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【1-3】高津用賀

一人じゃ怖いので猫を抱き抱えて一緒に連れて行こうと猫に一歩近づいたとたん、猫は踵を返し、桜の手の間をするりとすり抜けて台所のシンクの上へと飛び乗った。


 後ろに何かがいる気配がする。

 何か不気味で気持ちの悪く怖いものだ。寒気が走る。

 振り返ることが出来ず、ただただ動きを止めて息を飲むしかない。


 どろりとした脂汗が体中から流れてきた。足の裏や手のひらにまで汗が滴ってきて、むず痒い、そんな気分になる。エアコンが効いている部屋なのに、今はとても蒸し暑い。


 頭皮から流れ落ちる汗はこめかみを通り、ゆっくりと頬をつたい、首元を舐めるようにくすぐり胸の谷間へと流れて行く。

 

 猫は台所の窓の隙間からするりとすり抜け外へ逃げてしまった。


 首の後ろに柔らかいストールのような肌触りの良いものが、するりと触れた瞬間、桜は振り向きもせずに部屋を飛び出した。


1DKの部屋はベッドルームを抜ければ台所だ。


 台所の窓の少し開けているところからすり抜けて外へ逃げた猫のようには逃げられない。


 サンダルを履いて、玄関のドアに手をかける。

 回らない。

 何度試しても、回らない。

 がちゃがちゃと音を立てて押しても引いてもびくりとも動かない。


 台所の窓を見た。


 猫だったら抜けられるがやはり人間には無理だ。


 後ろから何かを引きずりながら近づいてくる音が聞こえる。

 低いうなり声と共に、ぼとぼとと肉の塊のようなものが床に落ちる音も聞こえてきた。


 声が出ない。

 玄関のドアを思い切り蹴っ飛ばした。


 開け! 開け! 開け! 開け! 開け! 


 呪文のように唱えてみるが、ドアはびくともしない。


 後ろからはずるずると重たいものを引きずる音とそれに伴って滴り落ちる液体の音も止むことなく耳に届く。


 胃の辺りがくすぐられ、腹の奥がじゅんと音を立てて内側へと引っ張られる嫌な気持ちが入り込んできた。


 お願い! 開いて! 開いて! 開いて! 開いて! 


 開け!!

 渾身の力を込めてドアに体当たりする。

 後ろを振り向けないけれど、すぐ後ろにナニかがいるのが分かる。


 耳元に生暖かい呼吸音が聞こえ、食物が腐ったようないらいらする臭いが鼻の奥に届いた。



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