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誰にでも書ける? なろうで成功する異世界転生ものとは

作者: 勇樹のぞみ

 ニートの俺が異世界トリップ、チートな力をもらって俺tuee。

 チョロインたちによる露骨な主人公age周囲sage。


 こういった作品がなろうでヒットし、出版され実際に売れるのは何故か。

 それを考察し、成功に至るまでの前提と手法をまとめてみました。



■商売が成り立つのは『安価×マス』か『高価×ニッチ』

 前提として採算が取れる商売というのは、


・安価でも多くの顧客、マスな層に売れるもの。

・顧客が限定されるニッチなものだが、高い値段で売れるもの。


 のいずれかです(例外はありますが)

 ニッチ向けの商売は単価が高くても買ってくれる顧客が居ることが前提。

 一方、文庫本という安価な商品形態を取ることが決まっていて単価が上げられないラノベでは、マス向けのものしか商売が成り立たないということになります。


 なお、よくラノベの新人賞ではユニークな作品を求めていますが、ユニークであることとニッチであることは違います。

 求められているのは、ユニークであり、かつマスに受けるものです。

 ユニークさを追求していくとどうしてもニッチになりがちですが、それは少なくとも新人賞の選考を行う編集者から求められているものではありません。



■読者層の分析

 通勤通学電車やバス、あるいは学校の昼休みや休憩時間、周囲を観察してみてください。

 ラノベを読んでいる人はどれだけ居ますか?

 みんなスマホを見てはいないでしょうか。

 そして、とある調査では電車内でスマホを見ている人の半数がゲームをし、残りの半数がLINEやTwitterなどのSNSをしているという結果が出ています。



■スマホで暇つぶしをしているマスな層を顧客にする

 電車やバスの車両に、あるいは教室に一人居るか居ないかのラノベを読んでいる少数の層より、スマホでゲームやSNSをしている大多数に売る方が、圧倒的に多くの顧客を得ることができます。

 ソシャゲの市場規模は今やコンシューマー以上。

 そのソシャゲの代わりの暇つぶしのネタとして読んでもらう。

 それが仮定されるなろう小説のビジネスモデルです。



■スマホで読んでもらうには

 読者はLINEの返事が来るまでの待ち時間など、わずかな隙間時間を使って読むのです。

 じっくりと読まなければ頭に入ってこないような重い文章は受け付けてくれません。

 スマホ画面でも読みやすい改行、行空け、軽い文章、一話ごとにオチが付き、暇な時にさっと読めるなどの工夫はやって当たり前の基本。


 これをやると通常のラノベを好むファンからは、スカスカな文章、内容が無い、稚拙だなどといった批判を受けることがありますが、気にしてはいけません。

 やるなら一昔前に流行したケータイ小説並にユーザーに合わせたカスタマイズをすべきです。

 マーケティング対象以外からはどこが良いのか分からない、叩かれるくらいが良いでしょう。

 叩かれるということは、話題に挙がる、ネットを通じて拡散するということ。

 そしてどんなに叩かれても実際になろう小説が売れているという事実は覆せないわけですから。


 ニッチに特化しても商売になりませんが、ソシャゲのプレーヤーはマスな存在なので特化しても問題ありません。


 ソシャゲと同じくらいスマホでLINE、Twitterをしている人が居るのも無視できないですね。

 話題になるようなキャッチーでけれんみの効いた作品づくりを心がけ、作品の評判がLINEやTwitterで拡散するようにできると良いでしょう。



■主人公はどうして元ニート、引きこもり、ブラック企業勤めの中年リーマンばかりなのか

 なぜ、異世界転生する主人公たちはこれらマイナスの属性を持っているのか。

「書き手がそうだから、その投影だ」「読むやつがそうなんだろ」と言う人も居ますが、それは違います。


 なろう小説のビジネスモデルは、スマホのソシャゲで暇をつぶしている方々に、ソシャゲに代わる暇つぶしの材料として消費してもらうことです。

 それではソシャゲのプレーヤーが望んでいるものとは何でしょうか。

 ソシャゲの内情について書かれた漫画を参考に読んでみます。


「でもダメです。

 これはソーシャルの企画じゃありません。

 これは、常にうまい人が勝つゲームですね。

 ソーシャルで勝つ人は課金をした人か、長時間プレイした人のどちらかでなくてはなりません。

 長く時間をかけられない大人が、暇な学生や主婦に勝つために課金するのです」

「じゃあ暇な主婦が課金したら…」

「……無敵です!

