黄色い線の内側までお下がりください
【黄色い線の内側までお下がり下さい】
鋭利なシャベルで肉を削ぎ取られる。もしくは無数の剣山を体中に深く突き刺され、上下左右にごりごりとこすられる感覚に似ている。
水風船が割れたように血液と体液と内蔵は四方八方へ飛び散る。
肉の一部は血と皮膚と脂と一緒に電車の下にこびりつき、ホームの下や場合によってはホームの上へと飛び散る。
毛髪は車輪や枕木の間に絡まり、ゴムのように伸びてまとわりつく。
土に染み込んだ血液や、細切れになった肉を完全に回収することは不可能に近い。
線路上に生きた動物や鳥がいる時があるだろう。
それは土に染み込んでいる腐った血肉の臭いに引き寄せられて来ているわけだ。それから、轢かれた場所の骨がごりごりと削られる音が聞こえ、最後には、何かがばきりと折れる。
何かは、そう、今になっても分からない。
そんな感じだ。
別に大したことじゃない。
血の気の引いた唇のように真っ青な紫陽花が一つ、枕木の間に不自然に咲いているのが見えたら、次はあなたの番だ。
どんなに血の雨が降ろうとも、残念ながら血の雨に虹は咲かない。
その代わりに、人々の恐怖と好奇心と欲情からくるどよめきとざわめきが入り交じり、死体を見たいという好奇心、周りの目を気にしてその気持ちを抑える。
下腹部は疼き、胸をくすぐるなんともいえない人間としての恥ずかしい部分が、その場に花を咲かせるだろう。
その好奇心に取り憑かれると、抜け出せなくなる。
あいつのように。
さて、無駄話はこの辺にして、そろそろ本題に入ろうか。