【2-2】富多子
「でもどうやって?」
にこりと笑ったあざみはおもむろに視線を移した。
あざみが向いた方に顔を向けると、そこには墓地の案内の看板。
一度下を向いて目を閉じ、深呼吸をする。
見上げた先には『遊楽霊園』の看板。
どうして看板を見たのか、富多子には分からない。
「あの、ええと」
既にベンチには富多子以外誰もいない。
あざみの姿は忽然と消え、暑苦しい空気だけがそこに残されていた。
『ほら、来た』
どこからともなく風に乗って聞こえてきた声はあざみの声だ。
「来たって、誰がですか」
思い切り立ち上がったけど、望む人の姿はない。
全身に鳥肌が立ち、唾を飲む。
軽快に階段を上ってくるハイヒールの音が聞こえる。背筋を伸ばし、膝の上に乗せている鞄をぎゅっと掴む。緊張が体中を走った。
ハイヒールの音はどんどん大きくなり、楽しむような音色を奏でる。今からこっちへ来る人物を心の中では『来ないでくれ』と願う。
顔が見えた。
サングラスをしてはいるが、誰だか分かる。
宮前タイラだ。
真っ白いワンピースにグリーンのハイヒールは夏によく映える。
にっこりと笑いながら綺麗に巻いた髪の毛を揺らしながら富多子の所へと歩いてくる。ほんの少しの距離なんだけど、富多子にはそれがとてつも長い距離に思えてならない。
笑っている口元は輝いていた。サングラスで目は見えないが、意地悪に光っているのも手に取るように分かった。
「こんにちは」
宮前タイラは何事もなかったように、にこやかに挨拶した。
「……こんにちは」
小さな声は周りの雑踏に揉み消された。
「はい? 何て言ったの? 聞こえないんだけど」
綺麗に手入れのされた髪を耳にかけて、意地悪な笑みを口元に浮かべている。
タイラは鼻で笑うとベンチに雑に腰をかけ、持っているポーチからタバコを取りだした。
「で、なんでこんなとこに呼び出したわけ? お金の用意が出来たってことなら何もこんなところでなくてもいいでしょう? この暑い中来たんだから、さっさとして」
横で立ちすくんでいる富多子に向けて煙を吹き掛けてにっと唇を引いた。
富多子は顔を少しだけしかめるが、そこから動かない。動けない。