 それでいいんです。

 私たちは「勝った」という体験エクスペリエンスを販売しているのです」

(中略)

 これは原作者・はまむらがソーシャルの企画をした時、実際に言われたセリフである。

(漫画『エロゲの太陽』より)


 この漫画では「ソシャゲの制作ってこんなに酷いこと考えてるんだぜ」と言いたいのでしょうが、ところがどっこいこれが現実。

 現実に商売として通用している訳です。

 ですからソシャゲのプレーヤーに読んでもらうには、ユーザーに『「勝った」という体験エクスペリエンス』を提供しなければならないのです。


 この『「勝った」という体験エクスペリエンス』を読者が受け取るためには、主人公は読み手が感情移入できる存在でなければなりません。

 主人公は物語の中で勝負にも恋愛にも勝利する訳ですが、それってつまり『勝ち組』ですよね。


『勝ち組』が主人公?

 おそらく「リア充死ね」と反発されるだけですね。

『勝ち組』が勝つのは当たり前のことで、現実世界を見ればゴロゴロと転がっている訳です。

 そんなものをわざわざゲームやネット小説で見たいという人は居ないでしょう。


 だから、主人公を元非リア充、『非リア』にしておく必要があるのです。

 これは判官贔屓、かわいそうな方を応援してしまう人間の心理をついたものでもあります。


 元『非リア』が『勝ち組』や『リア充』に勝つ、現実にはまずありえない逆転劇を描くことができるのが主人公が転生する異世界です。

 そしてこの下剋上を演出する上で効果的なのが、主人公に極端な属性を持たせることなのです。

『非リア』の象徴的なニート、引きこもり、ブラック企業勤めの中年リーマンといった属性を持つ主人公が、『勝ち組』に勝って見せるから、お話が際立つわけです。



■主人公はどうしてチート持ちばかりなのか

 主人公は元『非リア』です。

 つまり、どちらかと言えば弱者です。

 彼が『勝ち組』や『リア充』などといった強者を見返し勝つには読者を納得させる理由が必要です。


 ここで、弱かった主人公がこつこつと努力した末、力を身に着け強者に勝利するというようなスポ根的価値観は昭和の古いものと言わざるを得ないでしょう。

 ジャンプ漫画だって「しょせんは血筋か」と言われているように努力よりも、「主人公が特別な存在だから勝つ」というのが最近のトレンドです。


 また、音楽業界の統計では、楽曲のイントロは以前と比べてどんどん短くなってきているそうです。

 これはどういうことかと言うと、ネット上では長々とイントロを流しているとユーザーは待たずにさっさと別の楽曲やコンテンツに切り替えてしまうからです。


 読者が得たいのは、『非リア』な主人公が現実にはありえない逆転劇を演じること、『勝利』という『体験エクスペリエンス』です。

 なのに、読者を納得させるだけの修業を延々と描写していたらすぐに読むのを止めて別のコンテンツに切り替えてしまうでしょう。

 だから、チートでさくさくと話を進めるのです。



■何で最初から好感度MAXのチョロインばかりなの?

 同様に、ヒロインが主人公に惹かれていく過程を長々と描写していたら、さっさと他の話や別のコンテンツに切り替えられてしまいます。

 だから、ヒロインはあっという間に主人公に惚れるチョロインがいいのです。

 ソシャゲのヒロインたちも、そういうプレーヤーを全肯定してくれる存在ですからね。

 このソシャゲのヒロインたちをなろう向けにカスタマイズしたのが、露骨な主人公age周囲sageをするチョロインたちになります。



■なんで中世ファンタジーな異世界ばかりなの?

