子

「さぁ。こっちへ来て」

 

 真面目な顔をするあざみに、真っ白な顔になる宮前タイラはいつの間にかあざみのとなりに座るかたちとなった。


「久しぶりだねタイラちゃん、どう? あれから元気にしてた?」

「ああああああんたどうしてここに? だってそんな」

「ふふ。タイラちゃんを待ってたんだよ。いつかきっとここに来るって分かってたから。来てくれるって、思ってた」

 

 真っ青に変わったタイラの唇は、先ほどまでグロスで輝いていた輝きは跡形もない。


「長かったなぁ。今日まで。指折り数えてたんだよお。会える日を。今日までどのくらいかかったんだろう。よおく覚えてないけど、けっこう待ったよお」

「嘘でしょ。やめてよ」

 

 逃げようにもあざみはしっかりとタイラの手を取っているので逃げることが出来ない。あざみの手の冷たさが、存在しない物だということを証明しているようだ。


「どういうのがいいかな?」

「なにが」声が震えている。

「うーん、そうだなぁ、一気に逝くのがいい? それともそうだな、同じように苦しんでみる?」

「何言ってるの」


「半分になるってのもいいね。あ、頭だけ落とすってのもいいかもしれないね」


「……無……理……やややややめてよ、だってあんたあんたあんた」


 恐怖に声が震えている。


「そうかぁ、いやなのかあ。んー、じゃぁ」

 

 あざみはおもむろに立ち上がると伝言掲示板に目を向ける。


「ほら見て。快速が来るから」

 

 くるりと振り返り、宮前タイラの顔を見てにっこりと笑う。


「よかったねタイラちゃん。一気に逝けるパターンみたい」

 

 宮前タイラは富多子の方に顔を向けるが、未だその場に立ちすくみ、鞄を抱えたまま下を向き続けている。

 

 あざみの方に目を向けたとき、やはり彼女はそこにいなかった。


 


 宮前タイラが見たものは……




線路、枕木の間に不自然に咲いた真っ青な紫陽花が一つ。


 風が吹いているのに揺れ動くことなく、そこにじっと咲き続けていた。アナウンスが入る。



『快速列車が通過しますのでご注意下さい』


 

 宮前タイラはすっと立ち上がり、一歩一歩前へ歩く。

 

 彼女は首を振り、嫌だ……嫌だ……と言葉を口に出そうとするが、口から声が出ることはなく、動かすことすらも出来ない。

 

 叫びたいが無情にも声は出てこない。

 心の中、いや頭の中で叫んでいても決して外には聞えない。

 

 力を込めて勝手に動く体を止めようとするが、足はどんどん黄色い線の方へと吸い寄せられていく。 

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