 同じことは世界描写にも言えることです。

 重厚な世界観を持つ独自の世界を語るなどといったことをしていると、読者はすぐに別へと行ってしまいます。

 だから、ゲームでおなじみの、説明の要らない中世ファンタジー世界が良いわけです。



■想定読者はスマホのソシャゲユーザー、だったら廃課金プレーヤーを主人公にしたら売れるんじゃね?

 そう思いがちですが、実はソシャゲのプレーヤーは約75パーセントが非課金であるという統計があります。

 残りも軽課金ユーザーが多く、そして一握りの重課金ユーザーがソシャゲを支えているそうです。

 なので、廃プレーヤーはあまり主人公には適していないでしょう。



■どうして異世界トリップものばかりか分かった。これに沿って書けば自分も出版デビューできる?

 ここまでで解説させて頂いたのは「どうしてなろうでは異世界トリップものばかりなのか」という疑問に対する考察です。

 そしてこれらの前提を踏まえて作っていない作品はまずランキングに上がらないためそもそも読んでもらえないのがなろうです。

 ですから、これを知らないことによってスタートラインにも立てないという事態は回避できるでしょう。


 ただし、ここで解説した前提に沿った作品は既に数多く書かれており過当競争、飽和状態にあります。

 そんな中で勝ち上がるには自分にしか書けない何らかのプラスアルファの価値を追加しなければならないということです。

 それが難しいから、みなさん苦労されている訳ですしね。

 ですので、これらなろう独特のお約束を踏まえた上で、独自の工夫をこらす。

 それが必要と思われます。



■成功への近道は?

 なろうのもう一つのトレンド、「婚約破棄」もので成功をつかんでいるあるお方が取った手法ですが、


・数話完結の試行版、いわゆるパイロット版をいくつも作る。

・このパイロット版は、それぞれ違った一つのネタを深く掘り下げた、読み手に深く刺さる内容で作る。

・完璧な文章やお話を目指すのではなく、ネタやアイディアで勝負してみる。

・これを「反響があれば連載化します」という触れ込み、あるいは「続きが気になり過ぎる!」というような終わらせ方で短期集中連載で公開する。

・いくつも試行して行けば、その中から「これだけは特に反響が大きかった」というものが出ますから、それを連載化します。

・既に反響があり読者が付いた状態でスタートするため、ランキングにも乗りやすく成功できる。


 ネット小説だからこそできる試行錯誤をもっとも効率よく行う方法ですね。

 大体、新しいことを試す場合、十個のアイディアの内一つでも当たれば御の字な訳で。

 そういった状況なのに一発逆転を目指して1話3千文字以上、一週間連続更新のため最低2万1千文字以上書き溜めてから、などと気合を入れて書くのはロスが大き過ぎるのです。

 一発で成功できれば良いのですが、大抵は失敗し疲労だけが残ることになります。

 ですから、なるべく時間や労力をかけずにアイディアを試します。

 試行版でも読者に刺さる内容であればそれなりに反響は出るので分かるものです。

 時間や労力をかけて仕上げるのはその後ですね。

 これが考えうる、成功への一番の近道と思われます。



 以上、今回はここまでです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] わかやすく、パパッと少ない時間で読めたので頭によく入りました。 ありがとうございました! [一言] パイロット版、少ない話数で勝負し上手く行けば連載という名の延長戦……うわぁ、完全に気付き…
2020/03/11 17:13 空色カーテン
[気になる点] 弱者が強者になって逆転する→まだ分かる 昔からよくある話だし しかし、何故どれも異世界で?  チート得ても、現代で無双する気はないのか? 
[良い点] 分かりやすかったです。 [気になる点] 妄想で無双して空しくならないのか? [一言] 人間は脳でストレスを和らげる生物です。 妄想で無双して、現実から目を背けるのも、いい生き方ダトオモイ…
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